あれから数日後、マウナ要塞が降伏したはずのアルディアス軍の最後の抵抗によって陥落した。
展開が急すぎて何が何やらという感じかもしれないが、具体的には別の話にて。
だが、そこでも触れられている通り、その作戦にはガレア軍も加担していたこともあってか、ガレア軍はその処理に追われている最中だった。
「アール、ちょっといいか?」
「本当にちょっとだけよ。」
エイジはそのセリフを無視してアールのいる執務室に入ってきた。
「例のマウナから放たれたミサイルの出どころがわかったぞ」
アールは端末で作業をしながら答えた。作業に専念し、話半分といった態度だった。
「フローナス製だろ?」
「何故わかった?」
「なんとなく。ただ、フローナス製のそんな物騒なブツが普通にディスタードに入ってくるだなんて到底思えなくてね、
そこだけがどうしてもわからない。」
アールがそう言うとエイジは頷いた。
「実はそのことについてなんだけど、気になることがあってな――」
エイジは話を続けた。
「ただのフローナス製の大型ミサイルにしては、変な改造が入っていてな――」
アールは答えた。
「だろうね、それも考えていた。
というのも、フローナス製の近距離大型ミサイルだとマウナからクラウディアスまで8%の命中率をはじき出すのは多分ムリだろうし、
仮にフローナス製の長距離大型ミサイルだったとしたら、多分もっとサイズの大きいミサイルな気がする。
そもそも論として、ドケチで有名なダイムのことを考えるとマウナにそんな大きなミサイルの発射台なんてありえないハズだから、
あれは近距離用の大型ミサイルとみるべきだろう。ねえ、ラミキュリアさん。」
アールが促すとラミキュリアはモニタを確認しながら答えた。
とにかく作業の反応が早いデキる女秘書としての地位をものにしてしまっているようだ。
「はい、ご推察の通り、今回マウナから放たれたミサイルの残骸を分析した結果では、
このモデルはフローナス製の近距離用のロケットミサイルに似ているようですね。
そのミサイルの仕様だとマウナからの射程圏内としては一番遠くてもガレアから西へ20kmのところに届くのがせいぜいで、
理屈的に100km以上も離れたクラウディアスに8%の確率で命中するのは考えにくそうですね、
そもそも届くのでしょうか?」
その話を聞いたエイジは再び頷いた。
「20kmがせいぜいだから遠くが狙えるように改造を入れたってところだな。
その目的はクラウディアス……命中率8%っていうことから考えるに、
当てることよりも牽制することを目的にしている可能性がありそうだ」
それに対してアールが作業を続けたまま言った。
「クラウディアスが標的ということならやっぱり本土軍のベイダの仕業ってことになるね。
どこかから大型ミサイルの発射台をもってきているんだろうけど、
本土軍とマウナ軍は仲がいいから立地的に本土よりもマウナ要塞に運んでクラウディアスに撃ってもらったほうが好都合だったという算段だろう。」
エイジは頷いた。
「でも、その場合は相手がクラウディアスってことを気にしないとダメだろう?
向こうは防弾壁ミサイル・ガードで文字通りミサイルの攻撃をいとも簡単に減退させてしまう、
今回のミサイルの実装では通常のミサイル・ガード相手には歯が立たないものだったぞ。
本土軍がクラウディアス相手に二の足を踏んでいる最大の理由が主にここにあるわけだからな、もっとも届かないんだが――」
アールは頷いた。
「そう、その通り。つまり牽制ですらないってことだね、言ってしまえば今回は試し撃ちに近いところがある。
とはいえ、それでもクラウディアスを狙おうという意図があるのはだいたいはっきりしている。
つまり、クラウディアスを襲撃したいという利害の一致する”誰か”がフローナス製のミサイルを改造し、
本土軍またはマウナに提供した可能性がありそうだ。
で、それが誰なのかは――恐らく、今回の争点になるところだね。
利害の一致というのはなく、単にミサイルを改造して売りつけただけとも考えられるけれども。」
それに対してエイジは再び話をした。
「で、問題の”改造”の件なんだが、先日の大嵐でガレア近海で座礁した輸送船の件につながりがありそうだ」
それにはアールは作業をピタリと止め、エイジのほうに顔を向けて言った。
「へえ、それはなんだか面白そうな話ねぇ。」
こいつがこれを言う時はたいていろくなことがない――エイジはアールのリアクションに対して片手で頭を抱え、悩んでいた。
そのガレア近海で座礁した輸送船には2本のロケットミサイルが積まれていた。
エイジはそのミサイルを解析していたのである。
そして、そのミサイルこそがフローナス製のミサイルのため、
アールは先ほどの話題でカマをかけるつもりでそう言ったのである。
「あのロケットミサイルの設計と今回のミサイルの残骸を分析した結果から確認できた改造といい、かなり似通っている点があるんだ」
エイジがそう言うとアールは何やら考えていた。
「なるほどね。
ついでなんだけど、実はたった3時間ぐらい前にあの輸送船の持ち主を語る人物から電話があってね、
積み荷を返してほしいと言ってきた。」
エイジは驚いた。
「は? 返せだと? 誰に?」
「……実はそれがよくわからないんだ。
ただ、それについてどうすればいいのか聞いてもまた後日伝えるとかなんとか言っちゃってさっさと切れてしまったしさ。
それで身元を確かめるために電話の発信源を何とか調べてみたんだけど、
どういうわけか発信源となる場所が存在してなかった。」
「存在してない?」
「一応そこに一番近い建物があって調べてみたけれども、
見たこともない軍隊が出入りしているぐらいでそれ以外は特に手がかりを得ることはできなかった。」
「見たこともない軍隊?」
「もう、エイジ君は知りたがりだな。仕方がない、ラミキュリアさん教えて差し上げなさい。」
ラミキュリアは承知いたしましたと答えると、
エイジにその映像を見せながらある程度説明し、その後にアールが説明を加えた。
「つまり、発信源は”ライオニット大陸”という場所のこの辺で途切れていたってこと。
で、そこから外れたところに謎の建物がここにある。これがその謎の建物。
この通り、建物と発信源は随分と離れている……ミサイルの所有者と建物の所有者とは関係があるのかどうかも何とも言えないところなんだよ。」
当然ながらその建物についても調べてみたが、その勢力も情報にはなく正体もわからずじまい、よくわからなかった。
「こいつらは新興勢力か?」
モニタ上でその建物を出入りしている連中を見ながらエイジはそう言うとラミキュリアが答えた。
「わかりません。ただ、フローナス軍といえばマウナ軍が押さえていた勢力ですよね?」
それに対してアールは頭を抱えながら言った。
「そういうことだね、しゃあない、行くか――」
行く? エイジは訊いた。
「実は私が今見ているのはその件についてなんだよ。
マウナが壊滅してしまった今、フローナス軍がこの機に乗じてディスタードに侵攻しようという動きがあるみたいでね。」
それはなんとも気が早いことで――
「例えば――たった今来たメールの内容を見るかい?
マウナで情報収集している我が軍からのレポートだ、マウナ解体による撤退命令で連中が押し返そうとしているらしいんだ。
今は何とか押さえつけているようだけど、マウナの主要メンバーがいなくなったせいでフローナス軍が勢いづいているそうだよ。」
「うーん――マジか……」
エイジも頭を抱えることになった。