と、ルヴァイスとラミキュリアの2人が話し合っているところを他所に、
アールは自分のデスクに向かって無言で仕事を続けていたことにラミキュリアは気が付いた。
「あらっ!? アール将軍様!? いつの間に!?」
「ん? だって、別に私が話に参加する必要もなさそうだからね。」
「そっ、そんなことないですよ! だって――」
「ん? うん、ルヴァの言うようにラミキュリアさんはなんだか嬉しそうだから私としてはそれで十分だよ。
ねえ、ルヴァ? 楽しそうにしているラミキュリアさんがいると嬉しいだろ?」
そう言われたルヴァイス、どういうことだと焦ってアールに問いただした。
「キミがそう言ったんじゃないか。」
「えっ!? そ、そんなこと言いましたっけ!?」
「ん? ということはラミキュリアさんがいて嬉しくないってことなのかな……?」
「ど、どうしてそんな話になるんですか!」
「なら、どういうことだね? この際だから白黒はっきりつけてみようじゃあないか?
ラミキュリアさんがいると嬉しい! さあ……どうだね!?」
アールがそう言うと、ラミキュリアもルヴァイスのほうをじっと見ていた。
「え……それはその――」
言葉に詰まったルヴァイス、すると思い出したかのように言った。
「あ、そうだ! そういえばまだやらなければいけないことがあったのでこれで失礼します! それでは!」
ルヴァイスはその場から逃げるように去っていった。
「やれやれ。」
アールは仕事の手を止めてそう言った。
「でも、今のってハラスメントじゃあありません?」
「別に率直な感想を聞いてみただけだけど……。
第一、彼は疲れているんだから最初に”休め”って言って追い出したつもりなんだけどさ。
流石に無給で時間外労働までさせてどうこうするっていう頭は私にはないよ。
それにこういうからかい甲斐のあるやり取りは日常だったからね、私と彼がまだ下積み時代の頃の話だけど。
あんまり長い付き合いではなかったけど、周りはその手の話題でお互いを揶揄っていたもんだ。
言っても戦争というものがすべてを奪い去る背景……相手を作るということはやっぱり大事なことだったことの現れでもあるんだけどね。」
「今の話、聞こえたぞ」
執務室から出てきたルヴァイス、エイジと鉢合わせになっていた。
「で、結局のところ、どうなんだ?」
エイジは意地悪そうに聞いてきた。
「勘弁してくださいよ――流石にハラスメントとは言いませんけど……」
「ハラスメント――そう言われたらな……悪かった」
エイジは少し申し訳なさそうに言った。
「いえいえ、もはや通過儀礼みたいなもんです、気にしていませんよ。
無論、相手が欲しいというのは山々です、お二方共に間に合っているというのが少々信じられないぐらいね――」
ルヴァイスはそう言いつつ、そんなことを言う2人に対して少々悩んでいる様子だった。
一方でラミキュリア、アールに改めてルヴァイスのことを訊いた。
「あら? そういえばルヴァイスさんって下のお名前は”ランスロット”……?」
アールは気さくに答えた。
「そうそう、彼はランスロット家のオンゾーシだよ。
ガレアは以前ランスタッド管轄軍の猛将ディアス=ランスロットが執り仕切っていたんだ。
ルヴァはそのディアスの一人息子なんだよね。」
そしてディアスはアールに将軍の座を譲り、ルヴァイスはアールの下にいる――ということである。
「世襲っていうのは実力主義的な私にしてみればあんまし好きな部類じゃあないけれども、
それでもディアスにも頼まれちゃったし、ルヴァイス本人もそれなりに実力があったからね、
だから副将軍として招き入れることにしたんだよ。
言い方は悪いけど、ランスロット家のオンゾーシってことで一定の連中には顔が利くのも事実だし。
言ってもそこはルヴァの了承を得て利用しているところなんだけどね。」
ラミキュリアは納得していたが、一つだけ腑に落ちないことがあった。
「ところで……ルヴァイスさんとはあんな話をされるですか?」
ラミキュリアは首をかしげながらアールに訊いた。
「ん? まあそうだね、私も言われた口だけどさ、いよいよ時代錯誤の話題って感じだよね。」
ラミキュリアは首を振った。
「戦争のせいですよね……」
アールは頷いた。
「それがなくなれば……相手を急いで求めなくたっていいハズなんだ。
彼はやっぱり一家のオンゾーシゆえになおさら急がされているキライがある……彼の周りも大体そんな感じだった。
だから話題も大体その手の話題が多くなるんだ、いいんだか悪いんだかって感じだよね……」
そして、アールは改まって核心を突いてきた。
「ところでラミキュリアさんはどうかな?
ラミキュリアさん、ルヴァが自己紹介したあたりからルヴァに対する態度が変わってるよ。」
それはほんの些細な変化、しかしアールは見逃さなかった。
そう言われたラミキュリアは図星で、顔を真っ赤にしたまま何も言い返すことができなかった。
「それこそセクハラになるかもしれないから本当はあまり言いたくはないんだけれども、
私は全力で応援しているよ、”全力で”ね。」
そう言われたラミキュリアはなおのこと何と言い返していいのかわからなかった。