エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第2部 夢の王国の光と影 第4章 新たなる希望

第70節 精霊召喚

 一方でその後ろからスレアとシャナン、カスミの3人が駆けつけてきた。
「なんだなんだ、やられている敵、全部無茶苦茶な切り傷ばかりだな、 まるで、マシンガンというか、ショットガンのようなものから一斉に刃が発射されたような――」
 スレアが帝国兵の殺傷痕を確認していると、カスミが言った。
「……これ、風の刃による切り傷。全部そう」
 それに対し、シャナンが驚きながら言った。
「でも、風の刃を飛ばすって、こんなに複数段にわたる傷を負わせる刃って、 1回1回発射してなるような感じには見えない気がします。 つまり、一度に複数段発射しなければこうはなりませんよ?」
 しかも、それが1体の敵ではなく、周囲にある敵もまとめて同じような死因だったため驚いていたのである。 そう言ったシャナンに対し、スレアが答えた。
「シャナンさん、その”まさか”らしい。 アーツの発射ポイントは今ちょうど俺とカスミがいるところの中央当たり、 敵の殺傷具合とアーツの勢いを考えるに、まさに一度に複数段発射しなければできる傷ではないから間違いなさそうだ――」
 そう訊いたシャナンは驚いていた。
「確かに、似たような極意があるのは存じております。 しかし、ここまで殺傷能力が高く、なおかつ広範囲に対して発揮するアーツなど、私は見たことがありません――」
 それに対してカスミが言った。
「――確認する方法ただ一つ」
 2人は頷き、改めてリリアリスとアリエーラの足取りを追った。
 すると今度は、アクアレアの港の傍らに佇んでいる建物の前に新たな殺人現場が。
「これは――死んではいない……が、生気を奪われているような感じだな――」
 スレアが確認すると、シャナンが答えた。
「どうやら精神力をごっそりと奪われているようですね。 精神エネルギーを過度に失うと、生命力にも支障をきたします。 こんなことまでできるのですか――」
 もちろん、犯人はリリアリスである。 そして、目の前の建物からは激しい金属音が聞こえてきた。
「あのリリアリスって女――本当に只者じゃあなさそうだな――」
 スレアは息をのみながら言った。

 スレアが建物の中に侵入すると、そこにもおびただしい数の帝国兵が横たわっていた。 いずれの帝国兵も表にいた帝国兵同様に精神力をごっそりと奪われていた。
「本当にこれ、魔法剣の技なのか?」
 スレアは目を疑わずにはいられなかった、何故なら自分も同じ魔法剣の使い手だからである。 自分の持っている・知っているその極意でこんなことができそうな手段が思いつかなかったらしい。
「そう言われてみれば、リリアリスさんは魔法剣の極意が得意らしいですね」
 シャナンはスレアが言ったことに対してそう言った。
「お姉ちゃんやっぱりすごい。もっと仲良くなりたい」
 カスミは嬉しそうにそう言った。
「なんというか、この建物はもう終わっているって感じだな――」
 スレアが建物内部を見渡しながら言うと、シャナンが言った。
「しかし、リリアリス嬢の目的はどうやらこの建物の屋上のようです」
「お姉ちゃんたち、何するか楽しみ」
 カスミはワクワクしながら言った。
 3人が話をしながら屋上まで進むと、ようやくその場所にたどり着いた。 そこには、リリアリスとアリエーラが舞っている姿が目に映った。
「何だ? 何故踊っているんだ?」
 スレアは首を傾げていた。
「この気迫――お二方共、トランス状態に入っているような感じです――」
 シャナンは2人の様子がいつもとは感じが異なることに気が付いた。すると、カスミが――
「精霊召喚、自らに眠る大いなる意思を呼び覚ます極意。それをやろうとしている」
 何をやろうとしているのか気が付いた、カスミはそれをやろうという話を聞いていたけれども、 2人の様子を見て確実にそう思ったようだ。
「なるほどな、召喚魔法か、召喚王国たる強国の面子を保つため、 あくまでそれでやろうっていうことの表れか」
「恐らく、そうでしょうね。 クラウディアスを強国に押し上げた背景としては幻獣の力ありきというのがありますし、 今回もそれに倣って攻略していくという選択なのでしょう」
 スレアとシャナンが話していた。 しかし、カスミは言った、2人の”知ったか”を一蹴した。
「違う。精霊召喚、普通の召喚魔法違う。特にあの2人精霊召喚するとこの辺り一帯吹き飛ばすかも――」
「えっ!?」
 カスミがそう注意を促すと、スレアとシャナンは声をそろえて驚いた。

 しかし、その注意もむなしく、2人の精霊召喚は発動された。 トランス状態になっている2人は、動きを止め、その場にひざまづくと、祈りを捧げていた。
 その2人の身体から、天に向かって2体の精霊が現れた。
「おい、何か出てきたぞ。あれ、召喚獣なのか? 何で本人たちの中から出てくるんだ?  召喚で呼び出す幻獣ってのは幻獣界から出てくるんじゃないのか?」
「確かにそうですね。 ”精霊召喚”と言いましたか、普通の召喚魔法とはどう違うのですか?」
 スレアとシャナンはそれぞれそう言った。 だが、確かに、精霊召喚はカスミが”自らに眠る大いなる意思を呼び覚ます極意”と言ったように、 文字通り、術者本人の中から出てきている状態であった。
「精霊召喚、エレメンタルという召喚獣呼び出す。エレメンタル、使い手本人秘める力使われる。 だから使い手本人の強さ大きく影響する」
 ということは、それってつまり――と、スレアさんは訊こうとした。だが、そんな質問の前に――
「お前らまとめて吹き飛ばしたるわ!」
 リリアリスから出てきた精霊が、敵に向かって強気で叫んでいた。 見た目はまさに異形の存在で、淡い何らかの集合体が大きな像を形成し、 それはまさに女性の上半身のようであり、右手にはどこかで見たような剣を携えていた、 どう見てもリリアリスの得物そのもののようである。
「ふふっ、リリアさんったら。私も負けませんよ!」
 アリエーラから出てきた精霊がそう言った。 こちらも淡い何らかの集合体が大きな女性の上半身を形成し、 右手にはアリエーラの得物のような剣を携えていた。
 ただし、どちらの像も本人たちのようではありながらも、 なんとなくメルヘンチックな感じの見た目となっていた、 そのあたり、まさに精霊といった感じだろうか。
「えっ、あれ、リリアさんと、アリエーラさん?」
 シャナンはカスミに訊いた。
「精霊召喚の”獣”本人の意思直結してる。使い手の強さ大きい、直結具合高い。つまり本人たち」
 カスミは続けた。
「しかもあの精霊、”水精ウンディーヌ”、”風精シルファーヌ”。 アリお姉ちゃんウンディーヌ、リリアお姉ちゃんシルファーヌ、ウンディーヌ、シルファーヌ、どっちも上級エレメンタル。 呼び出せる使い手、普通はいない。もしもお姉ちゃんたち上位の精霊族なら多分呼び出せる」
「”上位”の精霊族? アリエーラさんと、リリアリスさんが?」
 カスミの言ったことに対してスレアは訊いた。 それについては当の本人であるアリエーラとリリアリスが一番気にしているところだが――
「……なんで上位の精霊族いるか私わからない」
 カスミはそう言って話を打ち切った。いずれにせよ、謎がさらに増えてしまったようである。