段取りとして、アリエーラが早々に森に魔法を仕掛ける。使用する魔法は幻術の類である。
こういう魔法が使えるのはもしかしたら高等な使い手だけかもしれないけれども、
結果的に森は”妖魔の森”と化す。”迷いの森”とも言う。
そして次はカスミという名の座敷わらし――妖魔の狐が登場する。
敵は妖魔の森の中に入り込んだことでただでさえパニックになっている状態なのに、
そこに突然、妖魔の狐という妖怪が現れると、もはやパニックを通り越してお祭り状態と言えるだろう。
妖怪の姿はかなり背が低いが、白衣(はくえ)に千早(ちはや)、
そして緋袴(びはかま)という如何にも巫女という衣装ではあるが、
カスミの幻獣としてのもう一つの顔である、髪の毛の中から4匹の妖蛇が顔を出している状態のカスミの姿――
敵としてはただならぬ緊張感に襲われている状況でこのような妖怪の登場、それはそれは流石に恐ろしいものがあるだろう。
そして敵は予定通り腰が砕けてのけぞっていた。
そのようなとんでもない化け物が目の前にいる状況で彼らのできることと言えば、
とりあえず銃を抜いて乱射する程度である。
「弾の無駄遣い」
乱射された銃弾はすべてカスミの周囲で消滅していく。
無計画に撃ってもアリエーラが予め彼女に使っておいた”ミサイル・ガード”によって打ち消されるだけである。
「次は私の番」
カスミは懐の刀を抜くと、風舞うように正面の敵を切り裂いた。
「――クラウディアス脅かすやつ許さない」
さらにアリエーラがその後ろからかまいたちを発生させて追い打ちをかけることで、
その場にいた奇襲攻撃部隊はすぐさま壊滅していった。
「お姉ちゃん、これ氷山の一角。多分他にも――」
「確かにそうですね、この人たち以外にも奇襲部隊が上陸してきてもおかしくはないですね――」
アリエーラはカスミの問いに対して考えながら言った。
カスミとアリエーラの予感は的中した、クラウディアス東部側にていくつかの部隊が少数で上陸してきた。
それ以外では特に動きはない――恐らくだが、奇襲部隊がやられるのはある程度想定の範囲内ということなのだろう、
ここはクラウディアスという土地なのだから。
アリエーラはアクアレア・ゲート監視所にて臨時会議を開くために何人かを招集し、話し合った。
「敵は要するに先遣隊なんだろ? なんだってこんなに大勢――」
というラシルに対し、スレアが言った。
「先遣隊ってことは締めに部隊本体がやってくるってことだ。
その間、ひっきりなしに敵がどんどんやってくるだろうさ。
でも、本体が上陸する前になんとかしないとマズイことになる――」
確かに、部隊本体がやってきたらおしまいだった、今のうちに何とか手を打たないといけない――
「もちろん、奥の手は召喚魔法だけど、使い手がどのくらいいるかによるかもな」
召喚魔法の使い手は当然ながらアリエーラだけではない。
何人かが一通りの”獣(じゅう)”が呼び出せるようではあるけれども、それでも力不足感は否めなかった。
「スレアさん、エステリトスは?」
アリエーラは訊いた。するとスレアの隣に空から妖艶な感じの女性が降り立った。
その際の姿はアリエーラが呼び出したときの姿と同じくビキニ姿の上からカーディガンを羽織り、
露出を抑えていた――どうやらエステリトスはそのカーディガンが気に入ったようである。
「この通り一か月前に契約したよ、
お袋が従えた”獣”を自分で呼び出すことになろうとは思いもしなかったけどな――」
エステリトスは強力な”獣”であり、心強い味方となることは間違いないのだけれども、
スレアとしてはやや抵抗があった――エステリトスとは家族同然の付き合いでもあるのだが、
自分の母親が従えていた”獣”ということもあり、ある意味母親にも近しい存在とも言えるため、
内心やや複雑であった。
「ふふっ、スレア、改めてよろしくね♪」
エステリトスはスレアに対して楽しそうにそう言った、スレアは未だにその状況に慣れていない。
「私もお姉様に言われて頑張ったよ!」
エミーリアもスレアに負けじとそう言った。
エミーリア自身は戦い自体があまり得意な方ではなく、もっぱら後方支援組としての役割が主である。
それは呼び出す”獣”にも性格が現れ、アリエーラは幻獣セレーナと契約することを勧めたのである。
この幻獣の特徴は仲間の能力を持続的に維持し続けるためのサポートが得意な存在である。
見た目もまるで天使のような装いの人型タイプの”獣”である。
エミーリアといえばカスミもいるのだけれども、護衛召喚獣であるカスミはエミーリアの意志とは独立して行動できるため、
エミーリアが気にすることはないのである。
「私もこの幻獣ならうまく使いこなせるかもしれない」
レミーネアもアリエーラに言われて幻獣と契約をした。
レミーネアはエミーリアとは正反対の戦士タイプなので召喚獣を呼び出してどうこうするような感じではない、一見するとだが。
しかし、召喚獣の中には術者の行動に合わせて効果を発揮してくれる、
所謂”コンビネーション型”の幻獣と呼ばれるのがおり、レミーネアはそれと契約したのである。
彼女が契約した幻獣はフェアレルという術者の一時的な”エアロ・ステップ”(空中浮遊)を容易にする魔法生物型の”獣”だった。
これによってレミーネアのお転婆度に拍車をかける形となり、遠距離からの急な接近攻撃から垂直方向への攻撃や移動・回避など、
当人の能力を最大限に引き出すことができるようになったのである。
「レミーネア、あまり無茶はしないようにね――」
ラトラはやや心配そうにそう言うとレミーネアが得意げに言い返した。
「そう思ったらちゃんと援護してよね!」
ちなみにラトラはレミーネアとは対照的に遠隔攻撃武器が得意で、
レミーネア同様にアリエーラに言われてコンビネーション型の幻獣マーヴェリックと契約することになった。
マーヴェリックは遠隔攻撃武器とのコンビネーション攻撃が得意な幻獣で、
術者の攻撃に合わせて追撃や補助などを行う魔法生物型の”獣”である。
「それにしてもすごいよねー、お姉様!
みんなの特性をすぐに覚えちゃって最適な召喚獣まで考えちゃうだなんてすごい!」
エミーリアはアリエーラに対して興奮しながらそう言った。
「それもそうだけど、幻獣の特徴とか持ちうる知識が半端じゃないよな」
スレアも称賛していた。
だけど――アリエーラとしては、そういえばどうしてそんな幻獣の情報なんて持っているのだろうか、
そして自分の手持ちの召喚獣もどうやって契約したのだろうか、非常に不思議な問題だったようだ。