「ごめん、シェルシェルのこと、また忘れてたわね――」
リュミーアはシェルシェルと2人で、海のほうに向かいながら話をしていた。
2人は船べりに両肘をつき、もたれかかるような姿勢で立っていた。
「ううん、そんなことないよ。
だって、私なんかいつもお言葉に甘えて勝手にガレアに来ているだけだから気にしなくていいよ」
「そう? ならいいんだけど――でも、いつもいつもわざわざ遠いところからありがとうね。」
「うん! ガレアの人、みんないい人だし、いろいろと教えてもらってる!
もちろん、アール将軍様やリュミーア姉様からも、だよ!」
シェルシェルの中ではアール将軍様とリュミーア姉様は別の人という扱いである、
当然、彼女には同じ人であることは知らされているのだけれども。
要するに、それだけよくできた変装術ということである。
ただ、その考え方は深く浸透しており、ラミキュリアも感化されてそのように扱っているのである。
なお、既に今更のことだが、このお話の中でも、彼女はアールとは別の人という扱いで進めていくことにする。
「ねえリュミーア姉様! ラミキュリア姉様って本当に素敵な人ですよね!」
シェルシェルは興奮しながらそう言うと、リュミーアはシェルシェルのほうを向いて言った。
「シェルシェルもそう思う?」
シェルシェルは顔だけリュミーアのほうを向いて話し始めた。
「うん! 思う! プリズム族の元男の人でもあんな人、そうはいないよ!
だから本当に、ラミキュリア姉様って女性になるべくしてなった人なんだなって感じるよ!」
シェルシェルがずっと興奮しながらそう言っている横で、リュミーアは顎に手を当て、
何かを考えながらそのまま海を見つめていた。
「ん? どうかしましたか、お姉様?」
シェルシェルはリュミーアの顔色をうかがいながら訊いてきた。
「うん、ちょっと考え事。でも、そうね、確かに。ラミキュリアは特別な存在なのかもしれないわね。」
リュミーアは笑みを浮かべながらそう答えた。
「うん! きっとそうだよ! 私、ラミキュリア姉様とお話してくる! お姉様もどうですか?」
「ごめんね、ちょっと考えたいことがあるから、また後でね!」
「はい! では、また後で!」
リュミーアはシェルシェルがラミキュリアの元へと走って向かっていくのを見届けた後、
再び海のほうを向きなおった。
そして、船べりに両肘をつき、先ほどの姿勢で佇んでいた。
「……そっか、なるべくしてなった、特別な存在――」
戦艦は目的のポイントへある程度接岸すると、
リュミーアはラミキュリアとシェルシェルの元へとやってきた。
「ここからはボートで行くわよ。」
リュミーアは2人にそういうと、シェルシェルは疑問をぶつけてきた。
「この船のまま岸に近づかないんですか?」
それに対してラミキュリアが答える。
「この大きさの船の場合、接岸するには海の深さがそれなりでないと無理です。
一応、この船は遠浅の地形まではある程度航行できるようにと設計されていますが、
陸地に接岸するための設計ではないので、この船でここから先へ進むことはできません、
ですよね、リュミーアさん?
ということで、ここから先は浅いところでも進めるボートに乗り換えます」
シェルシェルはラミキュリアのその説明に聞き入っていたようだ。
船の設計はリュミーアこと、リファリウスの設計のようである。
といったことで、ラミキュリアの説明通り、
リペアシップと呼ばれるボートを戦艦からゆっくりとおろし、そのボートで接岸することに。
ボートは3人の女を上陸させると、戦艦へ戻っていった。
帰りはルシルメアの町から船で戻ることを予定しているので、ボートも戦艦もこれにてお役御免となる。
そして3人は、リュミーアを筆頭に、鬱蒼と生い茂った森の中を進んでいくことになった。
ラミキュリアはどんなところにも町はあるもんだと思った、ラブリズの例に漏れず。
そういえば、ラブリズの里、つまり、シェルシェルの故郷の時もこんなだったことをラミキュリアは思い出した。
しかし、それがどういうわけか、今回の目的地の雰囲気があのラブリズの里の時と非常に似ていた。
それは、プリズム族の里という都合か、妖気が漂っている感覚を味わったのである、
なんというか、どことなく、人々を惑わし、感覚を鈍らせ、帰り道をわからなくさせてしまいそうな空気感である。
ところが、何故か今回の森の妖気の濃度はラブリズの里の時よりも濃く、明らかに危ない香りが漂っていた。
「なんていうか、ここって、ラブリスよりも妖気の濃度が濃くないですか?」
シェルシェルもその気配に気が付くと、リュミーアが答えた。
「まあ、当然と言えば当然かしらね。
そもそも、これから会う女神様は生来のプリズム族の能力を持っていて、
その力で文字通り人々を支配しているから、ラブリズよりは強力な力が働いていると思っていいわね。
でも、自治区を形成するのに一定の連中を集めているから、
女神様のほうもこんな妖気の中でも意識を平然と保てられるようにはしているみたいだけどね、
本当に平然としていられるようになっているのかは別にして。」
以前は女神様によって完全に支配された町だったようだけれども、
今はれっきとした普通の町らしく、普通の人々も住んでいるということらしい。
鬱蒼とした森の中をさらに進んでいくと、次第に城壁らしきものが見えてきた。
その城壁を確認したラミキュリア、ガレアの建築物にも使っているようなコンクリートブロックに似ていることに気が付いた。
というより、ブロックのほとんどはところどころにガレアで製造したことが刻印されていた、これは一体――
さらに城壁に沿って進むと、城門が見えてきた、やっぱり、あえて城門?
「そうよ。だってここには”お姫様”がいるんだから、城壁もあれば城門ぐらいあるわよ。」
そう、ここは”お姫様”を名乗る女神様が支配する国なのだから。ということは、お城も?