エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第2部 夢の王国の光と影 第4章 新たなる希望

第69節 段取り

 リリアリスとアリエーラは話をしながらアクアレア・ゲートの前線へとやってきた。 既にシャナンの機獣召喚で敵をある程度葬っていた後だった。
「よし、じゃあ早速、”あれ”をやるか。」
「”あれ”ですね!」
「”あれ”楽しみ」
 リリアリス、アリエーラ、カスミはそれぞれそう言いながら揃いも揃ってワクワクしていた。
 リリアリスとアリエーラは自分自身に大きなものが秘められている、そんな予感がしたのだそうだ。 当然、これまでの経緯から見てもわかる通りだけれども、このクラウディアスの地において、 それを使うべきだと思ったのである。
 恐らく、クラウディアスの地だからこそ使うべきだと考えたのであって、他の地で行使できるかはわからない、 そう、まさにクラウディアスを守るための極意ということである。 こういった当たり、この2人は初代クラウディアスの生き写しともいえる存在なのかもしれない。
 そして、この2人は意識がシンクロしている、つまり、”あれ”と言われて何をやればいいのかがわかるのである、それは――
「リリアさん、”精霊召喚”ですね!」
 アリエーラはそう言うと、リリアリスはニヤッと笑っていた。これこそが鍵のようである。

 一方で、カスミはシャナン率いる軍団と合流すると、ディスタード軍を押し返していった。
「この剣よく切れる。最高の切れ味、悪即斬」
 カスミはとにかく問答無用で”天地二分”をふるって多くの敵を一度に切り倒していった。
「それにしても振りが長いですね、扱うのが大変ではないですか?」
 長ければ長いほど小回りが利かない、扱うのには大変である。
「大丈夫、そういう場合こっちを使う――」
 するとカスミは”風精かまいたち”を取り出した。
「彼女の手掛けるものは本当に見事なものです、まさか幻獣さえも唸らせるものを作るとは――」
 シャナンは剣のデザインに圧倒されながらそう言った。 性能よりも見た目のインパクトが強かったようだ。
「普通、私たち使う得物”現身の珠”いう鋼使う。それ、私たち一人前の”獣”になる過程で得るもの。 でも私、一人前なる前、”現身の珠”ない。 でもお姉ちゃん作った剣、超強いから問題ない。敵を切り刻む、こと困らない」
 そう言いながらカスミは狙いを定め、一気にその陣営の大将の首を打ち取っていった。
「これでここおしまい。後は――」
「流石ですね、お見事としか言いようがございません」
「ううん、シャナン後ろからフォローしてくれたお陰。シャナンイケメン、私嬉しい」
 見た目年齢とは別に、ある程度の歳相応の精神も持ち合わせているカスミ、シャナンはそう言われて戸惑っていた。

 カスミとシャナンを筆頭とする一団が前線を維持している間、 クラウディアスの本隊はアクアレア・ゲートからだいぶ進軍していった。
 そして、いよいよディスタード本土先遣隊が設置した仮設拠点回りを制圧するところまで来た。
「ここが敵の重要拠点ですね。ここを抑えてしまえば、敵は上陸が困難となります」
 しかし、それには問題が――それは、海の上だった。
「あれを見ろ! あれ、戦艦じゃないか!?」
 スレアが指をさして言った。敵の本隊が戦艦を伴い、進撃してきたのでした。
「くっ、戦艦の集中砲火を受けながら戦わなければいけないということか――」
 シャナンはそう言った、確かに、苦しいところかもしれない。 しかし、そんなことを考える必要はなかった、何故なら――
「ようし、みんな、各々で召喚獣を使ってどんどん蹴散らす作戦をしようぜ!」
 これまでアリエーラと一緒に強力なバリアを展開していたリリアリスが前線まで出てきてみんなにそう言った。
「裏方に徹している間にアリと大技ぶちまける段取りを済ませてきたからもうバッチリ、大丈夫よ。」
 精霊召喚、果たしてどうなることやら――

 精霊召喚の使い方を確認し、敵の攻撃からアクアレア・ゲートを守りつつ進んだリリアリスとアリエーラ、 ようやくみんなと合流した。
「ヴァドスさんからのアクションはありますか?」
 ヴァドスは相変わらず南のフェラントのほうで指揮しているのだが、 どうしているのか気になったアリエーラはスレアに訊いた。
「フェラントからの攻撃は特にないと聞いている。北や西のほうからの侵攻も特にないらしい。 今のクラウディアスがナメられているというべきか、はたまた、 ディスタード本土軍がアクアレア以外からの侵攻方法を知らないんだか――」
「恐らく、両方ね。 ディスタードは圧倒的能力があるつもりだから、わざわざ場所を変えての侵攻はしないのでしょうよ。 現に、ディスタードが破ったいずれの国もすべてディスタード側から距離的・戦力的・勢力的に近いところから侵攻されている。 艦隊攻撃中心である以上は元々上陸するなんていうのも考えているわけでないから、 近い方以外から攻撃するメリットがないのよ。」
 リリアリスがそう言うと、スレアが返答した。
「でもさ、例えば挟み撃ちにして攻めてしまえば有利だとか、そういうことは考えないのだろうか?」
 リリアリスは返事を返した。
「挟み撃ちにしても、そこに勢力を割かなければいけない面倒があるわね。 実際にシミュレーションしてみればわかるけれども、 確かに、攻め方としては一点集中するよりは分散して多方面から攻めた方が有利と言えば有利だけれども、 実際にはその分散するという点がアダとなって、各方面からの攻撃の手が弱くなるっていうデメリットが含まれるわね。 特に強国クラウディアスを潰そうってことを考えるとなおさらで、防衛が強固な場所を相手にする場合は 分散して攻撃しても後続がないせいで結局攻め手が長続きせずに失敗するパターンもあるってワケよ。」
 それで一点集中型にこだわっているのか、確かに、防御力の高い相手の守りを貫通して攻撃する場合はその方が効果がありそうだとスレアは考えた。
「でも、今のクラウディアスはむしろ多方面から攻撃されるほうが厳しいんじゃあ――」
 と、ラシルは言うと、スレアが答えた。
「俺もそう思った、リリアさんの話を聞くまでは。 でも、よく考えてみると、クラウディアスは今まで秘密のベールに包まれていた国、 つまり、そんな事情を知るわけがないんだ。 だからこそ、今までと同じ作戦で攻めてくるっていう方針なんだろ」
 そう言われたラシルは納得した、そう言われてみればそうだった、 外の国にはクラウディアスの内情はほとんど知られていなかったんだっけ、と。
 そして、リリアリスが話題を打ち切った。
「ま、そんなことは今はどうでもいいとして、ディスタード艦が大接近してきたら面倒臭いし、さっさと始めちゃいましょうよ。」
 そう言いながらリリアリスはアリエーラと一緒に、その場所から東のほうへと向かった。
「おっ、おい、そっちには、敵が……!」
 スレアは慌てて止めようとしたけれども、少し遅かった。
「大丈夫ですよ、多分。あのリリアリスさんって方、只者ではありません。そうは思いませんか、カスミさん?」
 シャナンは考えながらそう言うと、カスミに促した。
「うん、リリアお姉ちゃん、アリエーラお姉ちゃん、只者違う。 普通の人流れている空気違う。多分、帝国軍秒で死ぬ」
 あの2人は本当に一体何者なのだろうか、”フェニックシアの孤児”とは一体何者なのだろうか。

 それが示すかのように――
「まったく、がっつり自分たち用に占拠しちゃってるわね。 でも、あの建物の屋上なんかいいと思わない?」
 帝国軍が、アクアレアの港の傍らに佇んでいる建物を改装し、そこを拠点にしていた。 その建物は、旧クラウディアス軍の監視所跡地で、リリアリスはその建物の屋上に目をつけ、 アリエーラに促していた。
 そんな矢先――
「まーた、敵が出たわね。まったく面倒くさいわね、どれだけやられば気が済むのかしら。」
 敵にとり囲まれた。しかし、リリアリスは余裕をうかがわせる態度だった。 アリエーラ自身も不思議と、あまり自分の身が危険にさらされているとは思っておらず、 ただただリリアリスを見守っているだけだった。
「そこの女2人、おとなしくするんだ。何もしなければ殺しはしない」
 一人の帝国兵が注意してきた。だが、リリアリスは――
「いいよ、別にそんな心配しなくたって。それよりも自分たちの心配を先にしなさいよ。」
 と言いつつ、アリエーラを抱き上げながら、いきなりその場に強大な魔法フィールドを展開し始めた!
「さあ、どこまで耐えられるか、見ものよね。」