エンドレス・ロード ~プレリュード~

遥かなる旅路・天使の舞 第2部 高みへ 第3章 さらなる高みを目指して

第21節 女の園

 テレフ・テレトリでの戦以降、ラミキュリアの恰好はさらにエスカレートしていた。 そう、あのセクシーな服装がさらにセクシーな服装へとエスカレート……しているわけではない。
 それはあれから1年後の話である。
「うふふっ♪ おはようございます、将軍様♥ ラミキュリアをおひとついかがですか♥」
 アールが司令室に入ってくるとラミキュリアはソファの上に寝そべっており、アールを誘惑していた。
「おおっ! これはこれは麗しの女王様! 相変わらずセクシーだね!」
 アールは楽しそうに答えた。 ラミキュリアの手首と足首にはあからさまに拷問器具のような見た目がゴツイ鎖つきの手枷足枷が装着されていた。 そう――服装のセクシーな女がソファーの上でまるで拷問台に縛り付けられている状態で男を誘惑しているという、 なんとも触りのありすぎる光景なのである。
 で、それがどういうシチュエーションなのかというと、 ラミキュリアがテレフ・テレトリの連中につかまって磔にされた時に取り付けられた拷問器具をヒントに彼女自身が考えたもので、 その拷問器具も鎖もあくまでそういうデザインのバングルとアンクレットなのである。 そのいずれもアールが作った革製のアクセサリであるため、本当に束縛されているわけではない。 そしてもちろんその鎖も布紐同様にペンデュラムの一部であり、 彼女の意のままに操ることができるのである……彼女は完全に魔女だ。
「もはやアールを意のままに操ってガレアを支配する影の大ボスってところだね♪」
 アールは楽しそうに言うとラミキュリアも楽しそうに答えた。
「それが私の役なんですね!」
 あくまで”役”……そもそもアールは彼女の誘惑魔法が通じていないのか、女性耐性が強いのか。
「ラミキュリアさんとしてもそのほうが気分が上がっていいでしょ、ガレアは私の庭よ! ってな感じでさ。」
「そんな恐れ多いこと――流石にあなたの庭を土足で踏み込むようなことはできませんわ。 でも、庭と言えば花壇にお花をたくさん植えましたよね、キレイにしていきたいですね――」
 そう、ガレアはそもそもアールの庭である、こんなセクシー美女まで従えるとは恐るべし――

 そんな話をしている中、誰かが2人のいる執務室の扉の前あたりで操作盤からアールを呼んでいた。
「あら? これは誰でしょう? 誰かがお呼びですが――」
 ラミキュリアは操作盤前にいる人物をモニタ越しで確認しながらアールに伝えた。
「バルナルドからの帰還組だね、入れてあげて。」
 アールもその男を確認するとラミキュリアに促した。 ラミキュリアは言われるがままにその男を中へ入るように促したが、 その男もラミキュリアの姿を見るや否やとても驚いていた。
「やあ、お疲れさん。 ロサピアーナもいい加減にすればいいのに――って、あの人たちに何を言ってもムダか。 まあいいや、とにかくしばらく休むといいよ。」
 そう言ったアールに対して男は何か言いたそうだった。
「いや、えっと……あのー、報告を――」
「先にメールでもらっているからわざわざ要らないよ。 もしほかに積もる話があるんだったら落ち着いてからでいいよ、 ゆっくりと休めばいいさ、だから――」
 と、アールは何やら考えながら言うと、男は気になったので訊いた。
「まさか報告内容に不備がありました?」
「いや、そうじゃない、そうじゃなくて…… 最近不穏な動きを見せている組織があるらしいって話を聞いててちょっと考えていたところなんだよ。」
 それに対して男は訊いた。
「まさか……エダルニア軍ですか?」
 アールは驚いていた。
「おや、話が早いね、そう、エダルニアだよ。まさか何かあった?」
 男は首を横に振った。
「うーん……どうなんでしょうか、実はライオニットからの帰り際で連中の動きが見えたものですから――」
「えっ、ライオニットからの帰り道? エダルニアからちょっと遠くない? それは確かに妙だなぁ――」
「気になりますね――」

 気になるといえば、ラミキュリアも男もお互いを気にしていた。
「そういえばアール将軍様、こちらの方は?」
 ラミキュリアはそう訊いた。
「あれ? そういえばお互いに初対面だったっけ?  忘れていたね、紹介するよ。名前は――」
 男は頭を少し下げつつ右手を掲げたので、アールはその男に任せた。 男は改まって丁寧な物腰で放し始めた。
「申し遅れました、 私の名前はルヴァイス=ランスロット、 ガレア軍所属のアールの下で副将軍をさせていただいております!  よろしくお願いいたします!」
 え、副将軍様!? ラミキュリアは驚いた。
「そんなに驚くことじゃあないよ、階級はラミキュリアさんのほうが上だからね。」
 そうなのか!? ルヴァイスは驚いていた。言われたラミキュリアはもっと驚いていた。
「一方で、こちらの美女はキミがいない間にスカウトしたラミキュリア=クアルンキャッツさんだよ。 受付嬢から情報部門まで取り仕切ってもらっているけれども、今や私の代行も務めてもらっているんだよ。」
 将軍の代行!? 2人はなおも驚いた。 いや、確かに将軍不在の折にそんな役割を受け持ったこともあったけど――ラミキュリアには思い当たる節があった。 しかし、代行というのは――
「それに、彼女は悩殺魔女ラミキュリア女王様……超強力な誘惑魔法の使い手で男使いとも言われるんだ。 つまり彼女の階級は男たちの頂点に君臨する女王様だから、 たとえそれが将軍・副将軍だろうと男である以上はラミキュリア女王様の命令こそが絶対であり、 逆らうことはできないんだよね。だからキミも今日から女王様に使役される側というわけだ。」
 そう言われてラミキュリア女王様は焦っていた。 その理屈については一応至極真っ当ではあるのだが――いくら何でも……
 対して、ルヴァイスは苦笑いで誤魔化しており、話を始めた。
「スカウト!?  あれっ、帝国の女性兵士ってだいたいガレアに集めた感じだって言っていたじゃないですか?  それなのにどこからこのような人材が? ……まあ……ちょっと気になっただけなので別にいいですけど――」
 それに答えたのはラミキュリアだった。
「私、元水商売なんですよ。そこでいろいろとあって――」
 ラミキュリアは簡単に自分のことを話した、性別の話は除いて。
「……そうだったのですね、なんだかすみません……話したくないことまで話させたみたいで。 しかし、あのダイムに利用されたのですか――それは許しがたい行為ですね。 故人のことなので言いたくはないのですが、 それでもアルディアスとの戦いでは天罰を受けたのだと思ってほしいですね――」
 そう言われたラミキュリアは共感していた。
「そうですよね! 私もそう思います!」
 マウナであったこと、自分だけではない。 かつてのマウナであったことそのものがダイムの行いを体現していた、それはそれは相応に酷いものだったようだ。
「でも、ラミキュリアさんは無事でよかったですよ。 以前のラミキュリアさんを知っているわけではないのですが、 今はなんだかいきいきとしてらっしゃるようですし、なんというか本当に――本当に良かったと思います――」
「そう思います? でも確かにそうかもしれません。もしあの時、アール将軍様に助けてもらえなかったら私――」