プリズム族の里には長と”プリズム・テラー”とも呼ばれる番人がいて、
番人は里の守り主、プリズム族の中でも守り手として能力の高い女性が番人に選ばれる。
ラブリズではその能力の高い者こそがシェルシェルであり、
里長として一族をまとめる役を担うのは里の番人を経験した者の中から選ばれるのだという。
それにしても、その里の長と言われる人物についてだが、
ラミキュリアはその長に対面した時に非常に若い女性であることを気にしていた、それは? エイジに訊いた。
「若い姿ってことは他種族の男を獲得するうえでは有利に働くってことだな。
そうであるがゆえに、プリズム族は若い期間が非常に長いんだそうだ。
どこぞの戦闘民族と同じで生存競争をするうえでより優位になるような道を選んだ結果の姿なんだろうな。
逆に老け衰えた姿になったプリズム族はほとんどいないらしい」
すると、エイジは今まで思っていたことについて、出し抜けに訊いた。
「あのさ、前々から――その、変な質問して悪いんだけどさ――
あんたの胸、大きいよな、そんなに胸大きいと肩凝らね?」
どうだろうか、ラミキュリアは気にしたことがなかった。
確かに以前は胸を大きく見せるために詰め物をしてごまかしていた。
しかし今はどうだろうか、性別適合術を行うと伝承の通り、
今度はホンモノの大きな胸を授かり、ラミキュリアは当初は驚いていた。
「ふふっ、結構大きいでしょ?」
ラミキュリアは楽しそうに少々色っぽく答えると、エイジは考えながら言った。
「大きいと言えば約一名思い当たる人物がいるんだが――
”あいつ”はそんなに好きじゃないって言ってたな、ある分には越したことはないって言ってたが。
あんたはどうやら気に入っている様子だから全然かまわないんだけどな――」
エイジの豊胸に対するリアクションは薄く、興奮している様子もなく、ラミキュリアとしては少々残念だった。
それにしても”あいつ”とは――ラミキュリアはその人物に心当たりがあった。
「あの人も大きいですね! エイジさんはそっちが好みなんですか!?」
エイジは嫌そうに答えた。
「いや……俺は遠慮しとく――そもそも”あいつ”は苦手なんだ……」
そうなのか、それも少々残念。
「他に術後に変わったことは?」
エイジにそう訊かれたラミキュリア、髪の毛の色が変わり、胸が大きく膨らんできたこと、
そのほかにも身体の感触がなんとなく変わった気がするし、
声ももともと女性なりの高音が発せるように努力はしてきたけれども、
以前よりもなんとなく透き通るような声質のような感じもする。
そのほかにも体格自体もなんとなく変わった気がする。
変わったことはいろいろあるけれども、不都合や不自由と感じる要素については一切なく、支障は一切なかった。
むしろ、ラミキュリアとしては以前の定期的なホルモン投与の負担の面倒がゼロになったことが大きかった。
「なるほど、手術は完璧に終わったってことだな。
プリズム族の性別適合術の技術はやっぱり高度な技術だってことの現れだな。
プリズム族としても手術相手は対プリズム族が普通だったのに対し、
今回はプリズム族外、ましてや精霊族ですらない人間族のディストラード人に対しての手術になるわけだから、
彼女らとしても冷や冷やものだったのかもしれないな」
当然、この行為は生物学的にも興味のあるサンプルになるに違いないだろう、エイジはそう付け加えた。
とはいえ、エイジはこれについては興味があるわけでもなし、
それに、個人のプライバシーにも関わることから公表するつもりもないという。
「第一、プリズム族ってのはマイナーな種族、
世界的な認知度は低いどころか、そもそも知られているかさえも怪しいレベルの種族、
公表したところで珍しい種族程度の関心しか示されないのがオチだろう。
そもそも他種族の臓器を移植って行為自体が倫理的にどうなんだって議論もあるんだけれども、
ヒューマノイド・エルフェイド・デモノイド間への移植については昨今の戦争での反省からあまりとやかく言われなくはなっている。
そもそも今回の移植については間接的にラミキュリアさんが望んだこと、
それらの背景的からすると――まあ、よかったんじゃないかって俺は思うんだけどな」
戦争の反省については臓器提供の点についての反省である。
戦争の被害者の中で、刻一刻と死が近づいている中でドナーと種族が一致しないため臓器移植が見送られた結果、
亡くなった者が多数おり、種族一致の決まり事さえなければ助かった命が数多くあったかもしれないと、批判の的になったのである。
話を戻そう。
女として強い自分、誰もが羨むほどのビジュアル、
妖艶で悩殺的なボディと、その能力を秘めている血が流れた癒しの精霊様、
ラミキュリアはその能力者として新たに人生を歩みだしたのだ。
性格は控えめなのは素の自分がそういう性格だったため、
そこはたとえ何者にもなっても変わることはないのだろう、それがラミキュリア自身なのだから。
だけど私は悩殺担当の誘惑美女、以前は”こんな美女が男なわけがない”とちやほやされ、
その女が今や悩殺女神様降臨伝説を打ち立てたのだ、ならばその期待に応えるのが筋というものだ。
悩殺女神という魔女、ラミキュリアという存在がそれほどだというのであれば私の生き様も決まったも同然。
好きでなったこの身体、セクシーな美ボディを備えた魔女ラミキュリア。
そうよ、私は女になるのよ、どこからどう見てもセクシーで誰もが憧れる美女、
それが自分の望んでいた究極の姿、全身全霊を賭けて私は日々精進するのよ――ラミキュリアは改めて決意したのである。
「そういえばさ、どうして”ラミキュリア”って名前? なんとなく察しはつくんだが――」
エイジはラミキュリアに質問をぶつけた。