病床から這い上がってきたカミラはその後、いろいろと変わっていった。
まずは自慢だったブロンドの髪の色が、何故かいきなりクリアーで神秘的なヴァイオレット・カラーへと変わっていたこと。
ブロンドの髪の色はそのヴァイオレット・カラーの中にラメ状に残っている――彼女の新たなる自慢の髪である。
その際、ブロンドの髪の部分はまだ残っており髪の先端だけ染めたような感じに整えていたのだが、
ヴァイオレット・カラーの部分がある程度伸びるとブロンドの髪の部分はすべてバッサリと切り落としてしまった。
だが、それでも内部にずっとブロンドがラメ状に残っており、彼女はとても気に入っていた。
「プリズム族は大昔から存在している種族で、そのほとんどが女性で構成されている種族なんだそうだ。
多種族の男を獲得するために容姿端麗で誘惑魔法が得意という、どこぞの魔女ですか的な脅威の能力者だったらしい」
エイジはプリズム族の話をしていた。
シェルシェルはそのプリズム族であり、カミラはそのプリズム族の手による性別適合術をしたのだ。
エイジはそのどこぞの魔女ですか的な脅威の能力者”だったらしい”について言及した。
「そもそもプリズム族って種族はマイナーな種族、
それでどこぞの魔女ですか的な脅威の能力者って性質だと流石に相手の種族も身構えるだろうし、
当然ながら彼女らも自分たちは危険な存在だから”掟”を作って大きな枷をつけていくことになる。
その結果、多種族の男を獲得していくだけではやっていけなくなり、子孫繁栄どころか衰退していく運命になるだろう。
だから多様性が進んでいくこのご時世に則ってプリズム族も進化したんだ、
彼女らにしてみれば、それは進化というよりも劣化と言うべきか……」
劣化というのはどこぞの魔女ですか的な脅威の能力者からの劣化ということである。
確かに多種族の男を容易に獲得する術を持っているような能力を蔑ろにするのは劣化というところか。
だが、劣化とは言いつつも、シェルシェルをはじめとするプリズム族の容姿については美女ばかりだったことを思い出したラミキュリアだった、
あれで劣化……
「見た目については人それぞれの感性に訴えるところだからなんとも言えないが、
劣化しているのは誘惑魔法とかの能力らしい。
プリズム族の里長から話だと、今やプリズム族の中で魔女と言えるのはほとんどいないんだってな。
確かに、シェルシェルみたいなのが一般的なのがプリズム族だって言われると、
ああ――プリズム族ってのは容姿端麗族なのねって思うけど、
誘惑魔法的な”危険な香りのするオーラ”みたいなものはそこまで感じなくて、
フツーの女子と言えばフツーの女子だよな」
そしてエイジはラミキュリアに改まって言った。
「しかしあんたは違う、シェルシェルには感じなかった誘惑魔法的な”危険な香りのするオーラ”、
端的に言えば魔性の気というべきだろうか、それをなんとなく感じる気がする。
思うに”身の内に宿るものは外見をも変えてしまうだろう”という伝承の通りのことが起きたってことだろうか」
プリズム族式の性別適合術ってのはプリズム族の子宮を施してもらう方式で、
まさに今のラミキュリアが”身の内に宿るものは外見をも変えてしまうだろう”というプリズム族の伝承の通りの化学反応が起きた後の姿である。
しかし、それは今言ったシェルシェルのような進化型のプリズム族の性質ではなく、所謂”生来型の魔女”への変化だったようだ。
「伝承に則り、
術後はディストラード人というヒューマノイド系種族の男からエルフェイド系種族のプリズム族の女への身体構造の変換が行われる。
既に体験していると思うけど、それに伴う酷い苦しみも味わうことになるらしいな」
確かに、ラミキュリアは想像を絶する苦痛を味わっていた、
身体がバラバラになりそうだったあの体験である、身体の中でそんなことが起きていたのか。
それに、子宮を施してもらうことでその様な変化が起きるというのはまさに脅威としか言いようのないことであり、
つまり子宮こそがプリズム族という存在を決定づける要素であり、
そこまで子宮が強いからこそ移植だとしても子供を産む能力を授かったことにもなるのだという。
これにより、エイジはラミキュリアが彼女らの手による性別適合術と聞いて子供を産める点について納得したようである。
「言ってもその辺の情報はほとんどないから伝承の話でしか言えないことなんだけどな。
とにかく、俺が思うにあんたは本物の魔女の再来なんだろう。
アールの言う通り”悩殺担当の誘惑美女”の名は伊達じゃないってわけだな」
エイジはそう淡々と話した。
危険な香りのオーラをまとう生来のプリズム族の特徴をもった身体を授かったラミキュリア、
折角そんな性質を持つ身体を授かったのだから、やっぱり女としてもっと堂々としているべきだ! そう考えた。
検査の継続のため、数日後にラミキュリアはエイジに呼び出された。
「いろいろと調べたんだけど、日に日にプリズム族の女性って感じになってきたようだな。
前調べた時に比べると前のカミラだった名残的なものが全然なくなってきている、髪の毛はそのまま残っているようだが。
それにしても……本当にいつ見ても伝承の力ってすごいな、染色体レベルでも妙な変化になってきているし、
本当に生物学的にも男である痕跡を残さないって執念だな」
いつ見てもって、伝承の力はそんなにすごいのか……ラミキュリアはエイジに訊ねた。
「ん? ああ。
ある程度は感じているとは思うけれども、プリズム族ってのは女性しかいないんだ。
でも、それでどうやって子孫を残していくのかってことになるんだけれども――」
ラミキュリアはピンときた。
「それで他種族の男を獲得するんですね!」
エイジは頷いた。
「そうだ。でも、そうするとプリズム族ってのは必然的にハーフしか生まれてこなくなる、
必ず多種族のつがいとでしか子供ができなくなるんだ。
だからプリズム族は遺伝子的にもプリズム族側の血を濃くして生まれてくるんだそうだ」
エイジはさらに続けた。
「ただ、プリズム族っていうのは本当に女しか生まれないのかってことだけれども、実はそうでもない。
実際には男も生まれてくるんだけれども、確率は20%もないと言われている」
しかし、これがプリズム族の進化を受けている箇所でもあった。
20%もないのは生来型プリズム族の特徴であり、進化型の確率は男性の生まれる確率もほどほどに上がっているらしい。
だが――
「でも、思えば私、ラブリズの里に行ったのですが、あまり男の人は見かけていないような――たまたまかもしれませんが」
と、ラミキュリアは言うとエイジは答えた。
「そう、それこそがまさに”プリズム族とは何なのか”を体現しているわけだ」
エイジは話を続けた。
「プリズム族はもともと女性として生まれた者もいれば、元々男だった者もいるってことだ」
えっ、それってつまり――ラミキュリアは意を決して聞いた。
「そう、あんたと同じのがいるってことだよ。
で、それが何故かということなんだけれども理由は単純明快、プリズム族は男が生まれてくる確率が低いから。
言い換えるとそれはつまり女の子ばかりが生まれてくるから、どんな子も習慣的に女の子に育ててしまうってことらしい、
それがたとえ男の子だろうとな。
しかも、容姿的にも女性とはそんなに差がないことがほとんどであり、
そもそも女だったか男だったか深く考えておらず、結局女の子であるものとして育ててしまうケースがほとんどだそうだ。
だからプリズム族の男も最終的にはプリズム族の女性へと性別適合してしまうんだそうだ。
まあ、進化型の多いこの世界ではそれも少ないんだそうだが昔はほとんどがそうだったらしく、
今のラブリズでも一部でそれが継続されているらしい」
どんな子も習慣的に女の子に――ラミキュリアとしては不思議な話だったが、エイジはそれについて説明した。
「プリズム族は誘惑魔法が得意なんだけれども、その力があるがゆえに大きな問題を抱えている、
誘惑魔法を使うための血が混ざっている――そのDNAに刻まれているがゆえに、
簡単にいうと理性のない”魔物”として存在しているプリズム族が存在しているってことだ」
”魔物”は本能的にプリズム族の習慣をそのまま受け継いで過ごしているため、
女の子として育てるという点について感情などはほぼなく、
純粋に”プリズム族とは何か”というのを継承しつつ種族繁栄のためにとやっていることなのだという。
「それに倣い、理性のある側のプリズム族も、
”プリズム族とは何か”を尊重してやっていることが女性としての育成なんだそうだ」
事実、プリズム族は理性のある者よりも”魔物”のほうが大半だということを、
ラミキュリアはラブリズの里にて知らされたことでもある、力の代償とは高くつくものである。
だからこそプリズム族には掟というものがあり、
同族である大半の”魔物”を縛るためにも大きな制約を自らに課しているのだという。