戦争が激化し、ガレアよりもはるか南方にある大国、アルディアス軍がディスタードのマウナ軍に降伏した直後の話である。
「将軍! 大型ミサイルが飛んできます!」
ガレア管轄の大隊長ジェタが慌ててアール将軍のいる指令室へとやってきてそう言った。しかし――
「アール将軍様はいらっしゃいません。私がお伝えいたしましょうか?」
ラミキュリアはアールの代わりにそう答えた。
まだガレアに来て半年程度しか経っていないにも関わらず、
ガレアの受付嬢兼情報部門としてすっかり板について仕事しているラミキュリアが、
相変わらず可愛げでセクシーな格好、男性にとっては目の保養か、
または目のやり場に困るような装いで、将軍様のデスク上で仕事をしていた。
「ラミキュリアさん、マウナからミサイルが放たれているようです!」
ジェタはラミキュリアに話を伝えた。ラミキュリアは首をかしげながら答えた。
「マウナからですか? 変ですね――
ガレアを落とすのに直接攻撃を仕掛けてくるなんてこと、今までになかったのでは?」
話をしながらラミキュリアはミサイルの軌道を改めて確かめるためにモニタの画面を切り替えた、すると――
「このミサイルの軌道――私はあまり詳しくはないのですが、
ガレアを狙うにしてはちょっと高すぎるような気がしませんか?」
ジェタはそう言われると、そのモニタの画面を確認した。
「うーん……そう言われてみるとガレアの高空を通過するような感じですね――」
「エイジさんに分析させましょう」
ラミキュリアはそう言うが、エイジはこの部屋に既にやってきていた。
「その通り、このミサイルはガレア上空を通過する。
推測でしかないが、着弾地点はさらに西の海の向こうにある国かもしれない――」
ラミキュリアは驚き、すぐさま立ち上がり言った。
「そんな! ここから西ってクラウディアス王国しか!
それにクラウディアスを狙うにしてはこの軌道……ちょっと遠いような――」
「もちろん。だけど計算上では命中率8%……万が一ということもある確率だな――」
8%……可能性としては明らかに命中しないことのほうが大きいという計算である。
しかし、それでもまだ命中する確率は残されている、どうするべきか……3人は悩んだ。
「どうしましょう――」
流石にラミキュリアの判断でそのミサイルをどうするか決められなかった。そんな中、
「いえ、将軍不在だからこそ私たちの資質が問われるのです! あれは私に任せてください!」
決断したのはジェタ隊長だった。彼女のこの勇ましさ、流石というべきか何というか。
ともかく、それに感化されたラミキュリアもこの件をジェタに預ける決断をした。
「わかりました! それではジェタ隊長! ミサイルの件お願いしてもよろしいですか!?」
「はい! アール将軍にはそのようにお伝えください!」
ジェタはすぐさま外に出て、演習中の対空戦車隊を招集すると撃墜のために備えた。
「マウナにあんなミサイルがあったのですかね?」
「それにしても、だいぶ高空を飛んでいますね、対空ミサイルで狙ったほうが確実でしょうか?」
兵士たちはマウナから放たれたミサイルについて疑問の声を上げていた。
その点も腑に落ちないのだけれども、今はそんなことを言っている場合ではなかった。
すると、その時に別の兵士が、
「ジェタ隊長! 対空ミサイルが10機配備されました!」
と、ジェタに伝えた。
「あら、予定よりも早いですね」
「アール将軍がもうすぐお見えになります!」
アール将軍? なるほど、そういうことかとジェタは思った。
その対空ミサイルは別の場所に配備されていたもので、
今回、アール将軍がその軍備を含めて一斉撤去をしてきたのだ。
その撤去してきた対空ミサイルは即時使用可能な状態のまま都合よく到着したのだった。
そして、ジェタは急いで対空ミサイルに搭乗すると、高空を飛んでいるミサイルをロックオンした。
「空を荒ぶる破壊の悪魔よ……この私が撃ち落とす!」
ジェタといえば”アンチ・エアー”の異名を持つ対空戦が得意な戦車乗りとしても有名な兵士でもあった。
彼女の手にかかれば敵機は跡形もなく撃墜されるだろう。
「全隊、迎撃用意!」
ジェタの号令に全員が息をのんだ。そしてその緊張の中、ついに――
「撃て!」
ミサイルの距離が十分に近づいてからの発射、
ジェタのその合図とともに複数の対空ミサイル砲台からミサイルが高空に放たれた。
ミサイルは命中、敵のミサイルは高度を見る見るうちに落としたが、最後に上空で大爆発を起こした!
「ちょっ! ちょっと! 全員退避! 早く逃げて!」
残骸が上空から落ちてくる!
後で考えると予想できた可能性もあった気がするが、それでもガレアに落ちてくること自体は予想外だった。
「うーん……ロケット砲が5台もおじゃん――」
ガレアに到着したアール、その現場の周囲を見渡しながら言った。
「アール将軍! 大変申し訳ございません!
ミサイルの大爆発を予期していなかったため、このようなことになってしまいました!」
ジェタは必死に謝っていた。
ミサイルの空中大爆発によってその残骸の一部がガレアに落下していた、
そして、ロケットランチャーを搭載しているトラック5台を破壊していた。
とはいえ、ガレアへの被害はその程度で済んだのは不幸中の幸い、
建物にもいくつか落下したようだが惨事には至らなかったようだ。
「ん? うん、そんなことは気にしなくていいよ、
むしろジェタさんの判断がここの全員の命とクラウディアスの人々までも救ったんだから、
ジェタさんはまさに救世主じゃあないか。
だから後は男どもにこの残骸の撤去をやらせればいいんだよ。」
アール将軍は大したことではないことを改めて伝えた。しかし、男たちはゴネていた。
「しょうぐーん、男使いが荒いっすよ~」
「あ? じゃあ何か? お前らはこんな華奢な女性たちにそんな重労働を強いるのか?
こういうのは適材適所っていうでしょ? 力仕事なら俺らに任せろ、そうは思わないと――」
「いえ、そういうことではなく……」
「だったらさっさとこの残骸を撤去するんだ、今すぐにだ。」
……男使いが荒い。