一方、アール将軍率いるフローナス作戦展開部隊はいよいよフローナス本土へと上陸するところまで作戦を展開し、
本部周辺へとすでにたどり着いていた。
本土とは言うが、実際にはフローナスは上空に浮かんでいる浮遊大陸と地上部の2つがあり、
そのうちの地上部のほうに上陸したのである。
ガレア軍の侵攻はここまでで3日を要していたが、
アールとしてはこれほどまで早く侵攻できたことについて違和感を覚えている状況だった。
しかし、その違和感については既にダイムのマウナ軍の戦闘データがすべてを物語っていた。
どういうデータかというと――それは実際に見た方が早いだろう。
「あとは本部を占領するだけです!」
白兵戦が展開されているさなか、ガレア軍の最前線で指揮を執っているジェタはそう言った。
それに対してフローナス軍は自慢気に言い返した。
「残念だがそうはいかんな!
我らが本部はこの通り、防弾シャッターで完全に閉ざされている!
お前らこそこの場で降伏することだ!
もうじき上からの増軍を予定している――お前らに勝てる戦いではないのだ!」
つまり、ガレア軍としてはここでもたもたしていると不利になっていく……
かつてのマウナ軍がフローナス相手に手をこまねいていた理由がこれである。
フローナスの戦術は敵の主力部隊を本土で迎え撃ち、
確実に仕留めてからリスクを最小限にして敵の本土へと上陸するという籠城作戦を得意としているのだ。
まさにそれこそがアールの抱いている3日の違和感でもあり、
敵もそのぐらい早い時間で来ることも想定しているのである。
そして、ここでガレアの軍勢の戦力を削いでからディスタードへ本格的に侵攻する作戦が決行される、
そういうことなのだろう。
しかし、今回のガレアの作戦はそれを承知で挑んだ。何故なら――
「隊長! 将軍が到着しました!」
隊員がジェタにそう伝えると、ジェタは全隊員に指示を出した。
「ご苦労様。みんな下がれ!」
ジェタのその合図でその場にいたガレアの戦闘員の一部は一斉に後退し、将軍の援護を行っていた。
「ふう、やっとこの時がきたってところだね、あともう少しだ。」
「俺が援護してやっから、防弾シャッターを早いところ始末しろよ」
「わかってる、焦んないの。」
アールとエイジはいつもの調子で会話をしていた。
「将軍! 重装兵がやってきます!」
ジェタがアールに注意を促した。
「そう……どうしてもというのなら仕方がないね。そういうことなら戦闘開始。」
今度はアールの合図でガレア軍は一気に出撃した!
「あいつはアール将軍だ! 敵の将が直々にやってくるとはバカなやつだ!
ヤツを打ち取れ! 連中のかしらを打ち取るのだ!」
フローナス側の司令官はアールの存在にすぐさま気が付くと全員に促した。
「ふっ、やれるもんならやってみな。」
アールはそう言うと瞬間移動のごとく、まずは先頭に出てきた重装兵を背後から一撃でぶっ飛ばした。
「あいにく、殺しは苦手なんでね、そのまま気でも失っていてもらえれば助かる。」
「つっ、強いっ――」
アールはそのまま敵を翻弄しつつ、それぞれ背後から一撃ずつ与えながら防弾シャッターの手前までやって来ると、
そこにいるフローナスの司令官が構えた銃を破壊した。
「そうとも大正解、私がアール将軍だ。
だけどキミは何故敵の将が直々にやってくるのか、その理由を深く考えたことがあるのかい?
まあ、そんなことはどうでもいいか。それより今すぐ降伏するんだ。
悪いけど今更加減するのも面倒くさいからね、この先どうなるかは保証しないよ?」
「降伏だと? 何を言うか、残念だがこの防弾シャッターは重戦車の砲弾さえも通用せん! 諦めるのはお前らのほうだ!」
敵の司令官は懐の剣を引き抜いたのだが、
アールの剣……いや”兵器”の前では無力も同じ、引き抜いた瞬間に破壊された。
さらに自らの背後から何者かが自分の向けて発砲してきたことを察知すると即座に弾丸をかわし、
撃った相手の銃も破壊すると、再び司令官の元へと歩いて戻ってきた。
「と、これが敵の将が直々にやってきた理由の一つ。
もう一つの理由は――仕方がないな、言ってもわからないやつは実際に痛い目みなければわからないとも言うしね。」
アールは半ば呆れ気味にそう言い放つと、今度は防弾シャッター相手に”兵器”を振りかぶった。
「何をバカな!
この防弾シャッターは戦車砲はおろか、戦艦の攻撃や高性能の爆弾でさえ傷つけることはできぬのだ!
……ましてや刀剣なぞで貫けるとは言語道断!」
アールは不思議そうに訊いた。
「え? それってことは実証していないってこと?」
司令官は答えた。
「ふっ、それは違う――刀剣なぞ最初の実証実験でクリアーしている段階で話題に出すこと自体がおこがましいという意味だ!」
アールは何食わぬ顔で訊き返した。
「ふーん、あそう。でも、いくら刀剣っつっても私の作ったこいつでは試したことないでしょ?
そもそもほかには流出していない品だからね。
よーし、そういうことなら今すぐ実証実験してあげるね。」
「な、何を言っているのだ! わけのわからぬことを言いおって!
だったら試してみるがいい! 我らが防弾シャッターは無敵!
誰が作ったは知るまいが、刀剣などお呼びではないのだ!」
そう、そんなあり得ないことが起こるわけがなかった、フローナス軍の常識の中では。
しかし、アールたちガレア軍の常識では予定のうちである――
「そ、そんな……バカ……な……無敵の防弾シャッターが……」
アールの”兵器”一振りでシャッターを縦に両断、もう一振りでさらに縦に両断、
そして横にそれぞれ両断すると、四角形の切込みが。
アールはそれを蹴り飛ばすと”ズドン!”という大きな音と共に防弾シャッターは豆腐のような形状でくりぬかれていた。
くりぬかれた豆腐の場所から長方形型の入り口が開いた。
「あーらら、これは残念! 実証実験は失敗に終わったようだね。んじゃ、そゆことで★」
アールは軽いノリで中へと侵入した。
この本部にはフローナス製のミサイルの発射台が併設されていて、その制御室を制圧した。
かつてのマウナ軍もこのミサイルにやられていた記録があり、
此度もフローナスのガレア軍に対する反撃の切り札として使用を予定されていたのだがとうとう抑えられてしまった。
「さて、どうするかな?
キミらがせっかく作ったミサイルサイロだけど、
これをキミらの拠点である上空の島へ標準を合わせて、発射すると~?」
アールは意地が悪そうにそう訊いた。
フローナス軍はあっけなく降参した、ガレア軍の勝利である。
そう、ガレア軍の主力兵器と言えばガレアの将軍自身、
どんな兵器よりもどんな軍備よりもこいつ自身が強いということである。