アリエーラとリファリウスの2人は”天使の森”と呼ばれる森の中にある”召喚壁”の元へと案内してもらっていた。
2人の目的の”幻界碑石”というものではないかもしれないけれども、
クラウディアスの噂ではリアスティンも言っていたように、
その”召喚壁”こそが”幻界碑石”なのではないかとも言われているため、
2人でその”召喚壁”を確かめるために案内してもらうことにしたのだ。
その道中――
「なあカスミ、あの2人、本当に大丈夫なのか? この国の脅威にはならないのか!?」
ヴァドスが心配そうに言うとカスミが答えた。
「本当に大丈夫。あの2人、考えていること、国どうするとか戦争どうするとか、そういうの考えてない。
むしろ私情だけ、どう動くか手探りで動いてる感じ、目的、明確に定まってない感じ。
でも、意思の強さ感じる。自分の生き方考えてすごくいいことをしようと考えてる」
すごくいいことをしようと考えてるというのはアリエーラとリファリウスの2人にとっては言いすぎだけれども、
少なくとも悪いことを考えるつもりはないし、クラウディアスとは仲良くしたいことについては間違いなかった。
それに対してスレアが言った。
「となると、まさに本人たちの言葉の通り以外の何物でもないってワケか。
確かに具体的にどうしたいとは言っていなかったけれども、
とにかくうちらとはいい関係を保っていたいとか、
争いをしないというよりはそもそもしたくないとか、話している内容はほぼそれだけって感じだったな――」
「それに――帝国の将軍といえばもっと秘密だらけで、
自分の国のことというか、軍のことをあんなに簡単に話したりしないようなイメージがあるけれども、
あの人はあっさりと話してしまったよな――まあ、真偽のほどは定かではないけれども」
ヴァドスが続けざまにそう言うと、スレアも続けざまに言った。
「恐らく、本当のことしか言っていないだろうな、そんなふうな口ぶりだった。
帝国の内情、4つある分割統治領の具体的な情勢、
あのアール将軍もとい、リファリウスってやつの行動の経緯とその目的――
もしあれが全部作り話だとしたらヤツは相当の策士だ。
いや、むしろ話を聞いててヤツ自身が相当の策士であることは間違いないように感じる。
だからこそ帝国が目的ではなくあくまで”リファリウス自身の目的”ための”手段”として利用し、
そして、その”リファリウス自身の目的”を果たすために帝国のトップに上り詰めたってところだろう。
ああいうヤツは敵に回すとろくなことがない、少なくとも敵ではないだけマシと言った感じか」
それに対し、ヴァドスが言った。
「でもさ、その、”リファリウス自身の目的”って何? そんな話はしてなかった気がするけど――」
カスミが答えた。
「それ私情。余計な詮索しないこと。私感じた分、少なくとも悪いこと違う」
そして、一向はその召喚壁の元へとやってきた。
そこには予め様子を探るために既に4人の先客がいた。
「あっ! アリエーラさんとリファリウスさん! こっちですよ!」
森の奥深くでエミーリアが元気な声で呼びかけていた。
「こんなに森の奥深くにあるのですね――」
アリエーラは見上げながらそう言った。
彼女の視線にははるか上空にそびえたつ”召喚壁”なるものが青い空を突き抜けていた。
「わざわざこのようなところまでご足労いただいてすみません――」
ラシルが申し訳なさそうに言うと、リファリウスが得意げに答えた。
「気にしない気にしない。そもそも秘境的なものっていうのはこういう場所にあるからこそだと思うんだよね。」
「確かに! このほうが返って雰囲気出ますよね! それにこの森のこの光景、なんだか懐かしい気さえしますね――」
アリエーラはリファリウスの言ったことに賛同するとともに、どことなく懐かしさを感じていた。
それについてはリファリウスも同じだった。
「それなんだよね、どういうことだろう、以前にここへ来たことがあったのかな?
そういえば”天使の森”って言ったかな、この森自身に何か秘密があるのかもしれないね。
それこそエミーリアさんとレミーネアさんの2人がこの森に突如現れたって話も考えると、
ひょっとするとひょっとするかもしれないね。」
「ですね! どんな秘密なんでしょうね――」
アリエーラはリファリウスの言ったことに頷きながらそう言った。
するとほかの2人の先客であるレミーネアとラトラが何やら話をしている声が聞こえてきた。
「ラトラどう? 何かわかった?」
「うーん、全然。結局父さんが調査したデータ以上のことは何もわからないね。
確かにここが召喚獣の力が湧き出るパワースポットということはわかってはいるんだけれども――これ以上は難しいかな」
ラトラは何か機械のようなものを片手に持って何かの数値を計測していた。
「それは所謂”魔力計”的なものかな?」
リファリウスはラトラが持っているものを見ながら言うとラトラは頷いた。
「”魔力計”というよりは”精神値計”ですね、似たようなものですが。
ただ、それでも一つ問題がありましてね――」
問題? リファリウスは追求した。
「機械の調子が悪いのかどうかわかりませんが力場が安定していないんです。
要するに同じ召喚壁の近くでも高い値が検出されるところもあれば低い値で検出されるところもあるんですよ――」
そう言うとリファリウスは「ちょっと見せて。」と言いながらラトラが持っていた精神値計を手に取り、機械を眺めていた。
するとリファリウスはおもむろに――
「なっ、何をするんですか!」
なんと、ラトラの心配をよそにいきなり分解し始めた!
「ふむふむ、なるほどね、回路はこうなっていると。で、導通は――」
リファリウスはどこからともなく電気工作の道具を出してその機械をいろいろと調べていた――いや、どこからともなくって、どこからだよ。
「――ちょっとばかり老朽化しているぐらいでどこも異常はなさそうだね。
気になる部分は取り換えておくけれども、多分結果は変わらないと思うよっと。」
リファリウスは手早く機械の部品をいくつか取り換え、それをラトラに返した。それに対してラトラは驚いていた。
「えっ、リファリウスさん、こういうのは得意なんですか?」
リファリウスは何食わぬ顔で答えた。
「伊達に帝国兵やってないからね。
それに電気工作なら知り合いに私よりももっと得意な人がいるよ。」
それを聞いたアリエーラは電気工作がもっと得意な人はヒュウガさんのことだなと思った。
「確かに――機械の確認もしてもらったうえで調子までよくしてもらったのはありがたいのですが、
値はさほど変わっているような気がしないですね、残念です――」
ラトラは改めて値を計測していたが結果はほぼ変わっていないという。
するとリファリウスはアリエーラとお互いに顔を見合わせていた。
「機械の調子は良好、そのうえで”魔力場”を調査しても結果は御覧の通り。
つまりは――そう言うことだよね?」
「ですね! やはり私の考えの通りで間違いなさそうです!」
えっ、どういうことだろうか、クラウディアス勢は不思議に思っていた。
”美しすぎる女教授の歴史的大発表”、
エンブリアにて以前にそのような新聞記事の一面が流布していた事を覚えているだろうか。
美しすぎる女教授と言われたその人は現在もその美貌を保っているのだけれども、
当の本人は今でもそれを否定したがっている。
しかし、その”美しすぎる女教授の歴史的大発表”の見出しで掲載されている記事にはとても重要なことが記載されていた、
それは彼女の素晴らしすぎる美貌のことと、”パワーストーンは力の通り道、大きな精神の力を通す巨大なトンネル――”であること、
その記事の一面を飾っていた女性は話を続けた。
「パワーストーンは精神の力を通す巨大なトンネルですが精神の通り道であるため、物理的なトンネルはどこにも存在しません。
つまり、パワーストーン自体はトンネルではなく、ただの通り道のための”標”でしかないのです。
この考え方についてはルーティス学園でこの召喚壁のことを調査していたエンビネル教授の仮説の立証も可能です。
つまり――私の考えでは召喚壁自身がトンネルなのではなく、トンネルのためのただの”目印”に過ぎない、ということですね。」
アリエーラの話を聞いていたクラウディアス勢は驚きつつ、そしてヴァドスは意を決して聞いた。
「えっ、ということはつまり――この石碑の力を解放したことでどうなったんだ?」
それに対してリファリウスが答えた。
「簡単に言えば召喚魔法――のみならず、魔法全般がそのパワーの恩恵を強く得られることになる。
これまでは標が封印されていたことでその力は衰えていたけれども、トンネル自身は塞がっていたわけではない。
というのも、あくまで精神の通り道だから、見た目上でのフタをするのはほぼ不可能。
でも、それによって魔法の――精神エネルギーを使用した封印の力自身で出入口は細くなったため、
魔法のパワーが弱まることは必至だったということ、つまりは――」
ヴァドスの問いについては、封印を解いたことで小さかったトンネルの出入り口が大きくなったため、
文字通り、大きなパワーを得られるようになったということになる。
リファリウスは再びアリエーラとお互いに顔を見合わせていた。
「やっぱりアリエーラさんの仮説通りの展開になりそうだね、どうだろう? この場で確認してみようかな?」
「ちょっとドキドキしています、本当にそうだったら――」
彼女はものすごく大きな発見をしたことになるということらしい、それはまた――。
にしても、この2人の意志の疎通方法は何を話し合っている感じでもなしにとても不思議な感じしかしないのだが、それはともかく、エミーリアは意を決して聞いた。
「……どういうことです?」
「ラトラさん、確かめる方法は一つしかありません。」
アリエーラがそう言った裏の話を聞いて、みんなさらに驚いていた。