アリエーラがクラウディアス王室の相談役として着任してから数年が経った、
リファリウスも一応アリエーラ同様の相談役として着任しているが、
リファリウスはクラウディアスに常に滞在しているわけでもなく、ガレアやルシルメアなどを飛び回っているようだ。
相談役とは言うが完全に臣下の一員であり、クラウディアスの政治にも関わってくるなど強い影響力を持っている。
現在のクラウディアスの情勢は世界的にも取り残されているところがあり、
この状態で他国に攻められようものならあえなく崩壊してしまうことだろう、
故に、アリエーラとリファリウスによる共同作業で各分野各部門において立て直しを行っていた。
そういったポジションを任されているためか、役職名はリファリウスの発案でクラウディアス特別執行官――
執行するものという命名故にある程度の権限を持つという非常に重要なポジションだ。
リアスティンの考えるクラウディアスの未来がいよいよ実現しようというこの第一歩として、
この2人を起用したのは正解だったようで、いくつかの問題点は解消された。
まずは何と言っても、リアスティンが継続してきた国営事業の立て直しである。
これまでまったく成されていなかったわけではないが、
肝心の立役者たるリアスティンがいないせいで行き詰まりを見せていた。
国の税金だけでは賄いきれないことがあったために廃止も検討していたのだが、
リアスティンのいない状況でそれを決断するのは臣下たちとしても申し訳なく、
とにかく継続していくしかなかった。
しかし、そのために取り立てを増やしていくのも国民のためを思うと――
それに対してアリエーラとリファリウスはいくつかの国営事業を民営化にするという手段に出た。
最初は反対にも遭ったがリアスティンの民主化したいという意図を考えるとその方が正しい気がするので、
結果的にはそれが功を奏し、国の中で競争が生まれ、それでもまだ始まったばかりだがうまい具合にクラウディアスを支えることとなった。
そして最も問題である人材不足についての懸念である。
それについては割と簡単に解決した、
なんと、お城の兵士の詰め所だったところにハンターズ・ギルドのクラウディアス支部を開設したのだった。
これまでハンターなどという得体のしれない存在を招き入れるということではかなりの反対に会ったのだけれども、
アリエーラ自身もハンターを経験したことがあり、スレアも元々ハンターであり、
あのリアスティンもそれを経験したことがあったということでほかの臣下たちも考え直すこととなった。
しかしハンターズ・ギルドの本部的にはクラウディアスという土地柄的に、
最初はギルドを置く認可がなかなか下りなかった。
そもそもクラウディアスは国的にほぼ孤立しているような状況であり、
閉ざされた国という都合上ハンターの出入りが見込めないことから本部は難しいという判断を下したそうだ。
だが同時にクラウディアスは鎖国体制から方針転換、
スクエア政府と話し合いをした末にセラフィック・ランド連合国と国交が回復したのだ。
そのことがきっかけとなりギルドの本部側からクラウディアスにもギルドを開設してほしいという依頼を受け、ことは解決した。
依然としてクラウディアスに人が出入りするほどにはなっていないが、
一般庶民レベルで腕に覚えのある人材が獲得でき、
セラフィック・ランド連合国を含めたいくつかの国との連携もとれたことで人材不足よりも先にクラウディアスの経済が回復したのである。
そして、いくつかの国営事業を民営化したことにより、
クラウディアスで抱えている問題のうち外部に委託して解決できそうな問題についてはほとんどが解消されると人材不足にさほど悩まされることはなくなり、
わずかながらも余裕ができるようになったのである。
とまあ、そう言った活躍具合である。
無論、最初は外部の人間を頼るということで反対も多かったが、
リファリウスが提案する”お試し期間”を経て、その期間中での2人の行動を再評価する動きが出てきた。
評価に際しては彼らの経歴をこっそりと調べるような動きもあったが、
重箱の隅をつつこうと考えている連中にとっては残念なことに彼らの経歴はクリーンそのもの、
何者なのかがはっきりしていないが当人たちが言ったことが当人たちの行動のすべてだと言わんばかりの情報しかなかったため、
むしろクリーンというよりは全く分かっていないというのが正直なところだろう。
ともかく、2人の行動によって2人に賛同する議員たちも増え、この2人の受け入れについては早期に可決される運びとなった。
しかし、それは万人に受け入れられたわけではなかった。
それこそ、一番問題なのがグラエスタというクラウディアスの北西にある一等地に済んでいるクラウディアスの貴族議員たちである。
ローファルとまではいかないが、それに近しい存在と言わしめる彼らが目の上のたん瘤である。
しかし、議会賛成多数ということで可決されたため、彼らとしてはぐうの音も出なかったようだ。
それによってこの2人はほぼクラウディアスのブレーン的存在に、
かつてのローファルをも凌ぐほどの手腕を発揮して国を動かす存在となっていたのだ。
ことアリエーラについてはクラウディアスに常に滞在していることもあっていろんな噂が飛び交っている。
例えばクラウディアスはアリエーラさんの庭だとかアリエーラさんこそがクラウディアスの真の支配者であるとか。
アリエーラのビジュアル的にも人となり的にも、それを肯定する派閥は非常に多い。
無論、アリエーラの人となり的に、当の本人は噂について断じて否定していることは言うまでもない。
その代わりと言っては何だが、アリエーラを担ぎ上げる新しい国はできなくても、
美しき素敵なアリエーラさんを讃えるファンクラブが密かに設立されている状況である、本人非公認だが……。
しかし、それでも問題は解決しないものであり、一番頭を悩ませる問題が新たに発生した。
それはセラフィック・ランドのうち、
あのフェニックシアに続いてエンブリスまでもが突如として消えてしまったことであり、
同時にクラウディアス側も対策が急がれたのだった。
かつてのリアスティンの時代と同じく、
セラフィック・ランドにあるその自治区が消えたことでクラウディアスに対して魔物が襲撃して来るということが起こったのである。
これによりセラフィック・ランドの異変――10年前のフェニックシア消滅、
そして此度のエンブリアの消滅――すべてはつながっているとみて間違いないだろう。
だが、そのクラウディアスへの魔物の襲撃事件は思わぬ問題を生み出してしまっていた。
それは――ディスタード帝国本土軍の侵攻である。
「クラウディアスの守りは脆いと感づいたのかもしれませんね。
とにかくリファリウスさんのお話では、
ディスタードの本土軍がクラウディアスへ向けて既に侵攻をしている状況のようです。」
アリエーラはヴァドスと話をしていた。
「やっぱりその、リファリウスことアール将軍の手で止めることはどうしてもできないんだろうな――」
それについてスレアが考えながら言った。
「聞いた話じゃあ本土軍の将はベイダってやつで、ヤツの手口は狡猾で汚く、残忍極まりないって有名だそうだな。
もしアールが何をしようとしても抜け道なんかたくさん用意している、そういうヤツかもしれんな」
アリエーラもリファリウスからはそのように訊いていた。
そのため、そういう相手の場合は未然に戦を防ぐことはせず、戦が起こってから対抗するしかないと踏んだのである。
そもそもディスタード本土軍はクラウディアスを落とすためならと数多の手段を用意しているハズである、
多数の手段があるのに一応仲間うちである体であるガレア側でちまちまその芽を摘んでいくのは難しいだろう、
進攻を遅れさせる妨害は一応しているハズだが。
「私たちの手でやるのがちょうどいいではないですか、
クラウディアスは昔から変わらない強国、ここでディスタード帝国の本土軍にクラウディアスの強さを見せつけましょう!」
あまりアリエーラらしくない発言である、
以前のルーティスの件があるのでその気持ちはわからなくもないが。
「だけど、リファリウスさんの言っている連中がアクアレアに上陸してから戦ったほうがいいっていうのはどういうことだろう?」
スレアはそう言った。
アクアレアというのはクラウディアス東部の玄関港である。
つまり、クラウディアス内では帝国から最も近い町ということでもある。
クラウディアスの守りはかなり強固というのは既に何度か説明してきたが、
強固な防御壁として、各町の名前を冠した防御壁が敷かれていることにも理由があった。
南のフェラントには”フェラント・ブレード”、北西のグラエスタには”グラエスタ・シールド”、
東のアクアレアには”アクアレア・ゲート”、そして、北部のクラウディアス山頂にあるウィンゲルには
”ウィンゲル・バリケード”と呼ばれる防御壁が設置されている。
もちろんこの防御壁は言うまでもなく幻獣による防御が基礎となっていて、
とてつもない強固な守りとして有名だった。
しかし、人材不足の問題はその点にも影響しており、召喚王国と言われるような体制は過去の遺物、
そもそも使い手の数が厳しく、防御壁を展開するのも難しい話となっているのが実情である。
「確かにアリエーラさんの力が強いことは承知しているけれども、流石に――」
と、スレアは言った。慎重な意見でありアリエーラもその意見には頷いていた。
「となると、つまるところ使い手が不足している以上、アリエーラさんには主に守りに専念してもらう必要がありそうだ。
そしたら攻め側がどうなるかということになるのだが、当然ながら船に対しては海へと攻撃を行う力がどうしても必要ということになりそうだ。
とはいえ、現状この国にそれほどの能力はほぼないと言ってもいい状況、
つまり、海に対する攻撃手段が乏しいとなると、やっぱり陸地での戦いがメインとなるのは避けようがないことになるだろうな、
要するにそう言うことだ」
スレアはそう言ってラシルに促した。
そう、クラウディアスには海戦が行えるような力が今のところ存在していないため、
アクアレアに上陸してきたところを狙うしかないことになるわけである、ここで食い止めなければ――