因縁の地、再び。
ガレア管轄の運用が落ち着き、シェルシェルがガレアにちょくちょく訪れるようになったその時期、
今度はルシルメア東部、ラブリズの里のあるさらに東の未開の地域にて――
2人乗りのジープ、アールが運転しエイジがその助手席に座っている。
同じように、後ろから何台かのジープが、アールの運転するジープに続いて走っていた。
「あのさ、そういえば聞いてなかったんだが、
以前にあった、ガル何とかって軍の行方不明者ってのは例のプリズム族がいただいていたって結論でいいんだよな?」
エイジがそう言うと、アールが答えた。
「はっきりと聞いたわけじゃあないけれども、どうやらそうらしいね。
彼らは今やプリズム族の子孫繁栄のためにその身を捧げているってわけだ。
しかしながら残念なことに、連中の身は推測だけど、いただいているプリズム族の中でも”魔物”側のほうだと思うね。
ラブリズの里の”表側”、つまり、”魔物”でないほうの彼女たちの区画にはそれっぽい人は一切見なかったことから察するに、
そうとしか思えない。まあ別に、”魔物”っつっても容姿はあくまでプリズム女なんだし、
それで幸せになれるんだったら男たちとしても本望なんじゃあないかな。」
アールはそういうと、エイジは怖い顔をしながら言い放った。
「ま、まあ、他人事だからいえるけど――でも、聞くからにぞっとずる話だな――」
それに対してアールは対象的に楽しそうに言っていた。
「そうかな?
術にかかってしまえばそんなこと気にする必要もなくなるだろうから、
そこまで怖がることではないハズなのに、何をそんなに怖がっているのやら――」
エイジは怖い顔をしながらそのままそっぽ向き、愚痴をこぼしていた。
「……時々でいいから男心も気遣えよ――」
ガレア軍がそこへ行軍したのはルシルメアがヴァーレス軍によって侵攻されそうになった際の出来事である。
ヴァーレスはエダルニアの同盟国であり、ディスタードのマウナ軍と戦争の真っただ中。
ヴァーレスがルシルメアを制圧するのを機にエダルニア側でディスタードを北から直接制圧を企もうという魂胆だったらしい。
ところが、ヴァーレスもエダルニアもディスタードのガレア軍によって襲撃を受けるのは予期しておらず、
この時のヴァーレス軍の兵力が少なかったことからこの戦はあえなく鎮火、
さらにマウナとの戦いで戦況は悪化し、マウナ軍によってヴァーレスは滅ぼされることとなる。
その、ヴァーレス軍を退ける戦いでの出来事である。
「こんな未開の地までわざわざ出向いてくるとは。
隣はルシルメア、さらには中立宗教国家ケンダルスがあるというのに、連中はギリギリのところを攻めてくるんだね。」
「下手をすれば多方面から集中攻撃されるってのに随分と大胆な軍隊だな、
ルシルメアだってディスタードと同盟を結んではいおしまい、
各国からそれを評価されて現在に至るってところなのに攻撃をしたら――
連中はそのところをわかって攻撃してくるのだろうか?」
アールとエイジは話をしながら進軍していた。
「ケンダルスはともかく、ルシルメアについては一部地域についてのお話だからね、
連中にとっては関係のない話さ。
でも、だからと言って武力行使も辞さないとか、そういう考え方はよくないね。
まあ、それに対して武力で対抗しようとしている我々が言えた義理ではないかもしんないけれども。
誰か、頭のいい人が世界で起きている戦争全部を終わらせる方法を考えてくんないかな。」
「いるわけないだろ、いたら最初からしてないしな」
「ははっ、言えてら、まったく、やれやれだね。」
とにかく、平和への道のりは長そうである。
その、ガレア軍の進軍している様子を遠目で眺めている者がいた。
その者は、アールとエイジがしているような会話の内容と同じようなことを考えている者だった。
「なんですって? この地に戦争の兵器が?」
「はい! 私の見立てでは、あれは恐らくディスタードの軍勢かと――」
「ディスタード……あなた方の言っていた例の軍事国家のものですね、
まったく、彼らはどこまで戦争が好きなのでしょうか、この地で争う者はこの私が許しません!」
それは、女性と、その女性の従者のようである。その女性の従者の数はそこそこに多かった。
つまり、その女性とは――
「プリシラ様! 連中の狙いは、この大陸の東部から上陸してくる軍のようです!」
と、他の従者が別のところから現れてそう言った。
「えっ!? 東からまたほかの軍隊が!?」
プリシラは驚いて訊き返した。
「ということはつまり、まさにこの地で戦争をするつもりなのでしょうか!?」
それだけは、どうしても避けたかった、未開の地は言い換えれば自然豊かな土地、
それを破壊する行為などもってのほか、プリシラはこの地を自分の庭と称し、守っているのである。
「プリシラ様、敵の数が多いようです、我々だけでは――」
プリシラとしては、自分の力を考えると勝算はあった、
しかし、自分の力を大いに振るって決着させるのもまた破壊行為と同じこと――どうするか悩んだ。
そして、出した結論は――
「仕方がないですね、では、こうしましょう。まず、戦をしたいのであれば思う存分やらせてあげましょう。
そして、勝者には私からのご褒美として、私の下僕となる道を歩ませて差し上げましょう。それで行きますからね」
プリシラがそういうと、従者である下僕たちは声をそろえて、
「はい! プリシラ様!」
と、勢いよく返事をした。