エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

エンドレス・ロード 黄昏時 天命の刻にて

 フェニックシア大陸でのお話、地面が大きく割れてその光景は絶望的だった、隣にあったハズの足場は完全に分断され、眼下には雲海が。
「見ろ、2人が移動している! 向こうは揺れが収まったのか!?」
 リファリウスとリセリネアはそちら側にある例の建物のほうへと向かっていた。
「向こうはあそこしか頼れる場所がなさそうだな、たとえ中に入れなくても――」
 ヒュウガは何とかうずくまりつつも冷静にそう言った。 彼らも揺れが収まり次第、何とか向こう側に渡れる足場を探しながら例の建物へと向かった。

「リセネリアさん! リファリウス! どこにいる!」
 ガルヴィスらはリファリウスとリセネリアが行ったであろう建物の近くまで何とかたどり着くと、2人を探した。 しかし、返事がなかった。するとヒュウガが気が付いた。
「なあ、あの建物ってあんなに大きかったっけ?」
 例の不気味な建物が地震で地下の部分が隆起したようで、その外観はまさに神殿のようだった。
「あっ、あそこから中に入れそうだぞ!」
 シャディアスは入り口があることにすぐさま気が付いた、入り口は地下部分に隠れていたのか。

 とにかく彼らは2人を探すことにした。
「上だな」
「上ですね」
 神殿の中に入るや否や、カイトとシエーナは声をそろえてそれぞれそう言った。 確かに、ガルヴィスは神殿に入って確認すると、神殿の階層的に上か下か選ぶ必要がある作りのようだった。 内観もかなり不気味な感じを醸し出しており、黒々としていた。
 そして2人の言った通り、神殿の上の階へと進み、大扉の前へとやってきた。
「こっ、これは――」
 シエーナはいきなり頭を押さえ、その場でうずくまってしまった。
「シエーナさん、どうしたんだ?」
 ガルヴィスがどうしたか尋ねると、カイトのほうも――
「うっ、こんなことが――」
 うずくまってしまった。 しかし、ガルヴィス的にはそんなことを考えている場合ではなかった、そう、リセリネアが心配なんだ。 彼は大扉を開けようとした、すると――
「ダメだ! ガルヴィス! それ以上先へは進むな!」
「ガルヴィスさん!」
 2人はガルヴィスを止めようとしたが、ガルヴィスは引き下がるつもりなどなく、2人を振り切って中へと侵入した。すると、そこには――
「まさか、そんな――」
「これまでか――」
 そこには、リファリウスと見たことがない戦士がおり、それぞれそう言っていた――えっ、リセリネアはどうしたのだろうか。
 すると、リファリウスは背後の気配に気が付き、
「あ、ガルヴィスく――」
 そう言うと、その傍らにはリセリネアがぐったりと倒れて――
「リセネリアさん!?」
 ガルヴィスはリセリネアの傍らへと即座に歩み寄り、 そして、ものすごく泣いた、泣いて、泣いて、泣きじゃくった。 こんな、こんなことが、こんなことが許されてたまるものかと!
 すると再び、異様に大きな揺れが――
「……どうやら早いところ避難するとよさそうだな――」
 見慣れぬ戦士はそう言うと、いずこかへと消え去った。
「……ガルヴィス君、私らも早く行こう。」
 リファリウスは辛そうにそう言ってガルヴィスを促した。彼らは全員神殿を脱出したのである。

 神殿を脱出し、2つに分断された浮遊大陸自体が大きく傾くと、彼らは大陸を放棄して脱出せざるを得なかった。
 2つに別れた島は高度をゆっくりと落としながら、エンブリス近海に不時着した。 なんとか無事だった彼らはエンブリス島へと上陸、そして、フェニックシア大陸はその後、跡形もなく消え去った。
 そう、これがエンブリアでも非常に大きなインパクトを残した”フェニックシア大陸消失事件”である。

 だが問題はそのあとのことである。 ガルヴィスはリファリウスに向かって怒りをあらわにしていた、 それはリセリネアが倒れていたこと、死んでしまったことについての追及だった。
「貴様、どういうことだか説明してもらおうか!」
「……ガルヴィス君、何といえばいいだろうか、リセリネアさんは――」
「能書きは要らん! 貴様がついておきながら!  何故だ、何故こんなことになった! さっきのやつは何者なんだ!」
「彼女が亡くなったのは本当に残念だ! あの戦士のことは私も知らない――」
「あくまで自分のせいではないと言い張るつもりか!」
「いや、あれは私のせいだ! リセリネアさんが亡くなったのは私のせいだ……そう、 たとえ何があっても、私が守り切れなかったのが悪いんだ!」
「なら、その命でリセネリアさんに詫びろ!」
 ガルヴィスは剣を取り出し、リファリウスに切りかかろうとした。すると、リファリウスの前にはシエーナが――
「ガルヴィス! やめなさい! リセリネアが亡くなって、大陸までもが消えてしまって取り乱しているのはあなただけじゃないの!」
「ガルヴィス、剣を収めるんだ。 確かに、リセリネアさんが亡くなったのは悲しい、だけど、そんなことをして彼女が喜ぶと思うか?」
 ……ヒュウガの言う通りだがガルヴィスは聞く耳持たずだった。 そしてガルヴィスは無言でその場を去った、誰も止めようなどとは思わなかっただろう、 今までの住処を失い、仲間も一人犠牲となり、誰しもがどうしていいのかわからない状態、 そしてガルヴィスはあのありさま、誰も止めようなどとは思わなかった。
 そして、リファリウスも――
「リファリウスさん、何もすべて自分で背負い込まなくたって――」
 シエーナは言うが、
「……私は、弱いな――」
 リファリウスは涙をボロボロと流しながらそう言った。 リセリネアの一件についてずっと背負い続けるようになったのである。

「あれ? リファリウスさんはどこに――」
 朝、ベッドから起きあがったアリエーラはふと周囲を見渡したが、リファリウスの姿は見当たらなかった。
 ここはクラウディアス王国、リファリウスとアリエーラがこの国に訪れてからそれなりに経過している。 今や国の重鎮としての役割を担っている2人だが、今は2人でお城の5階にある大きな寝室にて2人で寝泊まりしている、ハズだった。
「……いつものところですかね。」
 アリエーラは少し考えると、思ったところに向かって歩み始めた。 寝室を抜け出し、そのまま同じ階層のテラスまで進むと、 リファリウスはテラスの縁にもたれかかりながら、夜が明けたばかりの遠くの空をじっと眺めていた。
「リファリウスさん、おはようございま――」
 アリエーラはリファリウスに向かって挨拶しようと言いかけたが、 彼の顔を見るや否や、驚いていた。
「り、リファリウスさん、まさか――」
 その時のリファリウスの顔は涙であふれていた。
「……また、昔の夢を見られたのですね――」
 アリエーラも涙を浮かべながらそう言った、 この2人は一部が同調しているため、互いに気持ちが痛いほどわかるのである。
「アリエーラさん、私はあれから、強くなれたのだろうか――」
 その問いには何とも言えないところだけれども、アリエーラは涙をぬぐいながら言った。
「リファリウスさんは強いですよ!  私だってリファリウスさんに助けられていますし、 何より、この国の人たちだって、あなたなしでは守り切れなかったハズです!  もう少し、自身を持っていいんですよ!」
 と、やや強めに言った。そして――アリエーラはリファリウスの隣に寄り添い、優しそうに続けて言った。
「それに――泣くときは一人で泣かないでください、 泣くときは私も一緒です、涙が枯れ果てるまで一緒にたくさん泣きましょう、 1人で泣いてるなんて、辛いではないですか?」
 そう言われたリファリウス、一緒に泣いてくれる親友がそばにいる――これほど幸せなことはないだろう。 それについて嬉しくなったリファリウスは涙をぬぐい去り、アリエーラをしっかりと抱いて一言だけ答えた。
「……アリエーラさんにはかなわないね――」
 その一言だけで、この2人の間でしか通じない、お互いに伝えたかったことすべてが伝わったのである。