ヴァーレス軍の上陸、しかし、アールの使用した風魔法で一掃、
続いてガレア軍の襲撃によりヴァーレス軍を撃退、事なきを得たのである。
「ちょっと、この地は無防備すぎるね。
でも、こんなに自然豊かな大地なんだから、戦車砲は似合わないよね。」
「風魔法が得意でよかったな。次からもそれで頼むな。そんじゃ、帰るか――」
とにかく、面倒なことは嫌だ、さっさと帰ろうと引き揚げ準備を始めたその時だった、
突如、ガレア軍の隊員の一人がおかしくなり、そして、また一人、また一人とおかしくなり、
また別の者はその様子を見て慌てふためいていた。
「ん? なんだ? どうしたのかな?」
アールがそういうと、ジェタが慌ててアールのもとへとやってきて――
「アール将軍! なんだか様子がおかしいです! 隊員の何人かが急に――」
そう言うと、その後ろには隊員の一人が銃口を向けて、こう言い放った。
「動くな! 大人しくしろ!」
「なっ、何を言っているのです!? 一体、何がどうしたというのです!?」
「うるさい! 黙れ! いいから両手を上げろ!」
あまりの剣幕に、ジェタは渋々手を上げざるを得なかった。
「こっ、こんなことをして許されるとお思いですか! アール将軍の目の前ですよ!」
そういうと、アールはジェタを諭しつつ、両手を上げながら言った。
「いや、これはどうやら別の誰かの意図が働いているとみて間違いなさそうだね。
よく見てみなよ、おかしくなっているのはいずれも男ばかり、
それを踏まえて考えると――まあ、犯人は大体限られてくるだろうね。」
アールは平然としているようだが、エイジはどういうわけか、その場でうずくまったまま、微動だにしなかった。
「まさか、ラミア族か何かですか!?」
ジェタが驚きながらそう言うと、アールが答えた。
「いや、ルシルメアで東とくればプリズム族だと思うけれども――
でも、彼女らには掟があるはずだから、こんなことをするとは考えられないな――」
すると、アールたちはどこからともなく現れた謎の軍勢に取り囲まれた。
「なっ、なんですか、こいつらは!?」
ジェタは周囲を警戒しながらそう言うと、連中はこう言い放った。
「そこのお前! 偉そうなマントをつけているお前だ!」
偉そうなマント――そもそもその場でマント着用しているのはアールだけだった、アールをご指名のようである。
「ん? 私に用かな? なんだろう?」
「ついて来い、我らが主が呼んでおられる――」
そう言われると、アールは両手を上げつつ、銃口の先に突っつかれながら渋々歩き出した。
そして、歩いて行った先にはとある女性の姿が――
「まさか、本当にプリズム族!? いや、あれはまさか――」
すると、女性はさらに強力な誘惑魔法を放ち、アールを包み込んだ――
「こ、この力は……そうだ、思い出した……」
アールはそのまま身体の力が抜け落ち、その場に崩れると、ぐっすりと眠ってしまった……。
「あら? 何故でしょう、彼には誘惑魔法が効かないなんて――」
女性は魔法が効かないことについて困惑していた。
しかし、癒しの力についてはラブリズの時と同様で、心に刺さったようである。
そして、アールは気が付くと、そこは民家の中で、自分はベッドの上に横たわっていた。
「ここは――」
そこへ、とある女性が1人、家の中にやってきた。
「えっ!? もう気が付かれていたのですね!?」
女性は慌てた様子でそう言った。
その装い、どこかのお嬢様を思わせるような清楚で可愛らしい見た目……ではなく、
オフショルダーなトップスと短いスカートという、
可愛らしさと男心をわしづかみにしそうなセクシーさを兼ね備えた姿だった。
「なんだろう、これはデジャヴかな、以前にもこんなことがあったぞ……、
しかも、以前もプリズム族だったっけ、服装は違うような――」
アールは右手で頭を抱えながら悩むようにそう言うと、
それに対して女性のほうは困っている様子だった。
それを察したアールは女性のほうに向きなおって言った。
「あ、ごめんごめん。
私らの身に起きた状態から察するに、多分だけど、このあたり一帯はキミの庭か何かということかな?
で、それを侵したから私らは罰を受けていると、そういうことかな?」
あまりに冷静にそう言うアールに対し、彼女のほうはさらに困惑していた。
「まあ、そういうことだろうね、まさか、こんなところに森の貴婦人的な魔女がいて、
この森を守っているとは――私も反省するべきところしかないね。いや、本当にすまなかった――」
すると、今度は女性から話をした。
「それよりも、あなたには誘惑魔法が効かないのが不思議です、
これまで、どんな男の人でも、一部の女の人にまでも有効だった私の力、どうしてなんでしょう――」
そういうと、アールは気さくに答えた。
「ああ、そう言われてみればそうだね。
でも、その前に一つ聞いていいかな? キミってもしやと思うけれども、プリシラさんだよね!?」
そう言われたプリシラは驚きながら訊いた。
「……どうして私のことを!?」
「ほら! 私だよ、覚えているかな!?」
アールは自分の正体をさらけ出すと、
プリシラは驚き、あまりの懐かしさゆえか、アールの正体に抱き着いてきた。
リファリウスとプリシラは仲良くベッドの上に並んで座って話をしていた。
「そっか、リファ様はこんなところにいたのですね――」
「プリシラさんのほうこそ、こんなところで森の貴婦人やっているなんて驚きだよ。
もう、誘惑魔法をマスターしたと言っても過言ではないね。」
リファリウスは話を続けた。
「ところで、私だけここに連行してきたのは何故?」
それに対し、プリシラは顔を真っ赤にし、言葉を詰まらせていた。
「ん? どうしたの?」
リファリウスは訊いたが、何も答えなかった。その様子に、リファリウスはピンときた。
「そっか、なるほど、プリシラさんと言えば、私のことがスキだったね!
要するに、私似のアールがプリシラさんのお気に入りだったと、そういうことかな!?」
そう言われたプリシラは顔を真っ赤にしながら「わわわわわ!」と慌てた様子で顔を両手で押さえながら言った。
しかし、そのプリシラの様子が可愛くて萌えていたリファリウスだった。
「やっぱりプリシラさんは可愛いな! 本当に天使みたい!
こんな娘に気に入られるのなら私も本望だよ!」
リファリウスのベタ褒め振りにプリシラはさらに真っ赤になっていた。
「もう! リファリウス様ったら、褒めすぎです!
これ以上褒められたら私、どうかなっちゃいそうですよ!」
そして、これからの話をするため、話を続けていた。
「だから、つまり――申し訳ないけれども、私の仲間を、ガレアの軍隊を返してくれないかな?」
リファリウスがそういうと、プリシラはニコニコしながら言った。
「リファ様のためならもちろん、お返しします! リファ様が悪い人なわけないですもの!
早く戦争がなくなるように、私も心から祈っていますね!
もちろん、私にできることがあれば、リファ様のためだったらなんでもします!」
「ありがとう、プリシラさん。
埋め合わせってほどのものじゃないけれどもさ、もしだったらここにプリシラさんの町でも作ろうかな?」
えっ、どういうことだろう、プリシラはリファリウスに訊いた。
「うん、ここに一つの自治区を作るんだよ、要するに町だね。
この辺りは未開の地で、いろんな国からの妨害が来るんだ、
だから、ここに森の貴婦人が支配する国があって、それを不用意に侵すと痛い目に合う――
そういう場所があってもいいんじゃないかなと思ってさ。」
それこそが、プリシェリアができるきっかけだった。
最初は間に合わせで建てられた数件の木の小屋があっただけだったが、
ガレアから建材をもらいうけ、この地にプリシェリアが建てられた。