エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

エンドレス・ロード 黄昏時 天命の刻にて

 かつてのフェニックシア大陸でのお話。
「リセネリアさん!」
「ガルヴィスさん、私の名前はリセ”ネリア”じゃあなくてリセ”リネア”だってば」
 ガルヴィスがそう呼ぶと、リセリネアは優しくそう言った。 ガルヴィスは密かにリセリネアという女性に思いをはせていたのかどうかは定かではないが、そんな感じの印象を思わせていた。
「いつも仲がいいねえ、2人とも。結婚しちまえば?」
「まあまあまあ、ヒュウガ君、流石にそこまで踏み込んだ話となるとリセ”ネリア”さんが可愛そうだろう、 チャラ男のガルヴィスはともかく。だから、あまり冷かしてあげるな。」
 ヒュウガが冷やかすと、それに対してリファリウスが追い打ちをかけていた。
「あん? 誰がチャラ男だテメェ、三枚におろすぞ?」
 ガルヴィスが怒りむき出しで言うと、リファリウスは得意げに返した。
「おろすだと? ほほう、いい度胸だ。 じゃあ手始めにドレッドノート・イエローテールでも頼もうか。 そしたら次はフェラント・サーモンだ。」
 さらにそれに続いてシエーナとカイトが言った。
「その次はティルアン・ミストかなっと」
「だったらついでにケンダルス・ラビットも」
 さらに調子に乗ってシャディアスとヒュウガも注文した。
「エダルニア・デビルとブルータル・エネアルドもいいな!」
「ついでにマーリン・ライオンとストーム・シーブリームも頼む」
 それに対し、ガルヴィスはいよいよ堪忍袋の緒が切れた。
「誰が魚をおろすって言ったゴルァ!」
 しかし、リセリネアまでもが――
「あははっ! じゃあ私もセラフ・トラウトをお願いしようかなー♪」
「えっ、えぇ――」
 と、流石に彼女にまで言われたら困惑するしかないガルヴィスだった。
 リセリネア、シエーナ、カイト、ヒュウガ、シャディアス、そして、リファリウスとガルヴィス―― みんな、フェニックシアで発見された孤児だった、 そう、彼らこそがエンブリアで一時話題になった”フェニックシアの孤児”と呼ばれる存在である。
 なお、彼らが発言した固有名詞はいずれも生で食べられる魚介類を示しており、 文字通り”おろす”、つまり、会話の内容からなんとなく想像が付きそうだが、 それらを刺身にしてほしいという意味合いでガルヴィスをからかっていた。
 魚介の話をしているのだが、フェニックシアはかつて、セラフィック・ランドの中央にある都・エンブリス近空を浮遊していた大陸で海などなかった。 しかし、突如としてあの大陸は消えてしまった――その時まで彼らはあの大陸にいたのである。

 リファリウスはフェニックシアの”とある丘”から眼下の光景を眺めていた。 その様子にガルヴィスは疑問をぶつけてきた。
「リファリウス、何をしている?」
「見てみなよ、この光景。これが”黄昏の入り江”と呼ばれる所以だね。」
 時間はちょうど日没時で、眼下にはどこまでも夕日に照らされる雲海が広がっており、 それはそれは壮大な景色が見えることだろう、 リファリウスはみんなにその光景を見てみるように促し、話を続けた。
「この光景、恐らくほかにも見ている人がいるかもしれないよね。」
 それに対し、ガルヴィスが返した。
「そうか? 浮遊大陸なんて、そうそうないんだろう?」
「いやいや、別に浮遊大陸でしか見れないというわけではないんじゃあないのかなって意図で言っていたんだけど。」
 リファリウスは前向きに言った。確かに、それも一理あるかもしれない。
「さて、私は疲れた、先に帰るよ。」
 リファリウスは去った。だけど、ガルヴィスはその光景をいつまでも眺めていた。
「”黄昏の入り江”か――」

 ガルヴィスはお世話になっている家に戻ると、 リファリウスがリセリネアとすごく仲好さそうに話をしている状況に出くわした。 そのあたり、流石はリファリウスである。
「まあ、そういうわけなんだ。」
「素敵ですね!」
 その光景にガルヴィスは怒りがこみ上げてきた。
「どっちがチャラ男だ! チャラ男はテメェだろう!」
 それに対してリファリウスはやっぱり得意げに答えた。
「チャラ男とは失礼な。私はただ、リセ”ネリア”さんと話をしていただけだよ。」
「だから、それがテメェがチャラ男たる所以だろうが!」
 ガルヴィスはさらに激怒した。
「まったく、これだからこの男は。 勘違いにもほどがある、私は別にそのつもりで彼女に接しているわけではない。 あくまで肉親のつもりで接しているだけだ。」
 リファリウスは呆れた様子でそう言うと、
「はっ、よく言うぜ! 寝言は寝てるだけにしとけ!」
 と、ガルヴィスは怒りながら呆れた感じでそう言った。 それに対し、リファリウスはリセリネアに向かって肩をすくめて呆れたような態度をし、2人はさらに話を続けていた。
 ということで、こと女性陣としては本当にただの肉親同士の話でしかないらしく、彼女とて例外ではないようだが、 ガルヴィスをはじめとする男性陣としては、リファリウスはどこからどう見てもチャラ男というイメージそのものと、 性別でそのイメージが大きく二分されるようだ。

 そしてある日、その時は訪れた。
「最近地震が絶えないな、昨日も地震があったばかりだぞ」
「変だな、浮遊大陸だってのに何かにぶつかっているのか?」
「そんなことはないだろう、この大陸は浮遊しているけど別に動いているわけじゃないからね。 村の人やエンブリスの人がここ最近原因を調べているみたいだけど何もわかっていないそうだよ、 ましてや攻撃を受けているというわけでもないみたいだし」
 ヒュウガとシャディアス、そしてカイトが話をしていた。
「少し前に見つかった変な建物と関係があるのかな?」
 リセリネアは不思議そうにそう言った。 フェニックシアでは少し前に怪しい建物というのが発見されていた。 それまでは発見されなかった建物、突如として現れたようなのでなんだか不気味に思える。 もちろん、地震との因果関係についてはないような気がするが――
「……あの建物って確か、黄昏の入り江の近くだったっけ。」
 リファリウスは考えながらそう言った。調査した人の話では、その怪しい建物の中には入れなかったという。 鍵でもかかっているのだろうか、扉は一切開くような気配はなさそうだった。
「行ってみますか? 黄昏の入り江にもまた行ってみたいですし」
 シエーナがそう言った。みんなでそこへ集合することに決めた。

「いつ来てもここから見える夕日ってキレイねえ!」
「ほら、そうしたら言うことがあるだろう、ガルヴィス君。」
「黙れ」
 リセリネアが言い、リファリウスが追随して言うと、その流れでいつものごとくガルヴィスを茶化し、キレられる。
「んだよ、言わないんかよ」
「言ってやればいいじゃん」
「ヤレヤレ、何をためらっているのやら」
「そうですよ。こういう時に言ってあげれば女の子は喜ぶんですよ?」
 そしてさらにシャディアス、ヒュウガ、そしてカイトとシエーナが追い打ちをかける。
「だー! みんなして! 今はそれどころじゃあないだろ!」
「そうとも。そんな悠長なことを言っている暇なんてない。 だから、今言わずしていつ言うのかな、ガルヴィス君?」
 そしてしつこく言うリファリウス。 そしたら今度は周囲からガルヴィスコールが。ガルヴィスはいじられキャラだった。
「お前ら――」
 と、ふざけあっていると、再び地震が――
「くっ、こんな時に……」
「うっ……」
 カイトとシエーナは頭を抱えてその場でうずくまると、シャディアスが心配そうに言った。
「カイト! シエーナさん! なんだ、どうした!?」
「……この揺れ、ただの自身の揺れとは違う!」
 リファリウスがそう言い放った、リファリウスもまた頭を抱えたままうずくまっていた。すると――
「みんな、危ない! 伏せろ!」
 リファリウスがお得意の魔法剣でみんなを軽く吹き飛ばした。ということは、それはつまり――
「リファリウスっ! 何をす――」
 と、ガルヴィスが言うと、丘に亀裂が入り、地面が割れてきたようだ。 リファリウスはその亀裂に飲み込まれぬようにみんなを吹き飛ばしたのだった。
「なっ、なんだこれは!」
 シャディアスが慌てふためきながらそう言うと、 リファリウスとリセリネアのいる足場はガルヴィスらのいる足場からだんだん遠ざかっていくことに。
「みんな!」
「リセネリアさんっ! リファリウス!」
 リセリネアが言うと、ガルヴィスも叫んだ。
「ガルヴィス! ここは危ない!」
「だけど、リセネリアさんが!」
「言ってる場合じゃないだろう! 今は自分の身を最優先に考えるんだ!」
 身を乗り出していたガルヴィスに対してシャディアスはそう言うと、 それをカイトに諭された。そして、カイトはさらに続けてリファリウスたちに向かって叫んだ。
「揺れが収まったら迂回しよう! それまではリファリウスとリセリネアさんは、安全なところへ!」
「ああ! こっちも揺れが収まったら2人で移動する!」
 リファリウスもカイトたちに向かってそう叫んだ。
「リファリウス、リセネリアさんをきちんと守れよ……」
 ガルヴィスは力無げにそう呟いた。