そして、アリエーラとリファリウスは謁見の間へと赴いた。その後ろからラシルとスレアとヴァドスがついてきていた。
大きな広間、玉座には女性らしきその人が鎮座しており、その傍らには小さい女の子が立っていた。
「おや? まさか今のクラウディアスは王様じゃなくて女王様なのか――」
リファリウスは玉座にいる存在を見ながら嬉しそうにそう言った。
「リファリウスさん、玉座の隣のあの娘召喚獣です! それも恐らくですが、護衛召喚獣かと――」
アリエーラはそう言った。
護衛召喚獣、常に召喚されていて主に付き従っている獣、それが護衛召喚獣――護衛獣とも呼ばれている。
「へえ、なるほど。流石はクラウディアスだね、護衛召喚獣を常に付き従えているだなんて。
昔は護衛獣が普通にいたんだけれども、それはあくまで過去のしきたりであって今は廃止しているって聞いた気がする――」
確かにクラウディアスでも護衛獣というのは昔にしかいなかった存在だったらしいが、
今お目にかかれるだなんて2人は思ってもいなかった。
「ようこそクラウディアスへおいでくださいました。
私はクラウディアス257代当主、エミーリア=クラウディアスと申します」
玉座に鎮座している女性はそう言って2人を促した。
「うん? まあ、そうですね――」
しかし、リファリウスは戸惑っていた、その理由にはアリエーラも同調していた、それは――
「リファリウスさん、あの娘……間違いないですね――」
アリエーラはリファリウスに耳打ちした。戸惑いの理由は違和感を感じていた事である。
どういうことかというと、護衛獣の様子が少しおかしいことだった、それがどうおかしいかというと――
「護衛獣さん、あなたの主はどこにいるのですかー?」
リファリウスはそう言った、そう彼女の主がその玉座に座っている女性でないことを見破っていたのである。
クラウディアスに護衛獣がいるということであれば昔のしきたり通りであればクラウディアスの当主の従者のハズである。
しかし、異国の怪しい人間2人を前にしているにも関わらず、
この護衛獣の集中力はこの玉座に座っている女性に向いておらず、別のところに置いているように見えたのだ。
そのため2人はそのことについて訊いていたのだ。
「どっ、どういうことでしょう?
それよりも、クラウディアスまでお越しいただいたのですから、何かお話を――」
と、エミーリアは言うけれども――
「申し訳ないけれども、多分キミはクラウディアス257代当主じゃあないね。
こんな怪しい2人を前に本人が出てくるのも難しいっていうことなんだろうね。
理由はどうあれ、アポイントもとらずに来ているわけだからそう判断されても仕方がないってことか。
ともかく、私らとしては、やっぱり護衛獣がキミのほうに集中していないのが引っかかっているところなんだ。
どうしても影武者さんとでなければお話できないというのであれば致し方ない、それで手を打つよ――」
それに対してエミーリアは――
「かっ、影武者というわけでは――」
すると、護衛獣がため息をつき、重い口を開けた。
「レミーネア、もういい。この人たち欺きとおすの無理。
この2人相当の使い手、ひしひし伝わってくる。
隠し通してもダメ、たとえここで一戦交えることなったら私たち負ける。
でも、この人たち悪い人違う。ここ私受け持つ。だからエミーリア呼んでくる」
と言うと、エミーリア改め、レミーネアは諦めてどこかへと去って行った。
「ごめん、これもエミーリア守るため、クラウディアスのため。
念には念入れないとこの国存亡関わる、許してほしい」
護衛獣は頭を下げながらそう言ったが、リファリウスは――
「そんなこと気にしなくていいよ、キミらとしては当然のことだからね。
アポなし訪問である私らのほうに問題があるんだ、私らが無理を言っているだけに過ぎないのだからね。
それにしても、超カワイイ護衛獣さんだなー!」
リファリウスはその護衛獣さんを絶賛していた。
そうなんです! この娘カワイイんです! 照れるとまたカワイイんです! アリエーラも心の中でそう叫んでいた。
「超カワイイんだけどやっぱり強いんだろうね。得物は刀ということはソード・マスターかな。
ごめん、新しい召喚獣なのかわからないけど名前はなんていうのかな?」
と、リファリウスはその娘のことを確認するため、名前を聞き出していた。
「私の名前は――”鬼夜叉姫”の剣姫 霞(つるぎ かすみ)――」
お、鬼夜叉姫! まさか――アリエーラもリファリウスも驚いていた。
「まさか、お姉さんいる?」
リファリウスは訊くと彼女は暗い顔をしながら答えた。
「お姉ちゃんは……死んじゃった――」
リファリウスは頭を深く下げながら謝っていた。
「ごめん、知らなかったとはいえ、許してほしい――」
だが、カスミは毅然とした態度で答えた。
「ううん、お姉ちゃんのこと知っていてくれてありがとう――」
お姉ちゃんは恐らく”桜花”という名前の方で、”鬼夜叉姫”を召喚した者の前には彼女が呼び出されるハズだった。
それはもう非常に強力な力を秘めた召喚獣だった。
そうか、鬼夜叉姫・桜花はもう――彼女を知るものとしては非常にがっかりするような事実だった。
だが、彼女の力はどうだろうか――いや、アリエーラもリファリウスもそんなことは二の次三の次、
最も食いついている点としては超カワイイ幻獣様であることこれしかりである。
”鬼夜叉姫”という通り”ルスト・ティターン”の住人であり、ほぼ人型の幻獣様であるのだが、
そのビジュアルは座敷童よろしく幼い女の子という犯罪の香りしかしないような、いろんな意味でヤバイ見た目なのが特徴的だった。
そしてエミーリア女王陛下本人がやってきた。
「なるほど、やっぱりレミーネアさんは影武者的存在なのか――」
リファリウスはエミーリアとレミーネアの2人の顔をまじまじと見比べていた。この2人、間違いなく双子だ。
「改めて、俺――私から話をしよう。帝国の人間が友好関係だなんて話を持ち出すとはどういう了見でしょう?」
と訊いてきたのはヴァドスだった。
「いやいや。
私はただ、帝国の人間として友好関係を結びたいんじゃあなくて、
私一個人としてあなた方と手を結びたい――仲良くしたいだけなのです。
ご存知かもしれませんがディスタードの”本土軍”と呼ばれる組織が昔からここを侵略するために”アクアレア”へ進撃を繰り返していた。
それは今でこそ”なり”を潜めていますが、諦めたということではありません。
つまり、帝国の人間としてここに私が来るというのは帝国内でも問題がある行為ということになりますね。」
リファリウスははっきりと言った。さらに話を続けた。
「私が偉そうに言うのも難ですが、
リアスティン元陛下やその側近らがご不在のこの状況で長らく鎖国をしていたのは正解だと思います。
ですが……それも恐らく長くは持ちません。
帝国ももうじきクラウディアスに対抗しようと力を付け始めています。ですからもしかしたらそのうち――」
するとラシルが――
「何故そのことを我々に知らせに? あくまであなた方は帝国側の人間でしょう?
第一、本土軍がそういうことを考えているのであればあなた方が止めることもできるのでは?」
それに対してリファリウスが言った。
「――えっと非常に言いにくいのですが、帝国内での私共ガレア軍の立場と言ったら実のところ、
あまりよくは思われていないのが現状です。
少し愚痴っぽくなってしまうのですが、本土軍からはまるで相手にされず、
マウナからは私が将軍に新任早々、端から”若造が”みたいな態度でダメ出しを受け、
ヘルメイズからはせいぜい頑張れと上からものを言うような感じで鼻もひっかけないような感じと、さんざんたるものです。
まあ、言ってみればそんな帝国の改革をしようという志で臨んでいるわけですから、
そんな逆境があっても仕方がないことですけれどもね。」
ということで、リファリウスにはリファリウスなりの思惑があったからということに尽きるのである。
それは――リファリウスにとっては帝国というのはあくまで通過点に過ぎず、
むしろ個人的には帝国自体があまり好ましくない存在であるため、
クラウディアスとの関係はあくまで個人的なものにしたいということなのだそうだ。
それはもちろんアリエーラにとってもクラウディアスとの関係はよくしておきたいのは当然のことで、
彼女の場合は目的は別にあった、そう”幻界碑石”を探すためにここに来たのだ。
「あまり大きな声で話せない内容だから今の話はここだけの話にしてもらえると幸いです。」
リファリウスがそう言うと、クラウディアスの重臣たちは一同に相談しあっていた。
だけど、答えはすぐに出たようだ、それはそのカギとなるのが現在カスミぐらいしかいないからであった。
つまり、基本的には彼女という名の鶴の一声で決まったようなものである。
「帝国の将軍アールになっている側もつらい。それに2人とも信頼できる間違いない。
2人とも歓迎する。今後もいろいろよろしくお願いする」
話は決まったようだった。そしてもう一つお願いがあった、それは――
「ああそうそう、こちらの美人さんは”幻界碑石”について調査をしているんだ。
だから、もしよければ案内してもらえないかな?」