「でも、私がここに来て早々にスパイだとわかっていたのならどうして拘束しなかったのです?
私、普通にここで活動していましたよね?」
と、ラミキュリアは言うがエイジは何食わぬ顔で答えた。
「そう思うのが普通だよな。
でも、アールとしてはむしろあんたをそのまま泳がせておくことにしたんだそうだ。
俺はそう聞いた時にダイムの動向を探ることにしたんだろうなと考えたんだが、
あいつ的にはどうもそうでもないらしい――別のことを気にしていたようだったな」
そう言われてラミキュリアははっと気が付かされた、彼女自身は心当たりがあったのである。
「そっか……アール将軍様は最初から私が本当は男であることを知っていたうえで、
女性として接してくださっていたのですね――」
ラミキュリアはアール将軍に自分が男であることがバレた時のことを語った。
いや、バレたというよりはそもそも知っていたため、
ある日いきなり直接彼女は”知っていたよ”みたいなことを言われたのだという。
そしてラミキュリアはその後にアールから言われたことがとても印象的で、
とても嬉しかったのを覚えているという。
「知ったところで私は別にキミへの接し方については変えないよ、そもそも知っていたことだしね。
それによって”アールは男に騙されたんだ”とかなんとか言われても別に構わないよ、
私のプレイボーイ肌に傷がつくかもしれないという懸念もあるかもしれないけれども、
それを覆すような絶世の美女に出会ってしまったんだからそれは仕方がない、甘んじて受けるよ。
それよりも、私としてはキミ自身がどう言われたいのか気になるよね。
”アールを落とした男”? ”アールも美女と認めたニューハーフ”?
いやいや、こんな美女捕まえて男だのニューハーフだのは流石にヒドイ。
どうせ言われるんだったら”アールを落とした女”とか”アールをも虜にした美女”とか、
なんだったら”万人が思い描く絶世の美女”とかのほうがよくない? キミはどう思う?」
そう、カミラを泳がせておくことにしたアールの目的、
それは何を隠そう彼女自身がどうしたいか……それだけである。
「あんたにも既に伝わっていると思うけど、
あいつはプレイボーイ風とは公言しているが、その実それとはまったくの正反対……
だからあいつとしてはプレイボーイ肌に傷がついたところで痛くも痒くもないな」
エイジはそう言った。実際にはプレイボーイを公言しているというよりは、
対外的にそんな印象を持ちやすいような感じを醸し出しているだけのアール。
つまり、実際にはその通りではなく、
かなり変わった価値観を持っているだけでガレア内ではプレイボーイという印象はあまり見かけないのだった。
だが、とにかく女性陣のアールに対する扱いと言えばまさに特別のもの、
他の男たちがうらやむほどのハーレムっぷりは男たちの間ではプレイボーイという印象を持たれても仕方がなく、
対外的な印象については主にそれが要因である。
だが、内情をよく知る男性たち、そしてアールの取り巻き内外に関わらず大多数の女性たちにしてみれば、
アールとは単なる”友達”で収まっているのが実際のところであり、
アールに裏切られただの、酷い目に遭っただの、とにかく修羅場的なことが発生することもなければ、
どういうわけかプレイボーイというのはそもそも”ネタ”に過ぎないというのが様式美として挙げられるのである。
しかし、そんなプレイボーイ肌の”ネタ”にまんまとダイムが乗っかってしまい、
女スパイ計画が実行されてしまったのが今回の件なのである。
ダイムってなんて浅はかな人なのだろうか、
そう思ったラミキュリアはアール様とダイムという2人の将軍のギャップの大きさに驚いていた。
「アールのほうが当然のように女心を熟知しているから、その違いじゃあないかな」
エイジはそう言った。
マウナには女性の兵士がいない、裏付けとしても真っ当な要素だった。
本当は以前はマウナにも女性の兵士がいたらしいのだが、募集兵士・徴兵の一時的な女人禁制制度、
ダイムらマウナ管轄重鎮による度重なるセクハラ問題やそれに関する問題発言など、
様々な要因の蓄積によりマウナ軍は女性人気がなくなっていく……最低を絵にかいた感じである。
比較的最近になってから女性兵士の募集や徴兵なども広く呼びかけてはいるが、
過去の問題を払しょくできていないために実現できていないのが実情である。
ラミキュリアの過去の話を続けている間、エイジはラミキュリアから採取した他のサンプルを確認していた。
「そういや、ここまでであんたが性別適合術をするって話については微塵もなかった気がするんだが、今はどうなっているんだ?」
エイジは疑問をラミキュリアにぶつけた。
「はい、それについてはすでに終えています。
私をこのような身体に――しかも子供も産めるような身体にしてくれたアール将軍様方には感謝しても足りないぐらいです」
「子供が……産める……!?」
エイジは身構えていた。
「そう伺っております」
「いや、今の科学力じゃあ……それはちょっと――」
エイジは難しそうな顔をし、頭を掻きながら言った。
だが、ラミキュリアは純粋に科学の力に頼ったわけではない。
それを示すデータとしてエイジはあるサンプルを取り出し、確認していた。
エイジはそれを見ながら冷静に、気を取り直して話をした。
「ん、これは……普通の人間の――ディスタード人の遺伝子配列をしていないな――」
そして、何かに気が付いたエイジは端末を操作し、モニタに出てきたデータとラミキュリアのデータとを見比べていた。
比較していたデータはラミキュリアと、シェルシェルという別の女性のデータだった。
シェルシェルといえば……ラミキュリアとしてはとてもお世話になった女性である、彼女らのおかげで――