クラウディアスの視察を終え、アリエーラとリファリウスの2人は宿泊する部屋に戻っていた。
宿泊場所はクラウディアスの城内の5階にあるテラスの近くにある部屋で、
かつてはリアスティンら王族の寝室として使用されていた場所である。
何故エミーリアは使わないのか、2人はそう聞いたが答えは簡単、
元々エミーリアの部屋は4階の一室にありずっとそこを使用しているのだそうだが、単に移動するのが面倒という理由だそうだ、
それもそのはず――その部屋の中は王族という感じではなくあからさまに庶民派な女の子の趣味の部屋にデコレーション済、引っ越しが大変である。
ゆえに5階のその部屋は誰も使用しておらずに現在はほぼ物置も同然の部屋、この際だから2人に使ってもらおうということだそうだ。
「そういえばリファリウスさん、帝国軍の艦隊は撤収したのですよね?
フェラントからあの船が全然見えなかったのでどうしたのかと――」
アリエーラが少し心配そうに言うと、リファリウスは頷いた。
「うん、さっき別行動していた時に一旦帰らせたんだよね、帰りはボートもあるから何とかなるかなと思って。
あんなところに軍艦をずっと飾っといても仕方がないからね、
クラウディアス民の不安を募らせるだけで流石に得策とは言えない。」
確かにその通りだ、彼女は納得した。
そういえばさっき、リファリウスは何か閃いたと言っていたがなんだったのだろうか、
シンクロを利用して情報を引っ張り出そうと思ったアリエーラだったが、それ以上の情報は引っ張り出せなかったのである。
「私はガレアをきちんとした町にしたい。
帝国なんていう物騒なものは好きじゃないし、
今の私はあちこち飛び回るのが宿命みたいなもんで、
一か所に居付くのは性に合わない感じだ。」
そう言われてアリエーラはリファリウスの意志が読めた、
この辺りもシンクロしているからこそのものであり、
意志が読めなくてもちょっとした話で相手の意図をつかめることが多いようだ。
「なるほど、つまり私にクラウディアスに留まってみないかということですね!」
アリエーラはずばりリファリウスにそう訊くと、リファリウスはにっこりとしながら答えた。
「謙遜ばかりしているアリエーラさんだけど、
それでも一応ルーティスで教鞭をとったり、
恥ずかしいかもしれないけれども新聞の一面を飾るほどのことをしたりと、
頭がいいほうであることに揺らぎはないハズだ。
そしてここの人たちはみんないい人ばかり、
あのエミーリアさんだって――みんなもまだ初めて会ったばかりだというのにアリエーラさんを慕っているしさ。」
それにもう一つ、クラウディアスに留まってみないかという言葉の裏には大きな理由があった、
それはアリエーラだけでなく、リファリウスにも当てはまることだった。
「リファリウスさんも慕われていますよね! お兄様だって!」
アリエーラもリファリウスも身寄りがなく、つまりは天涯孤独の身なのだ。
自分たちはどこから来たのだろうか、気が付いたらリファリウスはフェニックシアの孤児として時の人となり、
フェニックシアが消滅してゆく様を見届けた。
一方のアリエーラはルーティスでヴァルキリー・フィールを召喚し敵を葬ると、
その後はルーティスでご厄介になり、スクエアへ滞在し、今度はクラウディアスに――
「そうですね、必要とされているのでしたらお引き受けするのもいいですね!」
アリエーラは前向きだった。
「えっ、お姉様がお城に来てくださる!?」
エミーリアは興奮していた、すごく嬉しそうだった。
「ちなみに今、彼女はスクエアでハンターをしているんだ。
目的は既に知っていると思うけれども、クラウディアスに来て幻界碑石の調査をすること。
だけど、彼女は別にハンターの仕事には未練があるわけでもない。
ここにいれば彼女の望みもかなうし、
なんといってもクラウディアスという素晴らしい土地に滞在することになるのだから言うことないだろう。
そして――こう言ってしまうのは少々おこがましいかもしれないけれども、
あなた方も彼女の知恵を借りられるということにもなる、
ルーティス学園で培った教授クラスの知識と広い視野の持ち主のね。
どうかな?」
まず、否定意見が出ないところでアリエーラはほっとしていた。
「それに彼女は召喚魔法の心得もあるし、能力も優れている。
召喚王国にはぴったりの人材だと思うよ。どうかな?」
するとヴァドスが――
「まあ、俺はいいと思うけどな。
純粋に力ある人に来てもらうっていうことになるにしても申し分ないからな」
さらにレミーネアも――
「エミーリアやカスミがいいって言うのなら私も大賛成だよ!」
「ええ、2人がいいというのなら僕も賛成します!」
ラシルも賛同した。
「よろしく、お姉ちゃん」
カスミはアリエーラの前に出て握手を求めてきたが、アリエーラはその娘を抱きしめた。
やっぱりカスミの可愛さにはどうしても抗えない。
「おっ、おねえ――ちゃん――うれしい――うちのまな板とは天地の差」
前回よりも心に余裕ができたカスミはとうとう本音をぶちまけた。
それに対してエミーリアはムキになっていた。
「コラー! まな板言うなー! これから大きくなるんだぁい!」
一方でカスミは女児体型にも関わらず、それなりに胸が出ていた、
精神年齢は止まっているようだけれども何故か部分的には成長しているようだ――