エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第2部 夢の王国の光と影 第4章 新たなる希望

第61節 強い絆の2人

 アリエーラとリファリウスの2人はそのまま話を続けていた。あの幻界碑石のことについて話を続けていた。
「幻界碑石が標ということは――」
 リファリウスがそう言うとアリエーラははっと気が付かされた。
「まさか、他にも幻界碑石のように別の世界に通じている碑石みたいな標があるかもしれないってことですか!?」
「アリエーラさんが考えた説通りとすれば、そういうものが他にあってもおかしくはないからね。 そう、かつてはセラフィック・ランドにあったと言われている幻界碑石、クラウディアスがそのトンネルであるとすれば、 クラウディアスにある幻界碑石の部分がセラフィック・ランドにあった――のではなく、 元々クラウディアス自身がセラフィック・ランドの一部だったと考えることができるね。」
 リファリウスは話を戻した、それが本筋ではなかったからだ。
「ここで考えるべきはセラフィック・ランドにその標たる石碑があったってこと。 セラフィック・ランドについては知っていると思うけれども、このエンブリア創世においては非常に重要な土地なんだ。 つまりはエンブリアの中心にある土地であり、エンブリアはここから始まったと言っても過言ではないわけだ。 ということは、神話でも言われているそれはどうやらただのおとぎ話ではなく、事実である可能性が濃厚ということでもあるわけだ。 神話についてはさておき、そうなると、とある仮説が考えられる。」
 アリエーラは間髪を入れずに言った。
「幻界碑石があったハズのセラフィック・ランドに別の世界に通ずる標があるかもしれない、ということですね!」
 すると、アリエーラは一つの可能性に行きついた。
「あれ? ということはつまり――そう言えば、エミーリアさんのお父様は――」
 リファリウスはズバリ言った。
「そう、まさにそれだよ。 リアスティンは別の世界に通じている標がもたらすトンネルに遭遇し、 異世界に飛ばされた可能性があるかもしれないってことだよ、あくまで仮説の域だけれどもね。 でも、その仮説通りだとすれば、今もなお彼らが発見されずにこの国を留守にしている説明もつくんだよ、 皮肉なことにね――」
 異世界に飛ばされ、帰る道を失ってしまったということなのだろうか、 確かに別の世界に飛ばされて、そしてそこから戻ってくるというのは難しいかもしれない、 言い方を変えると、そもそも異世界に行く行為自体が困難なのだからだ。
「でも、幻獣たちは平気で行き来していますよね?」
 アリエーラが言うとリファリウスが答えた。
「幻獣たちが平気で行き来できているのは精神の通り道というとおり、 つまり文字通りの精神体が行き来しているから、かな。」
 そう言われたアリエーラは自分がうっかりしていたことに気が付いた。
「あら、そう言えばそうでしたね、思いっきり忘れていました。 そっか、精神体なら、異世界間移動が容易い、ということですね。 でも、カスミさんは、物理的な体ですよね? それに、リアスティンさんたちも――」
 カスミの場合は特殊だったようで、アリエーラは彼女の存在を前にうっかりしていたのだろう。
「護衛獣は物理的な体ごと移動する手段を得ているのだろう。 そのメカニズムが分かれば、異世界移動というのも容易いことなのかもしれない、 リアスティンたちが神隠しにあったその真実もわかることなのかもしれない。それに――」
 それに? アリエーラは訊こうとしたが、リファリウスとシンクロしていた意識があまりにショッキングな内容だったため、口をつぐんだ。
「えっ!? まさかそんな!?」
「――実はその可能性はないわけではないんだ、思い当たる節が多くてね。アリエーラさんもそう考えたことはないかな?」
 言われてみれば、その考えにアリエーラにも心当たりがあったが、 気持ちの整理が追いついていなかったので、そのあたりの話についてはまた今度。

 2人は落ち着いて話を続けていた。
 話が飛躍しているところがあったが、要は、リアスティンの一団はセラフィック・ランドで起きた異変について調査し、 その後に行方不明になったということである。 それは、以前会ったデュシアや、エステリトスの話を聞いてもわかる通りだけれども、 いずれにせよ、クラウディアスにたどり着いてもその手がかりまではまったくつかめない感じだった。
「ここへきて、この問題に直面することになるなんて思ってもみませんでしたね――」
 と、アリエーラは言った。確かに今まではそう言うことがあったのか――まさに他人事レベルの内容でしかなかったのだが、 こうしてクラウディアスの面々に触れることで他人事とは思えなくなってきた2人、 アリエーラとしてもリファリウスとしても気にならざるを得なくなったのである。
 そしてアリエーラはずばりリファリウスに訊いた。
「あの、もしかしてですけれどもリファリウスさんはセラフィック・ランドの、 フェニックシア大陸が消滅した事件については――」
 実際には聞くまでもなかった、2人の意識はリンクしているため訊くまでもないことだった。 が、リファリウスはあえて答えた。
「もちろん知っているよ、そもそも私は”フェニックシアの孤児”と呼ばれたそのうちの一人だからね――」
 また新たな言葉が出てきた。 ”フェニックシアの孤児”とは、フェニックシア大陸が消滅する2年前に突如として現れ、話題になった幼子たちである。 リファリウスとあのヒュウガも実はそうで、他にも何人かがいた。
 幼子たちに共通していたのは、幼子という割に意外としっかりしていること、 そして以前の記憶がないことなどが挙げられる。 さらにはリファリウスとヒュウガとで話し合っていてわかったことなのだけれども、 そこいらのエンブリア民と比較しても遥かに戦闘能力が高く、 加え、幼子だったという年齢に反して知識が豊富であることなどが挙げられる。
 しかしその特徴はアリエーラにも共通していることだった。 ルーティスでアリエーラが発見された時のこと、そして、アリエーラとリファリウスと初めて会った時のことをよく思い出してほしい、 アリエーラは絶大な力をもってルーティスを守り、 ルーティス学園の学生はおろか、教授の知識量をはるかに凌駕するほどの才を持っていた。 そしてリファリウスとは初対面であるにもかかわらず、 お互いのことをよく知っていた上に意識がシンクロしているなど、何かしらの謎が秘められていることについては恐らく間違いないだろう、 ”フェニックシアの孤児”もアリエーラも。
 本来であれば”フェニックシアの孤児”についてもっといろんな話をするべきところであるが、 アリエーラはこれ以上話をするのをやめた、何故かというと――
「アリエーラさん――わざわざ気を遣ってくれてありがとうね、やっぱり持つべきは大親友ってことだね――」
 リファリウスは突然涙を流しながらそう言った。
「リファリウスさん――」
 何故泣いているのか?  この際はっきり言ってしまうと、リファリウスが”フェニックシアの孤児”時代にとても悲しい出来事があったためである。 シンクロしているがゆえにそのことを瞬時に察したアリエーラはリファリウスの隣に寄り添い、 泣きじゃくるリファリウスを抱きかかえ、なだめていた。
「いつもいつも余裕たっぷりで堂々としている強いリファリウスさん。 でも、悲しい時はたくさん泣いてくださいね、私でよければいくらでも胸をお貸ししますよ、 私とあなたの仲ではありませんか、さあ遠慮しないで――」
 その様子を見ていたスレアたちは――
「おいおいおい、ずいぶんとお熱いところを見せつけてくれるじゃないか。 あいつ泣いているようだけど、急にどうした?」
 それについてラシルは答えた。
「確かに何かある2人だと思ったけれども、やっぱりそういう仲だったのか。 でも――たった今話を拾ったばかりだからよくはわからないけれども、 リファリウスさんの身に何かが起きたことは明白だということだね」
 しかしレミーネアは2人の言ったことに対して反論するかのように言った。
「そういう仲って? まさかロマンスとか期待してんのあんたたち?」
「えっ、だって、あの光景を見せられたら恋人同士とかしか――」
 ラシルはそう言うがエミーリアは一切賛同しなかった。
「あっははは! あの2人が恋人同士なワケないじゃん!  だけどとっても仲良し! なんか、素敵な間柄だよね!」
 意外だった、エミーリアなら色恋沙汰の話に食いつきそうだったが、 このようにがっつり否定するところを考えるに、異様とも思えるような感じだった。
「見た感じ、2人は血縁関係にあるようにも思えないんだが、まさかそう言うことではないよな?」
 と、スレアは言うと、エミーリアが答えた。
「でも、ある意味似ているよね!  少なくとも、2人が強い絆で結ばれていることは確かみたい!  いいなー! 私も、ああいうお友達が欲しいなー!」
 エミーリアは羨ましそうにそう言うと、レミーネアが鋭く指摘した。
「何言ってんのよ、あんたには私もいるし、それに未来の旦那が隣にいるじゃない。 それとカスミだっているでしょ? 大体あんたは女王陛下で――」
 ラシルは顔を真っ赤にしている中、エミーリアがレミーネアの言ったことに対して話した。
「うん、それはわかっているの。 だけどなんていうか――あの2人の場合はなんかこう―― もっともっと、私たちが思うよりももっと強い絆で結ばれているような気がするの。 それがちょっと羨ましいなって――」
 それに対してスレアが頷きながら言った。
「2人はシンクロしているってところか、 当事者でない俺らとしてはそれってどういう感覚なのか何とも言ってみようもないんだが―― あくまで想像の範囲での話になるが、場合によっては鬱陶しくもある特性の可能性もある。 相手のことがわかるんだぞ? かったるいと言えばかったるい、そう考えるのがオチだろう。 しかし――あの2人はそういうことをまったく思っていないようなところを見るに、 互いのことを信頼し、互いのことを把握し、互いのことを助け合っているような感じだ、 それこそ、2人はまさに文字通りの一心同体という表現がそのまま当てはまるようにも感じる。 そんな奇跡のような2人を見ると――それはそれで”くる”ものがあるな――」
 そう言われたレミーネアは頷きながら言った。
「確かに、そう言われるとちょっと特別感がある感じよね――」
「もしかして、初代のエミーリア様とレミーネア様もああいう感じだったのかな――」
 エミーリアは2人の様を見つつそう言った。
「うーん、そうね……私たちも負けてらんないってことね、エミーリア!」
「うん! レミーネア!」
 レミーネアとエミーリアは互いに顔を見合わせながら元気よくそう言った。