ラミキュリアの話はともかく、プリシラについても話をしなければならないだろう、彼女の話題となっていった。
「この娘はね、とにかく、綺麗とか、可愛いとか、そういうものに目がないのよ。
だから、とにかく、自分の美貌を保たせるのなら、絶対に妥協しないのよ。ねっ、プリシラ♪」
「……そう言われると否定できませんね――」
まさにナルシストを思わせるエピソードである。
しかし、それに同調したのがやはりラミキュリアで、彼女にも自覚症状があった。
さらにラミキュリア同様に名前も可愛らしい。
名前はプリシラ、フルネームはプリシラ=プリンシパリティである。
そしてプリズム族でプリンセスと、似たような接頭辞が並んでいるのは単なる偶然らしいが、
とにかく、プリンセスっていう語の響きに憧れていること自体は確かである。
それにはやはりラミキュリアも関心を示した、
女の子はみんなプリンセスというものである、ラミキュリアは食いついていた。
「ほんと、2人とも可愛いわね。」
そんな様子にリュミーアも楽しそうに言った。
「リュミーアさんは素敵な女騎士目指していますもんね!」
プリシラは楽しそうに言うと、リュミーアは得意げに答えた。
「うふふふっ、まあ、ね。言っとくけど、容赦しなくってよ♪」
「わぁい! 憧れるぅーっ!」
プリシラとラミキュリアは声をそろえてそう言った。いや、リュミーアってそもそも――
「憧れと言えば、プリシラさんは、リリアリスさんの技を?」
ここに来る少し前、ラミキュリアはそれを少し見せてもらっていた、
見せてもらっていたというよりは、見えたというレベルだけれども。
リリアリスのそれは、この世界にはあまりない流派の魔法剣技だが、
素人のラミキュリアでは他の流派のと識別するのは難しいハズだった。
でも、ラミキュリアでもちゃんと識別できたのは、プリシラの繰り出した魔法剣技が、
あからさまにリリアリスのそれと似ていたことで気が付いたのだ。
その魔法剣技の最大の特徴として、精霊みたいなものが出現するというものである。
「はい! リリア姉様に教わりました! 姉様は私の憧れの女性像そのものです!」
すると、リュミーアが首を傾げた。
「教わった?」
「教わったという記憶自体はないんですけど、
リリア姉様から教えてもらったという記憶だけはあります!」
「まあ、そうね。多分、”ネームレス”以前の話だと思う。
それに、多分、プリシラとは知り合いか何かだったような気もするし、
この変装術もプリシラから教わったものだった気がするんだけど――」
プリシラは首を傾げた、変装術はプリシラの能力?
「そう……ですよね、確かに、そうだったかもしれません――」
ということは、プリシラも教えた記憶がないようである。
ここで一つ、ある疑惑が生まれる。しかし、その問いには、すぐにリュミーアが答えた。
「うっふふふ、プリシラはね、美女になることにあこがれるがあまり、
変装術で美女を被っているだけでは飽き足らず、素の姿自身のポテンシャルに超気を配っているのよ。
だから、この姿はプリシラの素の姿なのよ、安心して頂戴ね。」
そう、だからこそのナルシストである。しかし、ラミキュリアはそれを疑ってなどいなかった。
その一方で、女の化粧というものはその名の通り化けるために使用するもの、なんとも皮肉な話である。
でも、そこはメイクも得意なプリシラ、すっぴんの美顔にも気を使い、ナルシスト度にも拍車をかけていた。
まさに女子の中の女子、美のカリスマ的存在である。
「ついでにこちらの布使いさんはお裁縫も得意なのよ。」
布使いさんの名は伊達ではない、ファッションにも気を遣っていた、まさしくラミキュリアと同類なのである。
プリシラの美に対する考え方については、ラミキュリアはものすごく共感していた。
ラミキュリアは昨日からここに来て以来、プリシラとさらに仲良くなっていて、
今はラミキュリアはプリシラに再び師事していた。
「あの2人、特別ですよね! なんていうか、意思が疎通? 意気投合? そんな感じかな?」
シェルシェルとリュミーアは2人を見ながら話をしていた。シェルシェルの目から見ても、それは明らかだった。
「美女には美女同士の分厚い友情によって、通じ合うものがあるのよ。」
「そんなこと言ったら、美女といったら、リュミーア姉様だって、一緒じゃあないですか?」
リュミーアは首を横に振った。
「私はあの2人ほどではないわよ。
というよりも、ラミキュリアとプリシラの2人が特別なのよ。
この2人だけにしかわからない美の世界ってのがあるのよ。」
「ふぅーん、そんなものなんですか?」
リュミーアはシェルシェルのほうへ向きなおり、話を続けた。
シェルシェルもリュミーアのほうを向いた。
「ええ、そう。2人はとにかく美しくあるべきというのが何よりも大事なのよ。
その美貌で男どもを手玉に取り、片や、美しさの象徴として男という男の目を釘づけにしていった麗しき魔女、
片や、その美しさでお姫様を名乗り、男という男を使って1つの町を作り上げていった麗しき女神、
美しさについては、どちらも、ほかの女以上に譲ることのできない事情を抱えているのよ。」
さらにリュミーアはシェルシェルの耳元で何かを伝えると、シェルシェルは納得した。
「えっ――あっ、なるほど、そういうことだったのですね、
だったら、気持ちはわからなくもない感じがします、なんとなくですが――」
「そうよ、だからあの2人はそれぐらいでないといけないのよ。
で、それが自分自身に対する結果に結びついているわけだし、他人に対してもそれで認められているわけだし、
お互いにウィンウィンの関係が成立している――だから、こうなることが正解と、少なくとも私はそう思っている。」
リュミーアは話を続けた。
「ラミキュリアには言ったんだけど、プリシラはね、変身術が得意ではあるけど、
別に変身術を使っているから美女になっているというわけじゃあないのよ。
それ自身が何よりも大切で、変身する前の姿の時点ですでに美女であるべきというのが、彼女の考え方なのよ。」
シェルシェルは頷いた。
「やっぱり、そうですよね、それはすごくよくわかります!
術ならある程度のことをなんでもしてくれちゃうのだと思います。
ただ、それだと、素の姿が、実は醜いからそれを隠しているんだって思われてしまう――そういうことなんですね」
「そうよ。この私みたく、性別まで詐称できるぐらいにね。
だから、私でよければ、彼女にいくらでも手を貸すわよ。」
「でも、いくらなんでも、素材がよくないと、美人になれないとかということはありませんか?
かくいうリュミーア姉様だって美女に美男子と、レパートリーの姿が良いですけど、
そもそもリュミーア姉様自身も本性がとても素敵な――」
そう言われたリュミーアはニヤッとしながら答えた。
「うっふふふ、シェルシェルったらうまいこと言うのね。
確かに、たいていの変身術は自分の姿とはまるで別の方向性を向いているような人物に化けるようにするほど大掛かりなものになっていくわ。
特に今言ったような素材の点は強く、より良い見た目にしようとするほど、
言い換えれば全く違う人物をやろうとするほど大掛かりな力を必要とする。」
だから、リュミーアのような変身がローコスト、それこそ、コストをコストと感じない程度の変身ができるというのは、
それは、彼女の姿がある程度本性とそれほど違いがないからということになるのだそうだ。
つまり、この人の本性はなかなか勝ち組なビジュアルをしているということになるのだろう。
「だけど、たとえこの手の変身術は認知度が低いとはいえ、変身術という一つの魔法的な力として成立されている以上、
偏見を持つ人は多いわ。だからこそ、プリシラは素の姿のビジュアルもちゃんと気にしているのよ。」
確かに、姿を化けられる能力を持つということは、ネガティブに捉える人もいるのだろう。
そう言ったこともあり、プリシラは変身術をほぼ使用しておらず、
多用しているのはむしろ、プリシラから教えてもらったリリアリスとリファリウスのほうである。