リアスティンがセラフィック・ランドの異変の調査に名乗りを上げることになった背景としては、
そもそもセラフィック・ランドで起きた異変そのものに理由があった。
その当時のセラフィック・ランドで起きた異変というのは最後にフェニックシア大陸が消滅したというのがもっとも有名だけれども、
現地では当然その前から事が起きていた、それこそまさに”異界の生物”と呼ばれていた魔物たちがセラフィック・ランドに多数現れ、
セラフィック・ランドを危険な地へと変貌させていたのである。
さらにそれだけではない、その魔物たちは何故か、クラウディアスへ導かれるかのように飛来してきては、
クラウディアスにも深刻な被害を及ぼすようになったのである、それこそがリアスティンが動いたきっかけである。
さらに言うと、以前にクラウディアスに仕えていた臣下の一人から貴重なことが聞けたのだけれども、
当時は世界大戦の末期ということで、元々自国を中心にしてきたクラウディアスとしては、
そもそも世界大戦を乗り切るための体力がなかったため、長らく”閉じた国”としてやってきたということがあったそうだ。
それが過去にローファルなどが現れた原因にもなったわけだけれども、リアスティンがいざ外交などで”開いた国”にしたことで、
弱体化が加速したとも言われているようだ。
それ自身は悪くはないのだけれども、クラウディアスを開くタイミングが遅すぎだった、
できれば、254代のバルテス王よりも前にそれを考えるべきだったと言っていた。
「それで、クラウディアスは責任を取るつもりで王様自ら出陣した、ということか――」
リファリウスはそう言った。もっとも、リアスティン自身が手練ということもあるので、
弱体化して人手が不足したクラウディアスとしては、王自ら出陣せざるを得なくなったというのが本当のところなのかもしれない。
だが――出陣したクラウディアスの手練の一団は揃いも揃って行方知れずに、
クラウディアスの人手不足が加速する結果となってしまったようだ。
「元々クラウディアスの人材が不足しているのは貴族優遇の制度によって利回りが良くなかったことがあげられる。
オトンはリアスティンさんといつもそのあたりの話をしていたな」
と、ヴァドスは言った。リアスティン”さん”というのは様付けを嫌ったリアスティンからの要望であった。
本当は気前よく「リアスティン!」と呼ばれたかったらしいが、流石に一国の王をそう呼ぶのは恐れ多いため、
間を取って”さん”付けなんだそうだ、それでも様付けする者はいないわけではないが――
つまり、お金がないので、人にお金をかけられなかったというのが人材不足の要因なんだそうだ。
それは、今になってはそのような不平等制度は解消されているけれども、人は一日で成るものではないため、
人材不足の問題が解決されるのはまだまだ先の話になりそうだ。
エミーリアをはじめとした、クラウディアス勢を交えてアリエーラとリファリウスの2人は話をし始めた。
「それにしても、本当に可愛い女王陛下様ですよね!」
アリエーラがそう言うとエミーリアは嬉しそうに言った。
「嬉しい! ありがとうお姉様! お姉様も私のことをエミーリアって呼んでくださいな!」
エミーリアの気さくさはリアスティン譲りだった。
彼女の実年齢的な印象とこういう印象から、女王陛下というよりは”姫”の愛称で親しまれていることが多いらしい。
もっとも、エミーリア自身や周りも未だにリアスティンの帰りを信じて待っている者も多く、
そういう願いも込めてエミーリア”姫”と呼ばれているのだそうだ。
「お父様が帰ってくるといいね、姫!」
リファリウスが楽しそうにそう言うと、エミーリアもにっこりと顔に出して答えた。
「それにしても――みんな、リアスティンさんの側近さんの子供たちなのか――」
リファリウスは今のクラウディアスを担っている臣下たちを見ながら言った。
みんな10代や20代など年端のいかない若者たちばかりだった。
「エミーリア姫は血はつながっていないとは言ってもリアスティンさんが親だし、
ラシルはアルドラスさん、スレアがセディルさんで、ラトラがティーグルさんで――」
リファリウスが言うとレミーネアが続けた。
「そのティーグルさんのところで一緒に働いていたフィジラスの子が私よ、そんなところね!」
レミーネアがそう話を切ると、サディウスのところのヴァドスがキレながら言った。
「おいおいおい! 俺俺俺!」
だけど、いくら人材不足とはいえ、兵士や騎士はともかく、
国政に関する内容については人がいてもおかしくないような気がするのだけれども、
そういう人たちはどうしたのだろうか、それについてはカスミが答えた。
「昔のローファル派いうやついない、全員縛り首か自主退職した。
それ以外辛うじている、でも少ない」
昔のローファル派閥の巨大さときたらなかった。
それだけ悪がはびこっていたと言っても過言ではないわけだが、
それでも、そいつらのおかげでクラウディアスは良くも悪くも保たれていたわけだ。
しかし、それが一度にいなくなると――クラウディアスを保つのは難しくなった。
「そこで、カスミんが加わってクラウディアスをいい方向へと立て直していったってわけなんだね。」
と、リファリウスが言った、カスミんって――何人かが思うと、当の言われた本人は――
「カスミん! ううっ、もっと呼ばれたい――」
興奮気味にそう言ってきた。
「どうしたのカスミん? こっちに来たいの?」
リファリウスは子供をあやすような感じで言ったが、言い方としては女性が言いそうなセリフだった。
まあ、リファリウスの声質は女性とそれほど差がない感じなので、それっぽいと言えばそれっぽいのだが――
「抱っこしての欲しいのかなぁ?」
リファリウスがそう言うと、カスミんは両手を広げて抱っこをせがんできた。
「仕方がないなー、カスミんはー♪ ほーら、おいでー♪」
リファリウスはノリノリで楽しそうにそう言うと、カスミんはリファリウスの胸の中に飛び込んできた。
「チョー嬉しい――」
すると、それに対してヴァドスが言った。
「あのさ、一応カスミって召喚獣なんだよね、もっと言えば見た目以上に歳食っているってこと――」
それに対してリファリウスがカスミの頭を撫でながら言った。
「しかし、この娘は精神年齢がほぼ見た目相応の歳で止まっている、恐らく、姉が急死したことが原因だろう。
鬼夜叉姫の名を持つ剣姫の家柄は、私はあまり詳しくはないけれども――名門中の名門で、
親戚も召喚獣としては引っ切り無しに呼ばれるような強者ばかりだろう。
そういう中で両親も肉親も急死して天涯孤独になった幼い召喚獣なんかはまさにカスミなんかがいい例で、
精神年齢が達していない例が多いらしい。
確かにお家柄、この娘は非常に強い能力を感じるのは間違いないけれども、
見た目相応の甘えん坊のまま時が止まっている感じだね。」
そう言うとアリエーラは頷いた。
「でも、これほど幼い時間で止まっている例は私もあまり聞いたことがありません、
カスミさんの場合は稀な例ではないでしょうか?」
そんなカスミだが、リファリウスにべったり張り付いて離れなかった。
「それにしても可愛すぎるなこの娘。こう――抱いてるだけで私のほうが癒されそうだ――」
リファリウスはほのぼのとしながらそう言うとアリエーラが食いつき気味に言った。
「確かにそうですよね! 私も抱っこしてみたいです! 次、私もいいですか!?」
するとカスミは今度、アリエーラのほうに抱き着いた。
「あらあらカスミさんってば♪ 甘えんぼさんですね♪ うふふ♪」
アリエーラはとても嬉しそうにそう言った。それを見ていたエミーリアは――
「いいなーカスミちゃんばっかり。私もお兄様やお姉様に甘えてみたいな……」
それに対してリファリウスが言った。
「私でよければどうぞ♪」
そう言われたエミーリアは嬉しそうにリファリウスの胸に飛び込んできた。
「わぁい! お兄様だーい好き!」
「まったく、お姫様も懲りない人ですね。」
リファリウスは彼女の頭を撫でながら得意げにそう言った。
「あのさ――おたく、どうなっているのよ――」
ヴァドスがそう言った、男性陣はリファリウスのその様を見ながら変な感情が芽生えた、
確かにこの優男、一体どうなっているのだろうか、見ているうちにイラっとしてきた。
アリエーラとリファリウスはこの国に留まり、次の日以降もこの国の状況を視察していた。
その視察にエミーリアとカスミが同伴していた。
「お花いいなー。うーん、花を植えとくのはありだな。」
リファリウスはそう言うとエミーリアが訊いた。
「お兄様はお花が好きなんですかー?」
「大好きだよー。このアザレア・フレイアとディープ・ハイドランジャがいい感じだね。」
「へえー、好きなんですねー。でも、花を植えるというのは?」
「うん、あのガレアをどう作り直そうかなと思って。
せっかくだから花をたくさん植えて帝国らしからぬ装いに仕上げてやろうかと思って。」
「わあ! それは面白そうですね!」
しかし、それを本当にやってしまうのがこいつのすごいところである。
「ディープ・ハイドランジャならケンダルス産ですかね?」
アリエーラがそう言って話に加わった。
「そうだね。アザレア・フレイアだと……グレート・グランド産がいいかな。」
リファリウスがそう言うとエミーリアは感心しながら言った。
「2人とも物知りなんですね! 頭もよさそうですし!」
「上司である将軍の頭が良くないと部下はしなくてもいい苦労をするから非常に重要なことだよね。」
リファリウスはそんな皮肉を言った。
「それにアリエーラさんは才女だからね。
ルーティスで教鞭をとっていたくらいなんだから頭の良さについてはダンチだよ。」
そう言われたアリエーラは例によって例によるのである。ただ、それに対してエミーリアが追い打ちをかける。
「そうですよね! やっぱり新聞に載るぐらいですから頭一つ抜けていますよね!
いいなー、そういう人がこの国を回してくれるといいんだけどな――」
と、エミーリアが言うとリファリウスは閃いた。