エンドレス・ロード ~プレリュード~

遥かなる旅路・天使の舞 第2部 高みへ 第3章 さらなる高みを目指して

第24節 真の魅力

 リュミーアはラミキュリアを引き連れ、ちょうどガレアに滞在していたシェルシェルも誘って戦艦に乗り、出港した。
「で? どのぐらいで着くの?」
 と、リュミーアは部下に訊いていた。もちろん、リュミーアの正体は一部の限られた者しか知らないこと。 ちなみに、リュミーアという人物自体はガレア内ではすでに認識されており、彼女自身が活動していたこともあったという。
「はっ、はい! リュミーア様っ! 順調なら、2~3時間で到着するかと思われますっ!」
 見た目はとてもきれいで雰囲気も美女そのものだが、 それとは裏腹にこのチュールスカートの女神脚の魔女は、とても恐ろしい魔女だった。
「2~3時間? 2時間なのか3時間なのかはっきりしなさいよ!」
 まさかのツンツン嬢だった。いや、アールの時から、リファリウスの時からそうだった。 女性にはこういう態度は取らないけど、男性に対して風当たりが強いのはいつも通りである。
「大変申し訳ございません! リュミーア様!  順調なら2時間で、今の季節は潮の流れの関係上、3時間になる場合も予測されますっ!」
「だったら最初からそう言いなさいよ!」
「本当に申し訳ございません! リュミーア様!」
 それに対し、シェルシェルがさらに追い打ちをかけていた。
「こらあ! 2時間とか3時間とか言わないで、もっと早く着くようにしなさい!  でないと、アール将軍様にあなたたちがサボっていたって言いつけちゃうんだから!」
 無類のアール将軍様大好きっ娘のシェルシェル、彼女はミーハーだった。
「そんな! これが限界のスペックですよ!」
 兵士たちは慌てふためき、とにかく誠心誠意やっていると答えた。
「本当かな~? アヤシイ――」
「本当ですよ! 信じてくださいってば!」
 兵士たちはお手上げだった。 まあ、言うて本人が目の前できちんと見ているのだし、シェルシェルも本気で言っているわけではなかった。 兵士たちはそれだけちゃんと真面目に仕事をしているのだけれども、今のは本当にハラスメントにならないのだろうか?

 リュミーア様は無茶苦茶怖かった。 だけど、ラミキュリアは出航前にリュミーアから聞いた話について、なんとなく納得したことがあった。
「完璧な美女なんてそうそういないものよ。 どんな女だって残念なところぐらい持っているもんでしょ、普通に生きてるんだからね。  ま、むしろ残念なとこの1つや2つは持っていた方が可愛げがあるし、 だからこそ本当の美女と言えるのかもしれないけれどもね。」
 ツンツン嬢リュミーア様はまさにそれを体現しているように見えた。
 一方で、それを聞いたラミキュリア、自分自身にも思い当たる節があった。
「残念と言えば、私は、元男です――」
 すると、リュミーアはにこにこしながら答えた。
「えっと、こんな言い方するのもあれだけれども、とびっきりの残念なやつね。 あなたはマイナス面が大きすぎるがゆえに、それを思いっきり跳ね返して存在している女じゃあない?  前にも言ったとおりだけれども、その反動こそがあなたという素敵な人間を生み出したのよ、 ラミキュリアっていうとびっきりの美女をね。その結果、あなたと私は今一緒にいるのよ。」
 確かに、最初から女に生まれていれば苦労していなかったのかもしれないけれども、 そうじゃなかったから自分は憧れの受付嬢として働いているんだ、 もし、自分の希望に沿うような状態で生まれていれば、それはまた別の人生だったのだろう。 だから、案外どんな人生だとしても捨てたもんじゃないな――ラミキュリアはそう思っていた。
「完璧な美女なんてそうそういないもの――そういえば唯一の例外がいたわね。」
 例外? ラミキュリアはそう訊くと、それについてはシェルシェルが答えた。
「あっ、アリエーラお姉様のことですね!」
 アリエーラ? 誰だろう、ラミキュリアは訊いた。
「私の親友で、今はクラウディアスを陰で操っている麗しい女参謀よ。」
 と、リュミーアは何故か楽しそうにそう言った。 それに対して、ラミキュリアはとある話を思い出した、そう、先日のアールとの会話にあった一幕である。
「もはやアールを意のままに操ってガレアを支配する影の大ボスってところだね♪」
「私の役回りはそんな感じなんですね」
「ラミキュリアさんとしてもそのほうが気分が上がっていいでしょ、ガレアは私の庭よ! ってな感じでさ。」
 それでいて、そのアリエーラさんというのは、唯一の例外?  どんな人物なんだろうか、ラミキュリアはとても気になっていた。
「アリエーラお姉様はすっごくキレイですっごくいい匂いですっごく優しいんだぁ―― いいなぁ、私も、あんなふうになりたいなぁ――」
 シェルシェルは目をキラキラとさせながらそう言っていた。
「確かに、彼女は世界遺産超絶級の絶世の美女だからね。 あっ、でも、残念なところといえば一つだけあったな、 あんなに麗しくてあんなにキレイなお顔をしていてあんなにステキなお淑やかさんなのに、 それなりにお転婆で、控えめな印象な反面意志が強くて危なっかしいことだってしちゃうんだよねぇ……」
 それを聞いたラミキュリアは楽しそうに答えた。
「あら、それはいいじゃありませんか?  なんというか、聞いている限りではとてもお綺麗な方ですごく可愛らしい印象の方のようですし!  ちょっとばっかし危なっかしそうな面があるみたいですが――」
 それに続けてリュミーアが言った。
「そうそう、そうなのよ。だから私はあの娘を放っておけないのよ。」
 そして放っておけない有志たちが1人2人と増えてくる、彼女のファンができていく。 アリエーラという人の魅力を語りつくすには2時間とか3時間とか、そんな時間があっても足りないようである。