一方で、リュミーアは周囲の敵を蹴散らしながら進んでいた。
そして、背後からいきなり冷気が襲い掛かると、空から雪が降り始めてきた。
「あらまあ、お母様ってば、ずいぶんと派手にやっているのね。
しかもこれだけの力を振るうなんて――もしかしたらやっぱり”ネームレス”なのかもしれないわね――」
ララーナの能力はリュミーアのところまで届いたのだが、
敵対しているベラッサムの炎はリュミーアまで届かず、これだけでも、2人の能力差ははっきりとしていた。
すると、そのうちリュミーアの目の前には前方に陣地を構えている一団が現れた。
そして、その真ん中には偉そうに椅子に座っている大将がいた、間違いない、エイジャルである。
「何だ貴様は? ボディスとベラッサムはどうした?」
「ぼ……? えっ、べら……なんだって?」
とぼけているのか、本当に失念しているのか、それともそもそも覚える気がないのか。
「ふん、まあいい、ここまで1人でこれたことはほめてやろう。だがしかし、貴様の命もこれまでだ」
「誰の命が? 私の? これまでって、まさか死――ちょっと、勝手に殺さないでよ。
いかにも私が死ぬみたいな妄言ほざいているように聞こえるけど、それ、本気で言ってんの?」
エイジャルは大笑いした。
「くくっ、どうやらこの女、吾輩に勝つもりらしい、まったく、世間知らずもいいところだな!」
その周囲にいた部下たちも笑っていた。
「世間知らず? ああ、そうかいな、まあいいさ、やってみればわかる。
にしても、言うに事欠いて”吾輩”て……使ってるやつ初めて見たわ、貴重な存在かも。」
リュミーアは呆れながらそう言った、どういうこっちゃ。それはともかく――
「ふん、やってみずともわかるわ。だから、貴様はこれで充分だ。さあ、行け!」
すると、周囲にいた敵兵たちが、リュミーアを取り囲んだ。
「貴様なんぞ、この程度で充分だ。
だが、我らが猛者たちをかいくぐり、ここまで来たんだ、それなりの腕はあるのだろうな。
だから、吾輩の部下の中でも優秀な精鋭たちをそろえてやった、せっかくだから相手をしてやってほしい」
すると――
「ふーん、見るからに弱そうな連中ね、あんたも一緒に戦わなくていいの? でないと、こいつら、無残に死ぬだけよ。」
リュミーアは挑発していた。
「ほう、なかなか見ごたえのある戦いをしてくれるというのか? 実に面白い。なら、せいぜい楽しませてくれ!」
というと、その部下たちは一度にリュミーアに襲い掛かってきた。ところが――
「バカ。せっかく警告してやってんのに。」
リュミーアは風の魔法を繰り出し、自分を中心にした竜巻で周囲を巻き込んだ!
「うっ、うわあああああー!」
「なっ、なんだこれはあああああ!」
周囲にいた敵兵は一度に吹き飛んでしまった。
リュミーアはエイジャルに剣先を向けた。
「で? これで気が済んだでしょ?」
エイジャルは立ち上がりながら言った。
「ふん、貴様も風使いか。それに、なかなかやるようだな。
いいだろう、特別に、私の相手をしてやろう!」
すると、エイジャルはいきなり風の魔法剣を放ち、風の刃でリュミーアに襲い掛かった!
「えっへへへっ、そうこなくっちゃ♪」
リュミーアに、その風の刃が命中!
「逝け! 貴様はここで朽ち果てるのだ!」
エイジャルはさらに立て続けにリュミーアへ向けて風の刃を乱射し続けた。
それがすべてリュミーアに命中していく!
「まったく、他愛のない――」
エイジャルは攻撃の手を止めた、リュミーアはその場でうなだれるように佇んでいた。
「ふっ、とどめを刺してやる!」
エイジャルはさらに大きな風の刃を発生し、リュミーアをそれで引き裂いた!
「ふん、口ほどにもないな。まったく、この程度の腕で吾輩に歯向かうなどとは――私も地に落ちたもんだ」
エイジャルは再びイスに座り、小さなテーブルの上にあるワインを片手にしながらそう言った。
「おい、誰かいないのか、あんなところにいつまでも死体なんか置いとくな、さっさと始末しろ」
そう言われ、その場に部下の何人かが足早に駆けつけてきた。
しかし――
「大丈夫よ、地に落ちるほど上にいないから。」
えっ、あの女、生きている!?
エイジャルはその光景に目を疑った、あの女は引き裂かれてその場で横たわっている、
にも拘わらず、生きているのか、と。
「なんだ!? どうなっている!?」
「どうなっているって? こうなっているのよ。」
リュミーアは瞬間的に立ち上がった――いや、横たわっていた死体は消え去り、
空間の中からリュミーアが突然現れたというべきだろう。
その光景にはエイジャルのみならず、周囲の部下たちも驚き、部下たちは慌てて逃げ出した。
「あんたさあ、相手は風使いだって自分で言ったんじゃん。だったら、これぐらいのこと、想定してない?」
要するに、死体はカモフラージュ、本体は最初から風の中に溶け込んでおり、姿をくらましていたのである。
そのあたり、流石は風使いのリュミーアことリファリウスである。
ところがしかし、エイジャルにはわけがわからない様子である。
「ああ、そう、あんたの知識じゃあ、この私には及ばないってわけね。
まあ、なんとなくは想像していたけど、やっぱりあんたじゃあ私の相手をするのは無理ってことなのよ。
だけどさ、こちとらわけあって、私があんたを殺らんといけないから、
地獄を見ることになっても一切責任を取らんよ?」
それに対してエイジャルの怒りは頂点に達した。立ち上がり、リュミーアに向かって怒鳴りつけた。
「黙れ! 黙っておればいい気になりおって! この私を怒らせたことを後悔するがいい!」
エイジャルはカンカンだ。
そして、先ほどの大型の風の刃を次々と発射し、周囲のものすべてを巻き込み、切り裂いていった。
「これで貴様も最後だ、死ね!」
もはや馬鹿の一つ覚え同然である。
歴戦の勇士として”風来”の名を冠するほどなので、確かに能力はそれなりに高いようだが、
その程度ではこの敵に勝てるわけがなかった。
「ふふっ、ああそうかい、せいぜい頑張って発射してちょうだいな。」
リュミーアは例のフィールドを発生した、まあ、結果はなんとなく見えている気がするが――
「死ね死ね死ね死ね死ねー!」
エイジャルは怒り狂ったように乱射している。
「これで貴様も終わりだ!」
そして最後にさらに大きな刃を発射した、だけど、それはすべて――
「なっ、そんな、馬鹿な――」
リュミーアはフィールドの力によって、風のマナ、要するに風属性の力を奪い取っていた、その力で――
「バカはあんたでしょ。というわけで、次は私の番ね。」
リュミーアはその風のパワーと、さらに――
「行くよ。さあ、風の精霊さん、私と一緒に連中をやっつけよー♪」
軽いノリで”兵器”とも呼ばれている剣を振り上げ、
エイジャルが使うよりもさらに大型で弾速の早い風の刃を吹き飛ばした。
「そっ、そんな、そんなことが――」
エイジャルと、さらにその背後側にあるエダルニア軍の輸送船もろとも一気に粉砕した。
「ふん、口ほどにもないわね。まったく、この程度の腕で私に挑もうだなんて――私も随分甘く見られたものね。」
最後に仕返しが決まったようだ。
そして、そんなリュミーアの力を前に、生き残ったエイジャルの部下たちは一目散に逃げだしていた。