ヒュウガは周囲を見渡し、戦局が落ち着いていることを確認している中、
リュミーアとララーナは何故か2人で仲良く話をしながらその場所にやってきた。
「ヒー様、どうだった?」
「見ての通りだ。そもそも、雑魚相手だからわざわざ言わんでもわかるだろ」
ヒュウガはボディスを指さしながら言った。
「おたくらこそ、苦戦してないだろうな――」
ヒュウガは言い返した。
「なわけないでしょ、あんなの相手にどこに苦戦する要素があるって?」
「ええ、ありえませんね。負けること自体が難しい相談ですわね」
と、リュミーアとララーナはそれぞれそう言い返した。
「ま、それはそうだよな。それよりも、他がどうなっているんだろうか、そっちのほうが気になるな」
ヒュウガはそういうと、リュミーアは頷いた。
「そうね。まあいずれにせよ、あんたは予定通りガレア軍と合流して、私は出発地点に戻るから。
特に”ネームレス”でないディアナ様のチームがどうなっているのか心配ね、
言うて元”万人斬り”って名前のある人物がいるわけだからそこまで気にすることじゃないかもしれないけれど。」
リュミーアがそういうとヒュウガは言った。
「ディアナ様、ね。その”万人斬り”って言われているような人物がね――」
「言っとくけど、ホレるよ?」
「へえ、完成度高いのか。それはいいや」
そこで、ララーナは自分はどうしようか訊ねてきた。
プリシラの件といい、そしてディアナ様の件といい、
結構気になるトピックスがあったようで、リュミーアと同道したいそうだ。
「いいの? プリズム族は――」
リュミーアはそう訊くとララーナは答えた。
「里の外に出る際には必ず代理の者と話をしますので、問題ないでしょう。」
「まあ、お母様ったら! 流石にちゃっかりされていらっしゃるのですね! すごーい♪」
リュミーアは楽しそうに言うと、ヒュウガはやれやれといった態度をしながらその場から去ろうとしていた。
「話が終わったんなら帰るぞ」
それに対してリュミーアが言った。
「ああそうそう、わかってると思うけど、シェルシェル連れてきてね♪」
「り」
リュミーアとララーナはそのまま東のほうに向かうと、
そこにはザワールと対決し、撃破していた2人の姿があった。
「ディアナ様! リュミーア姉様ですよ!」
「えっ? もう倒したの?」
「まあ、そんなに強くなかったから仕方がないよね。
で、今はガレア軍がなんとかルシルメアの守りを固めて残党を処理している最中ね。
無論、プリズム族のエモノやプリシェリアのエモノをほどほどに残すという作戦の上で。
シェルシェルもそのうち来るわよ。」
ディアナ様は納得していた。そして、隣の御仁の存在が気になっていた。
「お母様、この方がさっき話をしていたディアナ様よ♪」
リュミーアはララーナにそう紹介すると、ララーナはすぐに食いついた。
「まあ! これは確かにとても素敵な娘さんですね!」
娘って……ディアナはそう呟くと、ララーナは言った。
「もちろん、存じ上げておりますよ、しかし、これはもう変装術の範疇を超えていますね、
それこそ”女性化”と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか?」
女性化……リュミーアはそういうとララーナは続けた。
「純粋にご自身で持てるポテンシャルをそのまま女性らしさへととことん追求することに活かすというものです。
プリズム族の極意では”理想化”と言われておりまして、元は男児だったプリズム族がより女性らしくを獲得し、
それをやって本当の女性になるうえでは避けては通れない、いわば儀式のようなものでした。
しかし、こちらの場合は事情が事情なだけに”女性化”と表現するのが相応しいでしょう」
それに食いついたのがレナシエルだった。
「えっ、てことはなーに? ディアナ様はもっと美しくなれる余地があるの?」
そう言われてディアナは焦った。
「えっ、エレイア、本気?」
「本気だよ、だって、なんだかとっても面白そうじゃん♪
カッコイイディルもイイけど、綺麗なディアナ様もいいじゃない! ディルもそう思うでしょ?」
そういうものだろうか、ディアナこと、ディスティアは迷っていたが、リュミーアはやや興奮気味に言った。
「そうよ! イケメン男児が女になったら超美女とか、夢が膨らむじゃない!
だからやるしかないのよ、ディアナ様、ね!」
てか、なんでこの人もノリノリなんだろうか、とても気になっていたディアナ様であった。
「いやー、いいヒントをもらっちゃったわね、プリズム族の”理想化”の極意ね。
ということは、さっそく”女性化”のメソッドを作り上げないといけないわね。
しゃべり方から仕草、クセまで全部作り上げた方がいいわよね?」
待て待て待て、そういえばそもそもあなたのそのしぐさにしゃべり方はどうなんだ、
そう突っ込まずにはいられなかったディアナ様でした。
「あら、みなさん、おそろいですね!」
第4波の攻撃拠点まで戻ってくると、そこで待っていたプリシラがそう言った、
先んじてプリシラとラミキュリア、そして、シェルシェルが戻っていた。
「先ほど、ジェレイアさんに送り届けてもらったんですよ! てか、多分、そのあたりで処理されている状況と思いますが――」
シェルシェルがそういうと、ララーナが反応した。
「あらシェルシェル、みなさんと仲良くしているみたいね」
「はい、お母様! ところで、お母様はどうしてここに?」
「ええ、とりあえず、その話は後にしましょう。それより――」
それより――話をしだしたのはリュミーアだった。
「ところでプリシラ、変な男ばかりで大変じゃあなかった?」
プリシラは答えた。
「ええ、実はそうなんですよね、みなさん、自分で言うほど強くないものですから、正直、驚いています。」
それを聞いたディアナは絶句していた。
「なるほど、大したことはなかった、と。やはり”ネームレス”の力、侮るべからずですね――」
「侮るべからずなのはいいんだけど、それがどうして侮るべからずな能力なのかがまったくはっきりしないのよね。
なんとゆーか、こう、違和感だらけで気持ちが悪いってのが率直な感想ね。」
「違和感――そういえばリリアリス嬢もその様なことを言っていましたね、
彼女の能力も明らかに違う次元の何かを感じます、私の力が及ばなかったのも――」
レナシエルは驚いた。
「ええーっ!? ”ネームレス”にはディルでも敵わなかったのー!?」
「実は、そうなんです。私は木刀で対峙しましたが、その時のリリアリス嬢の得物は”おたま”でした。
しかし、あれがたとえ真剣でもかなわなかったことでしょう、
そもそも彼女からは本気で相手をされていませんでしたし――」
”ネームレス”の強さに改めて絶句することとなった。そんな中で思うところがあったラクシュータ母娘は――
「お母様、今の話――」
シェルシェルが言うと、ララーナは反応した。
「ええ、まさに私の時と同じですね。ということはやはり、私も”ネームレス”――」
目的の第4波発動地点、リュミーアはもちろんディアナを含んだ女性陣は円陣を組んでいた。
「やっぱりプリズム族の里長たるお母様が一緒だと、なんだか格が上がったような感じがして、心強いわね。」
リュミーアが楽しそうにそういうと、プリシラも喜びながら言った。
「ですね! ララーナ様、あとでたくさん、お話しましょうね♪」
「ええ、プリシラちゃん、よろしくね♪」
ララーナはそう楽しそうに言うと、その時、何かを感じ取っていた。それについてはリュミーアもすぐさま気が付いた。
「この感じ――ラブリズのほうはもう始めているみたいね――」
ララーナは頷いた。
「まったく、みなさん手が早いのですから。
このままだとラブリズのほうばかりにエモノたちが流れていきますよ?」
それに対し、プリシラは答えた。
「私、別に男の人が欲しいわけではありませんから、それはそれで構いません。
ただ、戦争があまり好きじゃないだけです。
だから――争いを持ち込んでくる人がいなくなればそれでいいんです、それだけなんです。
まあ、もちろん、それ自身が甘い考えであることは認めますが、だったらせめて、私の手で――」
すると、ララーナが言った。
「だからと言って、このままというのも芸がありませんよね。
向こうに負けないよう、こちらもしっかりとやりましょうよ♪」
そう言われて、みんなは決起した。しかし、ディアナだけは不安だった。
「私の力でも、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫よ、その姿の能力を信じなさい。」
そして、あたりに妖艶なオーラが包み込む――
ルシルメア東部の森は、しばらくラブリズやプリシェリアにいる女性陣による誘惑魔法により、
しばらくの間は妖魔の森と化していた。
その際、ガレアの男性陣はヒュウガを除いて非難していた。
「ヒュウガさん、みなさんと一緒に、男の人は非難した方がいいのでは……?」
ジェタが心配そうにそう言うが、ヒュウガは答えた。
「ん? ああ、まあ、効かないわけではないんだが、何故か俺はこれが平気な体質らしい。
心当たりがあるというよりはそれを確かめるつもりでここにいるんだが――まさにアタリだったようだな。
だけど――それがどういうことなんだか返ってわからなくなってしまった、
それで少しばかり考え事をしたいんで、しばらく1人にして――くれるわけないか」
シェミルが言った。
「当然です! 男の人はこの空気に触れたらいけないはずなんです!
それが平気だからって、安心できるわけないじゃないですか!」
「わかったわかった、頼むから、怒るのだけは勘弁してくれ」
そういうと、ヒュウガはその場にある適当な岩の上に腰を掛けていた。
「そういや、あの時もそうだったな、周りが誘惑魔法に覆われた時、
男共はいきなり狂いだして敵味方の区別がおかしくなっていたけど、
俺はその場で立ちすくんでいただけだったっけ。
本当は気が進まないんだが、自分のことをちゃんと調べてみるかな」
それに対してジェレイアが聞いた。
「確かにそうですね、ヒュウガさんだけ誘惑魔法に対するリアクションが違うのがずっと引っかかっていましたが、
あれは何だったのでしょう?」
「考えられる原因は5つぐらいあってな、でも、どれが原因として当たっているのか、
そもそもそれらの中に正解があるのか、全く分かってないんだよな――」
そこへ、シェミルが改めてヒュウガに恐る恐る聞いた。
「えっと、本当に、大丈夫なんですか? だいぶ妖術の気配が濃いような気がするのですが――」
「まあ、とてもいい香りがするし、それこそやつと同じで癒しの力で心が持ってかれそうな感じはあるが、全然平気だ。
むしろ、全然平気だからこそ、問題がある気がするんだけどな――」
確かに、そう言われてみればそうかもしれない。
健全な男児という観点で言うと、ヒュウガという存在は問題大ありな状態なのだろう。
しばらく妖魔の森に立ち入ったヒュウガ以外の男たちは、
すべてラブリズの里か、南東の麗しき女神プリシラ様の園、プリシェリアへと誘われる。
そう、すべての敵は死に絶えたか、もしくは、彼女らの誘惑魔法の虜と化したのだった。