そして、その場を振り切っていたリュミーアとララーナは――
「あれは――ガレア軍の人たちのようですね、敵に対して劣勢を敷かれているように見えますが――」
ララーナがそういうと、リュミーアが悩みながら言った。
「なんか、やばいやつがいるみたいね、加勢しに行こうかしら――」
すると、その軍勢がこちらへとやってきた、それはララーナの能力によるものである。
「誘惑魔法?」
リュミーアがそう訊くとララーナは頷いた。
「仲間とあらば見過ごしてはおけませんので。
それに、退路としてはこちらを通っていただくのが安全でしょう」
すると、ガレア兵の一人がリュミーアの存在に気付くと、話をした。
「エイジャルのもとへと行こうとしたのですが、
途中にボディスとベラッサムに阻まれてしまい、近づくこともままなりません――」
それに対し、リュミーアはそいつの肩を叩きながら言った。
「いいよ、ありがと。
ここまでこれたんだからもう十分、あんたたちは下がってシェルシェルたちを加勢してやんなさい。」
それに対し、ガレアの兵は畏まりましたと返事をし、他の兵たちと共にその場を退いていった。
そして、
「敵が来たわね――」
ララーナが言うと、先ほどのガレア兵をあしらっていた連中が姿を現した。
そして、追撃の敵兵を次々と倒していると――
「なんだと!? ”白薔薇のララーナ”が何故ここに!?」
その敵は、ララーナの姿を見て驚いていた。そいつの名は――
「”炎帝のベラッサム”ね、まさか、また会うことになるなんて思ってもみなかったわ――」
と、ララーナが言った。リュミーアが「知り合い?」と聞くと、ララーナは答えた。
「別にそこまでの関係では。
言ってしまうと、この人はただの死にぞこないですね。
あの時はお互いに敵対する国同士の傭兵で、私がこの人を打ち負かしたときに休戦になりましたからね、
その時以来ですね」
それに対してベラッサムが答えた。
「俺はあの時とどめを刺せと言ったはずだが、貴様は戦いが終わったからと言って剣を収めた。
次に会うときは再びこのようなことになることを忠告していたハズだが――」
「当然ですよ、むやみやたらに命を奪うものではありません、戦う必要がなくなったというのであればなおさらです。
それがたとえ再び敵対することがあったとしてもですね――」
ララーナは優しく諭すようにそういうが、ベラッサムは剣を構えながら言った。
「ほほう、そうか。
では、その判断が甘かったことをここで証明してやろう!
もっとも、お前がそう思った時には手遅れになるわけだがな!」
それに対してリュミーアは言った。
「やれやれ、お母様の慈悲が伝わらなかったというワケね。
プリズム族の慈悲なんてものすごい価値があるものだと思うんだけど。
あんまり気が乗らないかもしれないけれどもお母様、こいつのこと、任せてもいい?」
ララーナは呆れながら答えた。
「ええ、いいですよ、こんなどうしようもない人間を放っておいた私が悪いので、
この際ですから責任を取って始末することにします。
既に打ち負かしている雑魚ですから、その点ではご安心くださいな。
そんなことよりも、あなたはこの人たちの将エイジャルを手早く倒してきても大丈夫ですよ?」
それに対し、リュミーアは足早にその場を去った。
「ララーナよ! 貴様も傭兵なら傭兵らしく目の前の敵を全力で倒すことを考えるべきだ!
何故あの時、この俺に情けをかけたのだ!」
ベラッサムはララーナに猛攻を仕掛け、問答していた。
「もちろん、全力で倒すことを考えたわね。
でも、あの時は都合よく、停戦の鐘が鳴ったから、あなたを殺し損ねた、ただそれだけの話よ」
「たったそれだけのことで俺に情けをかけたというのか!?」
「情けをかけたんじゃなくて、戦う理由がなくなっただけよ。
私はあくまで傭兵契約で働いていたのだから、
契約通り、停戦の鐘が鳴るまで戦うっていうクライアントからの指示通りにやっていただけよ。
どうしてもというのなら、私じゃあなくて、当時のクライアントに訊いてくれないかしら?
もっとも、その人は噂じゃあ既に他界しているって聞いているから訊きようがないと思うけれども?」
だがその時――ベラッサムは怒りに任せてその場をすべて焼き尽くした! 辺り一面は火の海と化した!
「ふざけるな! 傭兵は敵を倒すまでが契約だ! あの時の雪辱を晴らすとともに、貴様にそれを教えてやる!」
ララーナは頷きつつ、そして、辺り一帯を凍り付くすほどの冷気を発した!
火の海だった周囲は一瞬にして鎮火し、代わりに深い雪積もる白銀の世界へと変貌した!
「炎と冷気は不仲ってわけね。
なるほど、お互いのクライアントの指示が違っていたからこういう状態になってしまったというわけね。
いいわよ、そこまで言うのなら、白黒はっきりつけましょ。
もっとも、あなたは死んだってかまわないっていう口ぶりなんでしょうけれども、私としては非常に迷惑ですね――」
ララーナは剣を構えた。その剣は――まさにどこそかの兵器のような形状、
つまり、さる御仁が特別にあつらえた剣のようである、誰製なのかはこの際あえて言わないが。
「魔力は貴様のほうが強いようだが力ではどうだ! この俺に勝てるか!」
ベラッサムは炎をまとった剣を勢いよくララーナに向かって振り下ろした!
ところが――どいつもこいつも、単純すぎる――
「流石に男の方に勝てるほどの腕力はありませんよ。
しかし、私にはそれを上回るほどの技と得物があります、そのせいで今回は以前よりも早い段階で決しましたね――」
ララーナの得物は兵器――どうなったかは想像に難くないと思うが、つまりはそういうことである。
ベラッサムの炎をまとった剣は砕け散り、ララーナが追撃で放った吹雪の剣が、ベラッサムの身体を貫いた。
「傭兵として、この地で果てられたことで満足ですか?」
ララーナはそう問いかけると、ベラッサムはその場で崩れ去った。
「本当に馬鹿馬鹿しいです。でも、彼もまた大昔の戦争の被害者の一人にすぎないのかもしれません――」
ララーナは寂しそうにそう言った。