ジープでそのまま突き進んでいくリュミーアとシェルシェル、
そのうち過去に廃線となったルシルメア東部鉄道の線路の残骸、終点の車止めが見えてきた。
「確か、この辺にいるって聞いたんだけど――」
リュミーアがそういうと、シェルシェルは何かを感じ取って言った。
「あれ? なんか変なの、ラブリズの里ってこんなに近くないハズなんだけど――」
ラブリズの里の空気を感じ取ったようだ。それに対してリュミーアが言った。
「ラブリズというより、お母様たちの気配だったようね。」
すると、ジープは次第にとある女性2人がいる方へと近づいて行き、スピードを落としていった。
「あらまあ、こんなところにお嬢様とお母様がいるなんて!」
リュミーアがそういうと、お嬢様が答えた。
「アール……いえ、リュミーアさん、お疲れ様!」
「ええ、お疲れ様、ジェレイナ!」
お嬢様はジェタこと、ジェレイナだった。
今回はプライベートを装っての出勤のため、彼女は華やかなお嬢様ファッションで出向いてきていた、
但し、動きやすいようにやや控えめな装いだが。
そのため、今回はいつもの勇ましい敬礼でのあいさつではなく、友達同士の会話程度のあいさつだった。
一方で――
「お母様!? どうしたのですかこんなところで!?」
シェルシェルはお母様こと、ララーナに疑問をぶつけた。
「何やら森が騒がしかったので、ルシルメアに出向いていた使いから報告を受けたら、
ガレアさんがエダルニアという勢力がこの辺りを脅かしに来ると教えてくださったので、
里を守るため、森を守るため、私たちもこうしてやってきたのですよ」
それに対してリュミーアがワクワクしながら言った。
「わーお! お母様のご加護が得られるのね! すっごい嬉しい!」
すると、彼女らの背後にはガレアの軍勢とプリズム族の一団がそろっていた。
その、ガレアの軍勢の中からヒュウガが現れて言った。
「なんだよ、いたのかよ。
それはそうと、作戦の内容の確認だが、
格下はなるべく生かしておいて、敵の大将を叩くという作戦でいいんだな?」
それに対してララーナが言った。
「ふふっ、面白い作戦ですね、ボウヤたちを弱らせて、一度に心を奪うという事ですか、
是非ともこちらにも分けてほしいですね。
もっとも、既に敵の先発隊らしい方の一部は既にいただいてますけどね♪」
「まあお母様ったら、流石お手を出すのがお早いですね!」
リュミーアが楽しそうにそう言うと、ララーナも楽しそうに言った。
「うふふっ、今頃里のほうでは、私よりもはるかに手が早い娘たちが我先にとエモノの争奪戦を繰り広げている最中ですわ♪」
要するに手を出したのは別のプリズム族、しかも魔物側だということだ……。
その話を聞いていたヒュウガは身震いしていた――
「怖っわ……。んなことよりも気をつけろよ、
当初の予定は中軍1,500西軍800だったようだが、連中はどうやらこの数を逆にしてきたみたいだからな」
ガレア軍としては敵勢力は大体3,000だと見込んでいて、東は700程度だと考えている。
西軍800に対してガレア軍が300、助っ人のプリズム族が40~50人ほど加勢しに来てくれたが、
どうやらこちらは1,500もの敵を相手にしなければいけなくなったようだ、しかし――
「ふふん、いきなり予定を変更して数変えてもムダだっての。
いずれにしても、これから攻めるルシルメア側に近いエイジャル陣に流れるって相場が決まっているっつーの。」
と、リュミーアが言った。
それもそうだ、敵にとってはケンダルスを攻められなければ、
これから攻め落とそうとしているルシルメア側になるべく人を集めたいわけだから、そうなることは必然なのだ。
「連中は1,500の勢力かも知んないけど、こっちは私という名の万(10,000)の戦力がいるんだから、
大船に乗ったつもりで行ってちょうだい。」
と、リュミーアが言った。ずいぶんと大きく出たものである。
だが、”ネームレス”の実力というのはそういうものなのだ。
「さっすがお姉様!」
シェルシェルはワクワクしながらそう言うと、
「まあ! 流石は私の娘ね!
なるほど、エモノがこちらになだれ込んできているということは――
今宵は里のほうでも宴をしなければなりませんね♪」
ララーナもワクワクしながらそう言った。
「……だから、怖いって――」
ヒュウガは再び震えながらそう言った。とにかく、こうして西の撃破軍も決起した。
そして、いよいよ運命の時刻が迫ってきている。
ガレア軍であらかじめ用意していた西の攻撃拠点で待機中の一団、
「なるほど、風魔法ですか。では、私もお手伝いいたしましょうか?」
ララーナが言うと、リュミーアが答えた。
「合体魔法ね、お母様!
遠慮は要らないわ、得意の誘惑魔法でいいから、一気に敵を吹き飛ばしましょう!」
「そうね、せっかくだからそうさせてもらうわ♪」
せっかくの誘惑魔法を風魔法で散在にさせることになるため、誘惑自体の効果は薄くなるが、
魔法同士の効力によって威力面ではパワーアップするハズである。
「楽しそうね、お母様!」
シェルシェルが言うと、ララーナが答えた。
「うふふっ、昔を思い出しちゃったわ、あなたが生まれるよりも前の話だけどね♪」
そして、その時は訪れた――
「ふふっ、行くわよ――」
リュミーアがそう言うと、ララーナはリュミーアに合わせた。
「いつでもどうぞ――」
すると、遠くで強烈な上昇気流が巻き起こり、
エダルニア軍の上陸地点ではさぞ大変なことが起こっているだろう、容易に想像が付いた。
東西中、3軍の上陸地点を荒らしたのだ、それぞれかなり被害を被っているに違いない。
「効果のほどは確認できませんが、少なくとも、ケンダルスは巻き込んでいませんよね?」
ララーナはそういうと、リュミーアは答えた。
「多分ね。巻き込んだとしても、強風にあおられた程度のものだから、ケンダルス側としては気にしてないハズだけどね。」
そのあたりもきちんと計算してやっているのがリュミーアの怖いところである。
「……本当に便利な力だな」
ヒュウガは愚痴っぽくつぶやいた。
そして、プリシラ側、付近にはそれなりに強い風が舞っていた。
「強い風だったけど、誘惑魔法が混ざっているようですね――」
彼女が言うと、ラミキュリアは気が付いた。
「この力は!? まさか、ララーナ様!?」
「プリズム族の里長さんですか?
シェルシェルのお母様だって伺いましたが、大きな力を感じます、もしかすると――」
プリシラは何やら考えながらそう言っていた。
「……まあ、いいです、考えるのは後にしましょう。それよりも、次は私の番ですね――」
それに対し、ラミキュリアが言った。
「プリシラさん、私たちも合体魔法にしましょう!
私では力不足ですが、少しでも効果の足しになればと思います!」
「いいですね! 是非、よろしくお願いいたします!」
プリシラとラミキュリアはまたしても意気投合していた。