その際の一連のやり取りの後、あれだけリファリウスに興味津々だった女性陣は次第に興味を示さなくなってきていた。
それでも、リファリウスをじっと見つめている女性の数は後を絶たなかった。
「な、なんか、ごめんなさい、そういうつもりではなかったのですけれども――」
リファリウスは申し訳なさそうに言うと、ララーナは言った。
「いえいえ、いいのですよ、別に、あなたをどうしようということはしませんから。
それに――あなたからはどういうわけか、どことなく懐かしささえ覚えます、不思議ですね。
なんとなくですが、私たちの中でも、あなたという存在は特別な存在なのでしょう、そういう感じがします――」
自分の存在は不思議でプリズム族の女性陣からはある意味一目を置かれるような存在、
リファリウスは自分という存在を改めてどういう存在なのか気になっていた。
「うーん、まさか”プリズム・ロード”を志した方にそれほどまで言われるとは、
私という存在がますます気になるな。
やはり、”フェニックシアの孤児”というのは只者ではなさそうだ。」
リファリウスは考えながらそう言った。
”プリズム・ロード”というのはプリズム族の使い手の中でも最上位の使い手で、
”プリズム・テラー”よりももっと上の使い手なのである。
「リファリウス様、あなたのためなら私たちも力をお貸しいたしましょう、
私たちのこともよく知っているようですし、なにより、
あなたからは特別な何かを感じる――それが私たちとあなたを結ぶものである限り、
私たちはあなた様のためにいくらでも力をお貸しいたします」
ララーナはリファリウスの様子を見ながらそう言うと、リファリウスは答えた。
「そんなまさか、ここへきてプリズム族の加護を借りられるなんて……。
ならば、ありがたくお言葉に甘えることにしますね。」
その日は夜も遅いので、そのまま長の家に泊まることになった。
寝るときになると、その隣に、シェルシェルが嬉しそうにやってきた。
「シェルシェル?」
リファリウスは不思議そうにそう言うと、シェルシェルは楽しそうに言った。
「リファ様に甘えるだけならいいですよね?」
そういうと、リファリウスも楽しそうに言った。
「シェルシェルさんも甘えんぼだなあー。キミ、それで本当にプリズム・テラーなの?」
「いいじゃあないですかー、それとこれとは別です♪
本当はリファ様みたいな男の人と一緒に幸せに暮らしたいんですー♪」
「私みたいな、ね……私も罪作りな人間だな、まったく、何をしているんだ、私は――」
「何を言っているんです、リファ様には目的があるのでしょう?
だったら、こんなところで1人のプリズム女を抱いていたらいけないんですよ!
そういうことではないのですか? ね?」
シェルシェルにそういわれると、リファリウスは確かにそうなのかもしれないと考えていた。
「まあ、でも、妖術は効かないにしても癒しの力については効果覿面なのはすでに実証済、
崖から落ちてひどい目にあったにも関わらずキミの能力のおかげで身体のケガもすっかりなくなっているようだし、
それでぐっすりと眠れるね。」
「うふふふふっ、では、リファ様に再び私の魔法をかけてさしあげまーす♪」
「ふふっ、お願いするよ。」
「いえいえ、そんなことよりも、リファ様が私に魔法をかけてくださいな♪」
「なるほど、そう来たか――言っとくけど、私の力は――」
「格が上なんですよね! よーく存じ上げておりまーす♪」
リファリウスとシェルシェルはノリノリだった。
その夜、リファリウスは目が覚め、ララーナのいる月明かりの下の”ラブリズの聖地”へとやってきた。
ララーナは泉の下で一人、地に素足をそろえて座り込み黙とうしていたが、
リファリウスがやってくる気配に気が付いて話しかけた。
「あら、シェルシェルの魔法はあまり効きませんでしたか?」
リファリウスは首を横に振って答えた。
「いえいえ、そんなことは。彼女は立派な使い手、十分すぎるほどだと思うけどね。
だけどやっぱり年齢的な貫禄のせいかな、どうしてもシェルシェルを下に見ちゃうところがね。
だからシェルシェルも私をどうするというよりも、私に甘えたいというのが強く出ているようでね。
それでなんというか、妹を抱いている感じしかしなくて。
まあ、妹を抱くもの悪くないっちゃ悪くないんだけど。可愛いし。」
それを聞いたララーナは嬉しそうに答えた。
「私の娘を妹のように――嬉しいですね。
そうですか、やはり、あなたの包容力のほうが勝っていた、ということなのですね――」
すると、リファリウスは――
「私は一つ、あなた方母娘を見て思い出したことが――」
そういうと、ララーナは優しい眼差しで「なんですか? なんでもおっしゃってくださいな」と答えた。
「……私は、私の目的は、お母様を助けること――」
と、リファリウスは涙ながらにそう言った。
何故涙が出たのか、そして、どうしてそんな目的があるのか、
それは全然さっぱりだったが、そういう目的があったことについて思い出し、ララーナにそう言った。
それに対してララーナは再び優しい眼差しで答えた。
「まあ! お母様のため!? そんなに泣かないで――」
リファリウスの涙はボロボロと止まらなかった。
「どうしてだろうか、どうしても涙が――止まらない――」
次第にリファリウスの声も涙声になってきた。
「恐らく、大変に苦労されていることでしょうね、あなた自身からそれをとても深く感じます。
さあ、そんなところで突っ立ってないで、こっちにいらっしゃいな」
ララーナはリファリウスを自分のほうへと誘うと、リファリウスはララーナのほうに駆け寄った。
「確かに、あなたではシェルシェルの包容力だと明らかに足りませんね。
ですから、私の下へ、お母様の下へ来なさい。
元男だったプリズム女でよければ、あなたを包み込んで差し上げますよー」
それに対してリファリウスは涙声のまま――
「いやいや、そんなこと、わざわざ言うほどのことでは……。
そもそもプリズム女である以上は……。
それに、私としては母は母、でも、あなたは――」
リファリウスはそのままララーナお母様に甘えていた。
「ふふっ、今はどうしても会えないお母様の代わりぐらいならいくらでもして差し上げますよ?
さあさ、私の可愛い子、ぐっすりとおやすみなさい――」
リファリウスはララーナお母様に頭を撫でられながら、膝枕の上でぐっすりと眠っていた。
「ふふっ、本当に可愛いわね、まるで、まるで本当の私の娘みたいに――」