地下は薄暗い天然の洞窟の内部だった。
「行きましょう、目的地はすぐそこです」
プリシラは4人を促し、先に進んだ。
「あれれ? なんだろ? なんだか懐かしい感じがする――」
「あれ? この空気、どこかで――」
シェルシェルとリュミーアは何かを感じ取っていた、懐かしいとは?
それは行けばわかること、4人はプリシラに続いて進んでいった。
すると、そこには大きな空洞が――
その空洞は、あちこちから光が漏れだしたような空間だった、何が光り輝いているのだろうか、
パッと見、光り輝いている鉱石があちこちにあるように思えるのだけれども、
シェルシェルは漏れ出ている光が何なのかすぐに分かったためか、
「わあー! ここってあれだよねー! ”聖地”だよねー!」
と、言った、”聖地”、つまりは――
「こんなところに”しろゆめの泉”? そういうことか。ということは、レナシエルだけ、は初体験ってことね。」
そう言ったのはリュミーアだった。レナシエルは首をかしげながら訊いた。
「”しろゆめの泉”!? なんですか、それは――」
”しろゆめの泉”とは以前にも説明した通り、
プリズム族の築き上げた”聖地”なる場所で、主にプリズム族の修行の場として使用されている。
プリズム族の力で満たされている泉であるため、彼女らの行使する妖術の力と癒しの力が集まる場所であり、
言い換えると誘惑魔法の空間といったほうが理解が早いだろうか。
確かに、そんなものが町の中にあると危険が伴うだろう、こんな地下に隠してあるのは当然なのである。
なお、”泉”とはいうが、水があるとは限らず、ラブリスの里のもここのも水はなく、
光り輝いている鉱石の様を”泉”と表現しているのである、
つまり、その光り輝いている鉱石のようなものが妖術の力と癒しの力があふれ出ている光景だった。
なお、プリズム族からは”しろゆめの泉”と分類されている泉だけれども、
実際には泉ごとに固有の名称がつけられており、ラブリスの里のものはストレートに
”ラブリスの聖地”と名付けられている。
「ねえ、ここってプリシラが作ったの? 一人で作ったの?」
リュミーアは訊いていた。
「ええ、そうです。この泉は”女神の秘密の園”と言います。
流石に私が”ネームレス”だからでしょうか、私が使った力がそこらへんに流出していますね」
つまり、”女神の秘密の園”にはプリシラのプリズム族としての力がこの空間に満たされているのである。
すると、リュミーアはおもむろに、泉の中心の地面に手をかざした。
「へぇ、ということは、こうすればこの場の力は完全なものになるってこと?」
すると、泉中の流出していた力が、さらに強く輝いた。
恐らく、リュミーアの力もこの空間に放出されたのだろう。
「本当はもっとこう、祈りを込めて、全身全霊を込めて自分の力を解放するのが習わしなハズなんだけど、
まあ、そういうこと考えず、完全に閉鎖された空間で設計されているから、月並みだけど、これでいいよね。」
すると、プリシラはリュミーアに抱きついて言った。
「あははっ! ここはもう、お姉様の空間ですね!」
リュミーアはプリシラの頭をなでながら言った。
その様、アールがシェルシェルの頭をなでた時と同じような感じに見えたことにラミキュリアは何かを感じていた。
「何言ってんのよ、私なんかよりもあなたのほうがよっぽどうまく力を使っているじゃないのよ。
だからここは私の泉じゃなくてあなたの泉で間違いないのよ。
私の力なんか、あなたのほんの一部でしかないしね。」
うーん、どういうことらろうか、やはりこの2人は何かありそうだ、ラミキュリアはそう思っていた。
しかし、この話が意味するところが判明するのはずいぶんと後の話だった。
「さてさて、それよりもみんな、それぞれ思い思いにこの泉で過ごしましょうよ。」
各々、思い思いにその場に座りこんでいた。
「ねえね、プリシラ姉様! この泉は”女神の秘密の園”だって!?」
シェルシェルは親し気にそう訊ねていた。
「はい、シェルシェルさん! 気に入っていただけました?」
「うん♪ ”女神プリシラ様の園”の中に”女神プリシラ様の秘密の園”なんて、
すっごく神秘的ですっごく雰囲気出てるー♪」
名は体を表す、まさにその名が示す通りの場所である。
「なんか、賢者レナシエル様が瞑想しているのって、様になっているわよねー!」
シェルシェルはレナシエルのほうを見ると、そう言った。
確かに、賢者様が祈祷をささげているそれは、シェルシェルの言う通り、様になっている気がする。
それに対して、リュミーアは少し心配気に言った。
「レナシエルは……本当は誘惑魔法というものに抵抗があってね、今回の話には正直、ノリ気ではなかったのよ。」
「ええ、確かに、正直、この能力は使い方を誤ると危ないですからね。
だからでしょうか、力そのものを使うことを、ためらっているとかなんとか――」
プリシラもリュミーアと同じように心配そうに話した。
それに対してリュミーアがプリシラに関心しながら訊いた。
「それなのにプリシラ、よくもまあ、あのレナシエルを説得できたわね。」
「はい、うまく使っている生き証人が私であるつもりですからね。
それに、この”園”で修行してもらえれば、何か変わることがあるかと思って、なんとしても説得したのですよ」
確かにプリシラ本人が言うように、レナシエルの不安をものともしないような生き証人ではあった。
「なら、私も瞑想しちゃおっかなっと――」
シェルシェルも瞑想に入った。
「リュミーア姉様はどうされます?」
プリシラはリュミーアに訊ねると、彼女は答えた。
「うん、実はあなたにラミキュリアを引き合わせたくて彼女を連れてきたのよ。」
その話を聞いたラミキュリア、既に瞑想していた彼女は自分の名前が呼ばれたことに反応して2人の元へやってきた。
「私が、どうかしましたか?」
「修行中のところごめんね、多分すでにお互いの話をしているかもしれないけれども、
恐らく、まだ”もう少し踏み込んだ話”はしてないわよね?
本当はプリシラにはもっと早く言うべきだったんだけれども、
でも、泉なんてちょうどいい機会だし、改めて紹介しておくわね。」