「私はこの里の番人のシェルシェル=ラクシュータと言います!」
彼女はそう挨拶すると、シェルシェルは続けざまに言った。
「……って、やっぱり、外の人からするとちょっと変わった名前ですよね?」
それに対し、
「そうだね、外ではあまり聞かない感じの名前だよね。
でも、プリズム族っぽくて可愛らしい、いい名前だね!
そうか、生のプリズム族をここで見られるだなんて、私もつくづく運がいいなあ。」
リファリウスはにこにこしながら答えた。
「名前のことをほめてもらえるなんて嬉しいです!
それに、私たちプリズム族ってここ以外にはあまりいないんですね!
でも、私たちのことを知っているのにどうしてここに?」
プリズム族といえば魔女とも言われ恐れられている種族であるため、
知っている人であれば本来、余程のことでもなければ近づかないハズなのである。
それに対してリファリウスは答えた。
「それが、調査のためにたまたま立ち寄っただけなんだよ。
そもそもここにプリズム族の里があるなんて知らなかったし、
そんな中で不慮の事故に見舞われ……知っていると思うけど、崖から落ちてしまったんだよ。」
崖から――シェルシェルは心配そうに大丈夫か聞いた。
「大丈夫だよ、キミの介抱のおかげでね。
まあ、キミら的には介抱した暁には、そのまま相手のハートを奪おうということなんだろうけれどもね――」
図星だった。それがプリズム族の習慣なのだから、当然と言えば当然なのである。
「確かに、キミのような可愛い子にならハートを奪われても厭わないよ、
今さっきキミが家に入ってきたときの驚きようからすると……まあ、要するにそういうことなんだろうね。」
それに対してシェルシェルは残念そうに答えた。
「やっぱり、今の私たちの能力は衰えているんですね、男の人に誘惑魔法が効かないなんて――」
そう、シェルシェルは妖術でリファリウスを包み込んでいたのである。
それによってリファリウスは安眠状態、目覚めた際の目の前の美しい女性が視界に入った時には転移性恋愛、
所謂、逆ナイチンゲール効果とも言われるものだが、
それによりそのままシェルシェルの虜となる――というのがプリズム族の手口としてはよくあることだった。
しかし、今回のリファリウスはその効力を打ち破って先に起き上がっていた――
「いやいや、”プリズム・テラー”ほどの使い手がそんなわけないと思うよ。
今回のこれは単に男に効かないのではなくて私だから効かないと理解したほうが早い。
効かない理由については後で説明するとして、せっかくだから里長と話をしたいんだけどいいかな?」
シェルシェルはリファリウスを里長のいる家へと案内した。
シェルシェルはリファリウスの左腕をつかんで離さない、その装いはまさにデート中のカップルそのものである。
「なるほどね、やっぱり森の中は妖魔の森、妖気で充満していて温かいわけだ。
なんていうかね、この空気、なんだか懐かしくて、調査の途中でついつい誘われてきてしまったんだよ。」
「それで、崖から落ちてしまったんですね――」
「そうそう、私としたことがうっかりだったよ、突然のことだったけど、なんとか生きていてよかった。
ただ……前はもっとこう、きちんと着地できていたような気がするんだけれども、それがどうしても思い出せない。
ちょっと練習が必要かな?」
リファリウスが楽しそうに話をするのをシェルシェルはにこにことしながら楽しそうに聞いていた。
「ごめんごめん、私の話ばかりだったね。せっかくだから、キミの話も聞きたいかなー?」
そういうと、シェルシェルは少し残念そうに言った。
「そんな、私なんて、話すほどのものはないですよ。
外の世界は楽しいですね、私はお使い程度でしか外の世界を知りませんから、
リファリウス様のお話を聞いていた方が楽しいです!」
そうかなー、リファリウスは首をかしげながらそう言うと、
目的の家についたので、シェルシェルはリファリウスに促した。
「さあ、ここが里長の家です! どうぞ、お入りください!」
リファリウスはシェルシェルに促されると、そのままテーブルの脇にある椅子に座るように里長のおつきの人から促された。
プリズム族の女性が数人いる中で男が一人、女性陣はその男に興味津々だった。
そう、女性陣にとって、目の前の男はまさにエモノ同然、ご褒美のような存在なのである。
それに対し、リファリウスは少しがっかり気味な様子で座っていた。
「うーん、これは――下手をすると殺されそうな予感が――」
リファリウスは悩んでいた。
「どうしてです?」
シェルシェルは心配そうにそう言った。
すると、その場に里長が現れた。
里長はやはりプリズム族らしい美しい女性、一族の長を担うにしては若すぎる感じだった。
「あなたが、シェルシェルが連れてきたという方ですね。
私が長のララーナ=ラクシュータと申します、よろしくお願いしますね」
ラクシュータということはつまり――
「なるほど、よく似た母娘ですね、娘さんも娘さんならお母様も素敵な方ですね!」
リファリウスはそう絶賛すると、ララーナはにっこりとしながら「あら、お上手な方ですね」と受け答えた。
「しかし、私はあなたが思うほど、若くはありませんよ?」
と、あえて釘を刺すように言うと、リファリウスは頷きながら言った。
「まあ、そうでしょうね。
そりゃあプリズム族ですから若い姿であるのが普通のハズです、外の人間とは生き方が違いますからね。
それに――お母様はただの”プリズム・テラー”を志した方とは違いますね、
伝わってくる貫禄が只者ではないことを感じさせます――」
そういうと、ララーナはリファリウスの対面に座って答えた。
「あらまあ、お外の男性の方だというのにお判りになるのですね、
男の方は妖術にかかってしまえばその違いなどまったく分からないというのに――」
そういうと、シェルシェルはお母様に促した。
「お母様、この方、普通の人間ではありません! 恐らくですが、精霊族です!」
そう言われたララーナははっと気が付いて言った。
「あらあらほんと、確かに、あなたは精霊族のようですね!
でも、あまりこの世界にはいらっしゃらないタイプのようですので、
まったく気が付きませんでした、どうぞ、お許しを――」
そう言われたリファリウスのほうこそ、申し訳なさそうに首を横に振っていた。
と、その時、ララーナはリファリウスから何かを感じ取った――
「あら? あらららら? まさかあなたは――」