アールがカミラに対して真相を話してから間もなく、アールとカミラは今後について話をしていた。
「カミラさんは女性として本当に綺麗な人だよね。
キミの何を知っているわけではないけれども、やっぱり女性として生まれ、
女性として見られたいという気持ち――少なくとも私でもその気持ちはわかる気がするよ。
だからあえて言おう、キミは間違いなく女性だよ。だって、女性にしか見えないもん。」
言われたカミラは照れてながら戸惑っていた。
「でも、私は――」
アールは諭すように言った。
「こういうのは本当に難しい問題だから、なんて言えばいいのかわからない。
だからこれから言うことについて、当人にとってはそんな単純な話じゃないのかもしれないけど、
キミは精神的にも女性なんだし、誰から見ても女性であることに揺らぎはない、
言うことないじゃないか……って言うのが私の正直な感想だよ。
だから私個人としてはカミラというちょっと変わった素敵な女性に出会ってしまったから、
今日から彼女と一緒にいたいなって思っているんだよ。」
そっ、そんな! カミラはさらに照れていた。
「さて、どうするかな? 華麗なる女スパイ、自らの美貌を巧みに利用し、
アールという女たらし将軍の下心を弄んで華麗に情報を引き出す――とてつもなくいいシナリオだね。」
本当にいいのですか!
と、思えば最初からスパイであることは承知だったハズなのに、アール将軍はいろんな情報をカミラに漏らしていた。
だが、それは後になって気が付いたことなのだが、
一見外部に漏らしたら大変そうな情報でも、ふたを開けてみれば別に漏れたところでたいした情報を漏洩したわけではないみたいである。
それに、アールといえば情報を使っての戦術を得意とするその計算高さからするとわざとやっている可能性もあり、
まさに得体のしれない存在と言えるとは多くの者が考えることである。
「さあカミラさん、どうする?
このままダイムの命令に従っているもよし――けど、成功報酬は既に手付金として1割程度もらっていると思うけど、
残りについては……あいつのことだ、うわべの約束でしかない。
だから成功するまでこれからも継続して頼む……というのが安定のオチだろうね。」
カミラとしてはダイムなんかよりも憧れのアール将軍様がそう言うのなら簡単に信じた。
ダイムにがっかりしたカミラ、そう言われるとどうすべきかとても迷った。
「ったく! ダイムってひどいやつだな……女性のことをただの道具かなんかと勘違いしている。
男尊女卑、まさにこの言葉がそっくり当てはまる典型だ、だから無性に腹が立つ。」
アールはとてもイライラしながらそう言った。
「成功報酬はやっぱり――将来の足しにするつもりだよね?」
アールはカミラに向きなおって訊いた。
「ええ、そうです――」
「そうか、そうだよねえ――ダイム、この裏切りの代償は高くつくぞ、
女の恨みはどんなものよりも恐ろしいんだぞ――」
アールはますますイライラしながらそう言った。
「いや、待てよ……? よくよく考えればあんなヤツのお世話になるのも考え物だよね、だからほかの手を考えよう。」
イライラしていたアールだったけれども、そう言った途端にイライラはどこかへと吹っ飛んでいった。
そして、アールは顎に手を当て首をかしげてながら何かを考えていた。
すると、アールはだしぬけに――
「そうだ! シェルシェルさんだ! あの娘がいるじゃあないか!」
善は急げ、アールはシェルシェルという人物に電話をかけていた。
「そっか、ガレアに来てたんだ、気が付かなくてごめんね。今ここに来れる?」
シェルシェルという娘が来て、アール将軍に甘えた声で何か話していた。
その娘はとてもきれいな娘で、カミラは嫉妬していた。
「アール将軍様~♪ 私に会えなくて寂しくなかった~?」
「うん♪ 寂しかったよ、シェルシェルさん♪」
アール将軍様は大人気だった……背の高いアールの胸に彼女は飛び込んでいくと、
カミラはなおのこと嫉妬していた――ハズだったが、アールがシェルシェルの頭をなでると、
不思議と嫉妬心はどこ吹く風か、何とも微笑ましい光景だった。
「さてと、取り敢えず用事は1つ済ませたね。」
「はい♪ アール将軍様♪」
アールは今度は彼女にカミラを引き合わせた。
「シェルシェルさんを呼んだのはほかでもない、こちらにいる美女のカミラさんの件についてなんだ。
この手のお願いときたら、シェルシェルさん以外に頼める人がいないでしょう?
だから……掟とかも判っているつもりだけど、そこをなんとか――頼めないかな?」
シェルシェルは首をかしげた、それだけでは意味がわからなかったようだ。しかし、カミラを数秒間見つめるや否や、
「あっ、なーる、そういうコト……」
何かを察したようだった、どういうコト?
シェルシェルの言ったことに対してカミラは驚き、身構えていた。
「そう、だから彼女を……ダメかな――」
アールは話を進めるとシェルシェルは前向きに答えた。
「ううん、アール将軍様にはいっつもいっつもお世話になっているしね。
いいよ、他でもないアール将軍様の頼みだもの、私からなんとか話をしてみるから!」
「本当に!? ありがとう、恩に切るよ! さて、そういうわけだからカミラさん、
もうじきルシルメアに向かう輸送船が出港するハズだから、シェルシェルさんと一緒にルシルメアへ行くんだ。」
話が見えなかったけれどもカミラとしては今現在どうすることもできないので、言われるがままに事を運ぶことにした。
カミラにとってみれば、船に乗るのも、ましてやディスタードの外へ出るのも初めて、すごくウキウキしていた。
しかし、せっかくの船旅は特別楽しいものでもなく、気が付いたらあっさりと目的の港にたどり着いていた。
しかもそれに追い打ちをかけるかのように、カミラにとっては残念なお知らせが。
「すみません、早めに”里”についておきたいので、町でのお買い物はまた今度でいいですか……?」
と、シェルシェルは申し訳なさそうに言った。
場所は大きなルシルメアの町、ここでショッピングでもすれば楽しそうだったがそれすらもお預け――
次回来る時の楽しみとしてとっておこう、カミラはそう思って町を後にした。
さらに、がっかり要素はそれだけではなかった。そっちのがっかり要素についてはシェルシェルも同じ意見だった。
「それにしても……町をさらっと見渡した限りですけれども、思ったほどではないのですね――」
カミラは少しがっかりしていた、それは――
「ううん、そんなことはないよ。
きっと、先にアール将軍様という極上なイケメンに出会っちゃったせいで、他が冴えない顔ばかりに見えるんだよ!」
と、シェルシェルは楽しそうに言った。
がっかり要素とはシェルシェルの発言からもわかる通り、男性についての話題だった、
ルシルメアにはそこまでイケメンがいない……アールがイケメンすぎる故にということらしい。
「あら、確かにそうかも知れませんね!」
「そうだよ! アール将軍様が世界で一番素敵でカッコイイもん♪」
2人は楽しそうに女子の会話をしていた。
ルシルメア大陸と言えば横に長い大きな大陸で、ルシルメアの町がほぼ中央に位置している。
しかし、ルシルメア大陸と言えば面積の大半が森に覆われている、未開拓な大陸なのである。
2人は町を東から出た後、何故かそのまま森の中へと歩を進めていた。
「あの、私たちって何処へ向かっているのでしょうか?」
「うん、私の村だよ」
村? こんな森の深くに?
地理についてはある程度知識のあるカミラだったが、
それでもそんな村があることなど聞いたことがなかった。
カミラは疑問に思いつつ促されるままに進んでいくと、なにやら家の様なものが見えてきた。
「ここがそうです! ようこそ、プリズム族の里”ラブリス”へ!
私はこの里の番人のシェルシェルです! カミラさん、あなたを歓迎します!」
と、言われても何が何やらでわからないカミラ、
聴きたいことはいろいろとありそうな気もするが後ほど説明する。
その後、カミラはとあることをされ――というより、
賢明な諸兄諸姉ならある程度何をされたのかは察しがつくかと思うが、これについても後ほど。
その後はずっと――だいたい半月ぐらいは病床でずっと苦しみ続けていた。
身体の中で何かがうごめいているというか、何もかもがバラバラになっていく……
そういう感覚に陥っていた。負けそうだ、死んでしまいそうだ。
いや、ここで負けたらダメよ! 私の願いは何? ここで終わってもいいの? いや、終われない!
ここまで来たんだ、私は生きる……生き延びてみせる! カミラは病床に伏せたまま命を燃やしていた。