エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第2部 夢の王国の光と影 第4章 新たなる希望

第67節 ラストホープ -クラウディアス最強のガード

 なんとか幻獣の力を借りながら敵の追加部隊を各個撃破していくことで敵の奇襲作戦は失敗に終わった。 しかし最初に上陸していた先遣隊が依然としてその場を守り通しており、攻略を難しくしていた。
 それどころか先遣隊に対して追加部隊が投入され、クラウディアス側は苦戦していた。
「奇襲部隊に注意を向けさせているうちに本体を進軍させようという作戦なのか――」
 スレアはそう言ったけれどもアリエーラにはそうは見えなかった。 というのも、ディスタード側の進軍については特に計画的にどうこうするという作戦ではなく、 数で圧して少しずつじわじわと侵入してくる作戦であるように見えたからだ。 そのためどの部隊がどう動くというのはなく、すべての部隊がなんとかしてアクアレア・ゲートを破り、 そこからさらに西へと侵攻しようという目論見なのだろうと、アリエーラは考えていた。
「敵は思ったよりも純粋です、 先のセラフィック・ランドからの魔物の飛来によるクラウディアス側の対応を見て、 警戒というよりも堂々と侵攻してくる気かもしれません。 最初こそ幻獣の力を警戒して少数だったのに対し、 今はこちらのやり方に対して攻略法を見出したために一気に進軍を開始した、ということなのでしょう。 こちらとしては敵の奇襲作戦を潰したことでなんとかアクアレア・ゲートで食い止められていることは間違いないと思います、 つまり、現状の戦況としては”まだいいほう”なのかもしれません――」
 クラウディアス勢は各々険しい顔をしながらアリエーラのその話を訊いていた。
「要するに、敵の侵攻については一点集中型、 しかも数で押し寄せてきている状況だから――破られたら一気にクラウディアスまでやられるってわけか」
 スレアは難しそうな顔をしてそう言った。 むしろ、たとえ敵が大勢攻め込んでいたとしても、一か所に集中していたほうがまだ都合がいいのだけれども、 ここで敵の本隊が一気に上陸してくると形勢は圧倒的に不利になることは明らかなのだ。
 しかも、ディスタード側はアクアレアの上陸地点に仮設の建物らしきものを建設し始めており、 アクアレア・ゲートの目前を完全に自分たちの陣営として機能させようとしていた、 クラウディアスを本格的に攻め込むための拠点として生かすつもりなのだろう。 そうなると、敵本隊の上陸は必至――
「くっそ、敵の本隊が上陸してくるのも時間の問題なのか。早いうちに手を打たないと――」
 と、ラシルは悔しそうに言った。 だが、既にクラウディアスの兵士たちは疲弊しきっており、これ以上は難しいことは誰しもが覚悟していた。

 そうは言いながらも敵の本隊が上陸をし始めてからというものの一週間近くが経過し、 戦いはアクアレア・ゲートの直下で膠着状態に陥っていた。
「敵の砲撃でさえびくともしないんだからねー、お姉様の力はー!」
 そう、あのアリエーラが長らく粘っていたのである、彼女の防御魔法で完全にガードしていた。
「敵の攻撃と私のこの能力から考えると、まだ5日は持つことでしょう。 しかし――敵がこれ以上増えたらいつまで持つのかはわかりません――」
 アリエーラの能力は誰もが思うよりも以上に長持ちした。 しかし、それでもアリエーラの能力は完全に守りに消費している状況であり、 攻めの手立てがほとんどないも同然なこの状況より、アリエーラの魔法の効果が切れるのも時間の問題でもあった。 そのためあと5日とは言わず、今のうちに手を打たなければいけないのである。

 クラウディアス大陸の東側ではそのような激しい戦いが続いているさなか、 一方で南側のフェラントからはスクエア製のボートが接岸し、港へと上陸してきた。 開国してまだ間もないクラウディアス、交流らしき交流も少なくあまり浸透していない状況のこの国に、 例の黒船の時以来の異国の船が上陸してきたのだが実は――。 その様子にクラウディアスの住民たちは当然のごとく驚いていた。
「やっと上陸したわね。 ったく、かの強国クラウディアスなんだからさ、帝国も諦めればいいのに――」
 見慣れぬ風貌の女性がブツブツもんくを言いながらボートを波止場に泊めていた。 そこへヴァドスがやってきた。
「ちょっとちょっと! 今クラウディアスへの入国はダメだって!  ディスタードとの戦闘中なんだからさ、どこから来たかは知らないけれども、 出港の時に注意されなかったのか?」
 実はそういうことである、現在クラウディアスは有事により入国制限の措置が取られていたのである。 しかし、それに対して女性は――
「はいはい小言はもうたくさん!  んなことどーでもいいから、リファリウスの代わりが来たってみんなに伝えて頂戴な。」
 女性はイライラしながらそう言った。 えっ、この人、リファリウスの代わりって言った――ヴァドスは気が付いた。
「そうよ、この私が代役さん。あと、オマケもついているからありがたいと思いなさいよ。」
 オマケ? すると女性は立て続けに言った。
「ああそうそう、そのオマケなんだけどただのオマケじゃあないわよ。 まさに想像を絶する特別なオマケなんだから、期待しておいて頂戴ね。 さあさ、そうと分かったらさっさと案内しなさいよ。」
 女性は態度を一変、不機嫌な態度から得意げな態度へと変わっていた。

 その2人がやってきたことはすぐにアリエーラたちの耳に入った。
「えっ、代役さんが?」
「そうなんだよ! それにそのうちの片方! マジでヤバイぞ! みんな見て驚くぞ!」
 そう言ったヴァドスはものすごく興奮していた。
「あの、その2人ってどこに?」
 アリエーラは訊いた。するとその2人のうちの片方が――
「あっ!」
 アリエーラは気配だけで彼女の存在に気が付いた、
「よっ、アリ! 相変わらず美人が際立っているわね!」
 アリエーラの視界にその人物が入ると――アリエーラは嬉しそうに言った。
「リリアさん! まさか、リリアさんですか!?」
 彼女の名はリリアリス、この人物こそが何を隠そうアリエーラの大親友であるその人物だった。
「久しぶりね、アリ――」
「リリアさん、お久しぶりです!」
 お互い、各々を懐かしむような感じで嬉しそうにそう言いながらアリエーラはリリアリスの胸に飛び込んだ。
 いや、待てよ――そう言えば親友だの大親友だの言っているのとは裏腹に、 そもそもお互いに初対面のハズだった、それはどういうことなのだろうか?  しかし、お互いのことをかなり前から知っているような気が――いや、どういうわけか知っていた。
「ふふっ、まったくアリってば相変わらず可愛いんだから♪」
 2人は抱き合っていた。
「なんだろう、やっぱり何とも言えない友情を感じるわね、この2人――」
「そうだよねー! 背が高くて美人同士! 2人のお姉様!」
 レミーネアは感心しつつ、エミーリアはまた興奮しながら言った。 この2人のリアクションからわかるかもしれないが、実は彼女らにとっては何気にファースト・インプレッションではない。
「ああそうそう、そういえば連れがいるのよね、その辺にいると思うけど。」
 リリアリスは後ろ側に顔を向けながらそう言った。

 リリアリスの連れはアクアレア・ゲート監視所の屋上に佇んでいた。 その後ろ姿を見るや否や、エミーリアは非常に驚いていた。
「えっ、まさか、あなたは――」
「おや、その声はもしや、エミーリア姫では?」
 その男の人は振り返った。その男の人、まぎれもなくあの人だった。
「シャナンおじ様! やっぱりそうだ! シャナンおじ様だー!」
 エミーリアはシャナンの胸に飛び込んだ。
「あっははははは――相変わらず元気ですね、 エミーリア姫は――いえ、今は女王陛下でございましたか――」
 しかし――
「ううん、私、女王になっても”姫”って呼ばれてるんだよー!  シャナンおじ様にも今まで通り”姫”って呼ばれたら嬉しいなー!」

 それにしても10年以上もの間、シャナンは一体どこでどうしていたのだろうか。 それに彼がいるのならリアスティンの一団もどこかにいるのでは……? 疑問は尽きない。
「シャナンおじ様は一時的に記憶喪失だったのよ、どうしてかはさっぱりわからないけれどもね。 それでルシルメア西部の森を彷徨っていたって言ってたけれども、 気が付いたらルシルメアの独立運動に参加していたみたいでね、そんな彼をリファリウスが発見したのよ。」
 リファリウスは”リヴァスト”と名乗り、ルシルメアのレジスタンス組織”フォレスト・フォックス”を結成し、 帝国軍に抵抗しているのだという…… 帝国の一将軍とそれに抵抗する一組織のリーダーとが同じ人というのは妙な話だけれども、 当人は変装名人であるため、それぞれうまくやっているのだろう。
 なお、ルシルメアと言えば長らく帝国とは対立関係にあり今は停戦によって事なきを得ている関係にあるハズなのだが、 それでも、住民レベルではまだ反感が根強く残っており、なんとも言えない状況が残っている。 とはいえ、ディスタードのガレア軍が和平交渉の条件となるルシルメア側の要求についてほぼすべてをのんだということもあり、 国レベルでは既に問題は解決していることから以前ほど対立が強いわけではなく、 単に”それでも帝国は嫌いだ”という住民の意思表示が残っているだけの状況にとどまっているらしい。
 話を戻すと、リファリウスは”蒼眼のシャナン”を見つけると、自分の組織に引き入れて行動を共にしていたという。 彼をクラウディアスに戻すことにしたのは彼の記憶がはっきりしてからにしようと考えてのことらしい。
「記憶がないままだと彼にとっては辛いだろうからね。 それに、おじ様は騎士としてリアスティンについて行こうと自分の意志で発ったわけだから、 戻るときも自分の意志でって考えたのよ、そのほうが”らしい”でしょ?」
 それに対してシャナンは話を続けた。
「リファリウスさんらと一緒に活動しているうちに自分のことを思い出していったんです。 そうだ、私はクラウディアスに仕えていた身なんだということが。 しかし、その仕えるはずの相手がいずこかへと消えてしまった――だから、私はどうすればいいのか迷いました」
 その時、シャナンはその仕えるはずの相手からこう言われたことを思い出したのである。
「そう、彼は言いました、自分の友として、親友として、自分の娘であるエミーリアのことをよろしく頼む、とね」
 彼に託されたのはこの国の未来を担う者たちだったということである。