「なるほど、そういうことなら騎士団長にお任せいたします」
シャナンとラシルが話をしていた。騎士団長の座について相談しているようだった。
「そっ、そんな、僕は――」
「いいんですよ騎士団長殿、そもそも私は先代の陛下の言いつけ通り、騎士団長の任を務めていくつもりはありませんからね。
私は元々王室直属の護衛という立場ですから、引き続きこの役割をまっとうさせていただく所存にございます。
それに、騎士の団長だなんていうのだからラシルさんのような若い方のほうが向いているかと思いますよ?」
と言うとシャナンは去っていった。その様子を見ていたスレアがラシルを冷やかすつもりで話しかけた。
「流石だなラシル、”蒼眼のシャナン”様にまで認められるとは」
それに対してラシルはため息をつきながら言っていた。
「そんな、やめてくれよ……。あの人にまでとなると流石にプレッシャーだよ。
まあ、期待されているのもわかるし、だからこそやらなきゃいけないのももちろんわかる。
けど、それとこれとは別だよ――」
「そうか。なら自分なりにきっちりとケジメをつけるこったな。
期待を一身に背負って続けるもよし、そうでなければ――辞めるしかないよな?」
スレアはそう言いながら去っていった。ケジメか――ラシルはそうつぶやいた。
シャナンが会議室に来ると、アリエーラとリリアリスの2人が話し合っているところへと出くわすことになった。
「あっ、しまった、私らってばクラウディアスの重鎮を差し置いて、何勝手に戦術を練っているのかしらねぇ?」
「確かにそれもそうですね、すいませんでした。それではシャナンさんにお伺いしてみましょう!」
リリアリスとアリエーラが慌ててそう言うとシャナンは優しく答えた。
「いえ、それでいいと思いますよ。既にでき上がっている作戦に対してとやかく言うつもりはありませんし、
それにリリアリスさんやアリエーラさんが考えた内容であれば間違いないと、私は睨んでおります故――」
するとリリアリスは――
「じゃあおじ様、敵前に機獣を召喚して一気にぶっ飛ばしてもらっていい?」
と、堂々とはっきり言った。
「いいですよ。今すぐですか?」
「そうね、そのほうがいいかしらね。敵を一気にビビらせるのにちょうどいいでしょうよ。
クラウディアスの使い手様はここにいるんだぞって大いにアピールするうえで機獣アレキサンダーをぶっ飛ばすだなんてなったら相手の士気もがっつり下がるハズよ、
あの圧倒的存在感を示す獣っつったらなるたけデカイものがまさにお誂え向きって感じでしょ?」
今までは防衛重視だったけれども使い手が増えたので攻めに転じる作戦を繰り出すことにしたのだ。
「それで、ビビらせた後はどうしますか?」
「ええ、ビビらせたらトドメを刺して敵を全滅させる。」
リリアリスの言うことは大体無計画的に捉えられるような内容が多いけれども、
そう言えばリファリウスもそうだった、ルーティスでの一件を思い出してほしい。
だが、それは彼らの実力的には些細な計画であることを物語る話であることは言うまでもないだろう。
「カスミん超カワイイ!」
リリアリスはアクアレア・ゲート直下に行く道中でカスミに遭遇すると、そう話しかけた。
「リリアリスお姉ちゃん!」
その時のカスミのリリアリスへの食いつきようはこれまで類を見ないほどの態度であり、
いつも感情を押し殺したような雰囲気で物事を話す彼女とは一変し、
見た目通りの幼子が目をキラッキラと輝かせているような感じだった。
それに対してリリアリスは心を射抜かれたかのようにすぐさま胸に手を当てながら言った。
「うおっと……リリアリスお姉ちゃんだなんてますますたまらんのう――」
リリアリスはカスミに歩み寄った。
「お姉ちゃん、やっぱり本当のお姉ちゃん雰囲気すごい似てる――」
カスミはリリアリスの顔をまじまじとみつめながら言った。
とまあ、このやり取りの通り、カスミとも初対面ではない、どこかで顔合わせしている。
だが、男性陣はそろいもそろって初対面という状態である、何とも不思議である。
「そんなにオウカお姉ちゃんに似てる?」
「超似てる。お姉ちゃん綺麗、元気いっぱい、すごく楽しい――」
カスミの先代となる鬼夜叉姫のオウカと言えばリリアリスと同じく豊満なバストを有するボディで、
敵を得意げに翻弄しつつ絶命させるのが得意な使い手だった。
性格も割と似ているようで、カスミとしてはリリアリスには特別な感情を抱いていた。
それを踏まえたリリアリスはカスミの気持ちをすぐさま察した。
そしてカスミを抱っこしてかかえあげた。
「こうしてほしいんだなー! まったく、お姉さんの豊満なバストの元で!
カスミたんったら贅沢な娘だなー♪」
リリアリスはすごく楽しそうにそう言うとカスミもとても嬉しそうだった。
「リリアお姉ちゃん――超嬉しい――私幸せ――」
カスミは心を持っていかれていた。
しかし、カスミを抱えていたリリアリスも既にカスミという癒しのモンスターに心を持っていかれていた。
とにかくカスミもリリアリスも楽しそうだった。
「オウカお姉ちゃんもリリアお姉ちゃんも胸大きい。アリエーラお姉ちゃんもそれなりに大きい。
でもエミーリアTTP、つるっつるのぺったんこ」
そして毒を吐くこの幼子、言われた当人が一番悩んでいる課題である。
「ああっ、エミーリア――お姉さんも悲しくなってきちゃったわ。」
リリアリスも何故か嘆いていた。
それはそうと、リリアリスはカスミを降ろしながら話をし始めた。
「そうそう、お姉さんねえ、カスミんに特別なプレゼントがあるんだ――」
するとリリアリスはどこからともなく長い刀を取り出した。
「カスミんならうまく使えるかなと思ってさ、どうかな?」
その刀の長さはカスミの背丈の倍を超えており、柄の部分は非常に特殊な感じになっていて、
まるで装飾品を思わせる見た目だった。
それに対してカスミは興奮しながら言った。
「えっ、いいの? 本当に?」
リリアリスは頷きながらカスミに刀を渡すと、カスミは刀を抜きながら言った。
「すごい――よく冴えている。これ作った職人の腕、相当の腕持ってる――私、使ってみたい」
刀は刀身こそ長いけれども、その割に厚みがなく、下手な使い方をすれば簡単に折れてしまいそうな代物だった。
しかし、刀身の端から端までとてもよくできており、
如何なるサイズの敵をも一刀両断の下に簡単に切り落とせるような大業物だった。
「本当に!? それはよかったわ、カスミんのお眼鏡にかなって。
カスミんのために特別に作られた特注品なのよ♪」
リリアリスは再び嬉しそうにそう言った。
「うん、ありがとうお姉ちゃん。
これ作った人にもお礼言いたい、会うことがあったら言っておいてほしい――」
カスミもとても嬉しそうにそう言った。
確かにこんな武器、特注品でなければ手に入ることはない、
わざわざ作ってくれた人がいるのだからとカスミはそう思った。
いや待てよ、作った人って――アリエーラは2人のやり取りを見ながらそう思っていた。
「作った人にお礼がしたいの? カスミんったら律儀な娘なのね、わかった。
目の前にいるおねーさんが作った人だから、直接言ったほうが早いかもよ♪」
そう言うとカスミは目を丸くした。
やっぱりそうだ、あの刀はリリアさんが自ら作ったものだと考えていたアリエーラの予想は正しかった。
その名も剣神・”天地二分”(てんちわかち)、リリアリスのネーミングセンスもさることながら、
この得物がクラウディアスを守るための護刀となった。
「”風精かまいたち”も渡しておくから臨機応変に使い分けてもらえると嬉しいわね!」
リリアリスはさらにもう一本の刀をカスミに渡した。
その刀は刀としては奇抜な造形を成す装飾品ではあるが、見るからに切れ味だけは素晴らしそうな代物だった。
カスミはその刀をリリアリスに手渡され言われるがままに振りかざすと、
まさに”風精かまいたち”の名前が示す通りの強烈なかまいたちが発生した。
「……この剣すごい! お姉ちゃんありがとう! 私、大事にする!」
「ふふっ、どういたしまして。私の剣も鬼夜叉姫様のお眼鏡にかなったっていうのなら本望よ。」
ただし、彼女やリファリウスの作品には一癖二癖あり、賛否の声がある。
それは彼女らが使っている剣……いや、槍か? とにかくその”兵器”にも代表されるように、
性能的にやりすぎなところがあるのだ。
カスミに渡した剣も漏れなくやりすぎな性能であり、
剣神・”天地二分”のほうは長さが異常な他に柄の部分が装飾品のような作りとなっているが、
実はその部位から絶大なパワーを秘めるための秘密があるのだという。
”風精かまいたち”のほうも見た目こそ奇抜そのものだけれども、
そのような造形なだけあってか、やはり出力を高めるための何かしらの工夫が施されているらしい。