プリシェリアには、都の民を引き締める都合、
すべてがプリシラに対して目がうつろになっている男の人ばかりだという最初に聞いた印象に反し、
そうでもない人も割と多くいて、ラミキュリアとしてはちょっと意外だった。
どう考えてもちょっと特殊な国なので、万人には受け入れられにくい、
だから、それなりに反感を買うのではないだろうか、
男は少なくとも全員に近い数を完全に支配しておく必要があるのではなかろうか、
そのあたりばかりを気にしていたけれども、どれも要らぬ心配だったようだ。
というのも、ふたを開けてみると、
目がうつろになっている男の人はやはり最初に聞いた通り存在しているけれども、
彼女のあのルックスを考えれば無理もないだろうプリシラのファンクラブもとい、
自分から女神プリシラ信者と名乗りを上げたであろう者自体が非常に多く存在していた。
それに、何よりこの国は新しい国ということもあって、しがらみというのがあまりなく、
女神プリシラ様という存在の元に皆が等しくあるという体制、
それに共感した人が集まっているというのが根底にあるようだ。
それに、プリシラさんはただの誘惑魔女というだけでなく、
優れた実力を持っている”名士”でもあるため、この国の守り手として大きな役割があった。
しかも、プリシラのこの支配体制の都合上、男が威張らない(威張れない)ため、
お城の中のショッピングモールなどの作りを考えてもわかる通り、女性にもなかなか受けがよく、
他の町よりも華やかな格好をした女性が多いのが特徴だった。
そのため、ガレアでは若干浮き気味の恰好をしているラミキュリアも、この町では普通に溶け込んでいた。
なお、ついでにいうと、シェルシェルもといプリズム族の服装と言えば、
慣例的にどこからどう見ても麗しくて育ちのよさそうで清楚なお嬢様スタイルが定番だという。
そのため、トップスは七分袖の明るい色のブラウス、ボトムスはフレアーなスカートだが、短いのを履く者はほとんどいない。
それは、プリズム族が妖かしの使い手であることから肌の露出を抑えて自らを戒めていることの表れだけれども、
はっきり言って効果のほどは不明、効果なしの可能性もある。
プリズム族は女性社会であるため、女が強いのは当たり前ということから、
だからこそ、女の子はお淑やかに、控えめにと言われて育てられたことで、その様な服装が定着したとも言われている。
しかし、そんなプリズム族の印象が功を奏してか、よく言われている泉の精とされる美しい女性や、
夢の中に現れる綺麗な女の人のイメージ、または、森の中に住まう精霊の姿と言えば、
この世界では誰もがプリズム族の女性の姿を無条件で抱くことが多く、
とにかくイメージしやすい美女の代名詞として一役買っているのである。
ただ、問題は誰もがプリズム族の女性の姿を無条件で抱ける割には、
その女性がプリズム族という種族であることを知らないこと。
そもそも、プリズム族という種族がマイナーな種であるため、その美女がプリズム族ということに結びつかないのである。
とはいえ、特にその”森の中に住まう精霊”についてはプリズム族の姿を抱く人が多いということから、
精霊族のイメージ=憧れのきれいな女の人という図式を成立させたプリズム族は精霊族の鑑と言えるだろう。
ところが、繰り返すようだが、その鑑がプリズム族という種族であることはほぼ知られていない――
話を戻すことにする。彼女らはリュミーアを中心にエダルニア軍をどういなすか、作戦会議をしていた。
敵は先遣隊が何名か上陸しているようだけれども、本隊が上陸を行うまでにはまだしばらく時間があるため、
ゆっくりと時間をかけて考えていた、直ぐに来ないのは敵のほうもそれだけ慎重だということである。
「リュミーア姉様、どうします? まずは風魔法で一掃ですか?」
「まあ、第一波としては十分でしょ。この私に任せなさい。」
確かに、フェニックシアの孤児、つまり”ネームレス”であるリュミーアこと、リファリウスの力なら、
風魔法による一掃は効果絶大なのは明らかだろう。
「第二波はプリシラの聖女の裁きでおk?」
「ええ、お任せください。
二度に分けて拡大範囲魔法でけん制すれば、敵もひるむことでしょう。
そしたらそこへ一気に全員で攻め込みましょう」
「ええ、そうね。んじゃ、私は西側に上陸するらしい”エイジャル大将”陣営を制圧するから、
プリシラは東側の”レンバル大将”陣営をとりあえずシメてきて。それでいい?」
「はい、お任せください。そしたら、あとは、中央軍の”ザワール大将”陣営は――」
リュミーアとプリシラが話を進めている中、ディスティア様が異見してきた。
「ちょっ、ちょっと、それで大丈夫なんですか!?
エダルニアの”風来のエイジャル”と”黒のレンバル”といえば、相当の使い手ですよ!
いや、エイジャルなら、リュミーア嬢であればわけないかもしれませんが――」
すると、リュミーアが頷いて言った。
「ええ、大丈夫よ、彼女ならね。ってか、そういえば、全然話していなかったわね。」
世の中には”風来のエイジャル”と”黒のレンバル”と”鉄鋼のザワール”、
それから、”万人斬りディルフォード”や”雷の娘エレイア”のように、
二つ名を持っている人はそう呼ばれるような所以があり、通り名として知られているのだ。
対し、リファリウスのように、エイジャルやディルフォードのような通り名のある者に対して名前のない存在、”ネームレス”という存在がいる。
彼らは出自が定かではなく、自身の記憶もあやふやということから、
リファリウス自身が便宜的に名前のない者、つまり”ネームレス”という呼称を考えたのである。
しかし、”ネームレス”の能力は通り名のある”ネームド”の方々の比ではないほどの恐るべき使い手であり、
”ネームド”が束になっても敵わないレベルである。
現に、あの万人斬りディルフォードが木刀を使って”おたま”装備のリリアリスに挑んでも敵わなかったほどであるため、
それだけでも”ネームレス”の実力は恐るべきものであることがわかるだろう。
で、その”ネームレス”が何なのかというと――
「実は、プリシラも”ネームレス”なのよ。」
リュミーアはそういうと、全員は驚いた、まさか、そんな人がこの世界にまだいるだなんて。
「しかもこの娘、”ネームレス”の中でもメッチャ強いわよ。
ディア様より強いのなんて言わなくてもわかると思うけれども、
現に可愛いもの大好き魔女っ子お姫様をやってて誰にももんく言わせないような能力使うぐらいだから、
裏を返せばそれだけの実力を持っているってわけよ。」
正直言って、実感が全くわかない異次元の領域なんだけれども、とりあえず、相当に強いことはわかった。
確かに、このプリシェリアをまとめ上げられるのはそれぐらいの使い手、
つまり”ネームレス”ならではと言われた方が説明が付きそうだ。
しかし、そういうリュミーアに対してプリシラは苦笑いしながら返した。
「何を言っているんですかリュミーアさん、あなたが”ネームレス”の中では最強に決まっているでしょうよ。
私は二の次三の次、あなたの足元にも及びません」
「え? そうかなー? ま、仮にそうだったとしても、”ネームレス”の中で美しさ最強といえばプリシラ――」
「美しさ最強はアリエーラお姉様です! ”ネームレス”どころか、すべての存在の中で最も美しい方です!」
「うん、確かにそうだったわね、ごめんね、アリ……。ということは、”ネームレス”の中で可愛さ最強はプリシラ?」
「……それなら甘んじて受けさせていただきます!」
という、リュミーアとプリシラの二人のやり取りを見ていたラミキュリアとシェルシェルは、
なんだか仲がよさそうな二人に見えた。なんというか、ただの知り合いっていう感じでもなさそうだった。
この様子からすると、おそらく親友とか、それぐらいの関係――余程の間柄であり、
二人はそれだけ信頼しあっている仲なのだと考えられる。
それにしても、ここでもまたアリエーラさんの話題が。ラミキュリアはなおのこと、その人物のことが気になっていた。
すべての存在の中で最も美しい方? それはそれはなおのこと、一度拝んでみたいものである。