リファリウスから聞いた情報によると、敵はクラウディアスの様子を見に来るぐらいの少数規模ということらしい。
だが、その割には少々本格的な編成であり、先発隊の背後には大掛かりな戦闘艦が配備されているとのこと、
そのまま一挙に決着をつけてくる可能性が高いらしい。
敵は何を仕掛けてくるのだろうか、ディスタード帝国とは一体どのような敵なのだろうか。
「アール将軍……ややこしいな、リファリウスさんは本当に加勢に来ないのかな?」
ラシルがそう言うとスレアが話に応じていた。
「この前に来た時に話した通り、来たら来たで大問題だしな。
帝国内部でうまい具合に妨害しているようなことは聞くけど、
流石に同じ帝国内の政策に対して直接抵抗するなんてことになったらあいつ自身の立場もなくなるだろう、
それこそ、こんなに危うい状況のクラウディアスに対してこれだけのことをしてくれていることを考えると、
それで十分なんじゃないかと思えるほどだ」
「それもそうだけど、それこそその”前”のタイミングでクラウディアスに来たじゃないか?」
「それはまだ本土軍が攻撃してくる前だからな。
前みたいに今のタイミングでこっそりここに来るのは至難の業だろうさ。
だから――これからはリファリウスがこの国に来るのは困難になるだろうな」
それに対してエミーリアが――
「えーっ!? もうお兄様来ないってことー!?」
残念そうにそう言うとスレアが答えた。
「あくまで”アール将軍として”は来れないってことは確実だが、”リファリウスとして”来れるかどうかはなんと言ってみようもない。
アリエーラさんから聞いた話では、どうやらあいつは変装名人だっていうじゃないか。
で、アールってのは帝国の将軍としての顔というだけで、本性は最初に来た時にも言っていた通り、リファリウスというやつらしい。
リファリウス……実はどこかで聞いた名だなと思ってたんだが、
気になって調べたところなんとあいつ、ハンター界隈の中ではかなり有名なハンターらしく、相当の腕利きなんだそうだ」
それを聞いたラシルは舌を巻いていて、一方のエミーリアは喜んでいた。
「腕利き……それでいてあんな手腕を発揮できる人物――」
「しかもかっこいいし! やっぱりお兄様ってすごーい!」
話を戻そう。
「それはともかく、やつは変装名人なんだそうだから、
実は今頃、別人を装って既にクラウディアスに来てたりするんじゃあないのか?」
スレアはアリエーラに対してそう訊いた。
「それはわかりませんが今回は代役さんがいらっしゃると聞いていますね。」
代役って誰が? 誰もが気になっていた。
アクアレアの東側の砂浜の様子をアクアレアの南部にある丘から探っていると、
帝国軍が早速上陸してきた様子を確認できた。
もちろんいきなり攻撃を仕掛けてきたというわけでもなく、
沈黙を守っているクラウディアスに対して密かに上陸してきたのであった。
「一切アクションを起こさずに放置していたら本当に上陸してきましたね。さて、どう出ると思いますか、アリエーラさん――」
ラシルが訊いてきた。
「もちろん、彼らにしてみれば見知らぬ土地、ましてやここは彼らにとっては敵地になるわけですからね、
こんなに密かに上陸してきたのですから余計に目立った動きなどしないことでしょう。
それに、私たちとしてもリファリウスさんの情報がなければあの人たちが来ていることさえ分からなかったハズ、
何かしらの方法でアクアレアを占領し、クラウディアスを落とすということは明らかですね――」
しかし、どのような手段で行動を行うのかが読めていない状況である。
クラウディアス側としてもアクアレアで直接戦うのは避けたい、
それが免れられないことであればせめて被害を最小限にしたい、だから可能な限り秘密裏にことを進めたいのだ。
それに、大国クラウディアスの名をそのまま維持することで国が守られるというのであれば、
少し余裕があるような態度で臨んだほうがいい結果を残すに違いない、
だからここはあえて平静を保ったまま戦略を練って巻き返したいところでもある。
「確かにそう考えると、敵をある程度泳がせておくのはいい作戦かもしれませんね」
ラシルはそう言った。
第一、ディスタード本土軍としてはこのクラウディアスという巨大な敵に対してどう立ち向かおうか警戒しているわけだし、
そんな中で敵を泳がせておけばパターンも読めてくるハズであるが、それだけではない。
「クラウディアスを落とそうなどというディスタード本土軍自体の意図や行動パターンがわかるかもしれません。
そうすれば今後のディスタードの侵略行為に対する作戦が練りやすくなることでしょう。」
ラシルは舌を巻いていた。
「ア……アリエーラさんってこの国に随分前からいらっしゃる重鎮さん……な気がする」
すると今度は、後ろからのそのそと歩いてきたカスミがラシルに言った。
「勘違い。ただラシル頼りないだけ。ラシル、エミーリアだけ守ればいい。
面倒なこと私とお姉ちゃんに任せる」
そう言われたラシルは落胆し、項垂れながら愚痴をこぼしつつ去っていった。
「また頼りないって言うし……」
「ところでお姉ちゃん、あいつらどーする?」
カスミは彼女特有の、感情の起伏が乏しいしゃべり方で訊いてきた。
「ええ、どうしましょうか――」
カスミが指摘したのは2人がいる場所から少し南にいったところから上陸している帝国軍のことだった。
上陸地点が森に阻まれていて、帝国側としては戦いにくくて厄介な場所からの上陸になるわけだけれども、
「あいつら来たらアクアレア危険かも。このままだとまずい」
アクアレア側へ出てくる場合も森から奇襲攻撃となることは確実なため、後々面倒になる事が想定されそうだ。
しかし森と言えば――アリエーラはいいことを思いついたのでカスミに訊いた。
「カスミさんってルスト界の住人でしたよね?」
「うん、そう、ルスト・ティターンの住人」
ここまではただの確認、本当に訊きたかったことを言った。
「ねえカスミさん、人間を化かす狐の話って知ってます?」
「勿論」
クラウディアスは中央の平野部や港町がある地区以外はすべて森に覆われていて、
それも外界からの攻撃に強いと呼ばれる所以だった。
そう、あの場所から帝国軍は森の中を通過しなければアクアレアにもクラウディアスにもたどり着けないのだ。
それは連中が森を利用した奇襲作戦を行おうが行うまいが同じことである。
だから、敵を翻弄するために森を利用しようというのがアリエーラが思い付いた作戦である。
アリエーラとカスミの2人は南側へと向かい、帝国軍を待ち構えることにした。
「いいの? 2人で――」
カスミがやや心配そうな感じに訴えてくるとアリエーラは考えながら言った。
「敵はまだ上陸したばかりでこのような場所ですから、周囲の状況を探るのがやっとの状態のハズです。
そのような状況の敵に対してこちらから奇襲攻撃をかければ成す術もないことでしょう。
ですから、ここの森を一時的に妖魔の森にしてしまいます。魔法を展開して幻を見させるのです。」
そう言うとカスミは頷いた。
「なる。じゃあ私狐やる」
鬼夜叉姫と言ったらまさしく妖魔そのものである。
だからこそカスミにはお誂え向きの作戦でもあった。
普段のカスミは座敷わらしみたいな風貌だけれども、実は――