エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第2部 夢の王国の光と影 第3章 忍び寄る魔の手への挑戦状

第54節 神託

 リアスティンの徘徊行為は続いていた。
「セディルさん――」
 そう言われたセディルはびっくりした、これまでの彼のことを知る人なら誰しもがびっくりするセリフだと思われる。
「陛下がこの私に”さん”づけとは恐れ入る」
 セディルはびっくりしながらも冷静にそう言うと、リアスティンは言った。
「女性に敬称を付けるのは俺のポリシーだからな、びっくりすることじゃない」
 そういうと、セディルは指摘した。
「しかし、女王陛下は――」
 リアスティンは間髪を入れずに答えた。
「自分の女なら話は別だ」
 セディルは納得した、そういうものかと。
「それよりも、セディルさんとこも、せがれがいるんだよな――」
 まさか、今度は私の子供かと、セディルさんは身構えた。
「存じているとは思う……が、私の子はトライスにいる、陛下もよく知るみかん畑の広がるあの町だ。 私はあの町の出身で、子供もそこにいる」
 セディルはリアスティンやジェレストの考え方に倣い、 セラフィック・ランドのトライスに住を置き、今はそこからクラウディアスまで出稼ぎで来ていた。
「そういえばそうだったな、最近のことに気が回んなくて悪いな。あそこの町は俺も好きだ。 スレアに会ったらよろしく伝えておいてくれ、お母さんの跡を継いで、この国を守ってくれってな」
 やはり、セディルも驚いた。
「まさか、私の子供の名前まで――!」
「ああ、大体知ってるよ、旦那はセラフィック・ランド連合国の議員さんやってんだろ? よく知ってるよ。 俺はこういう王なんでな、最近の歴代王に比べたら国民に一番近い位置にいるだろうよ。 まあ、それよりもスレア君によろしく言っといてくれよな、頼むぜ」

 それから程なくして事件は起こった、それは、ローファルの姿が見当たらないことに端を発していた。
「ローファルがいない?」
「……今日に限ってやつの姿がどこにも見当たらない」
 アルドラスとセディルが話し合っていた。 ローファルと言えば、いつもはほぼ執務室、たまに謁見の間にくるか議場にいるかなのだが、 その日はセディルの言うように、どこにもいないという。
 このことを陛下に伝えようとアルドラスは動き出した。 一方のセディルは引き続き、ローファルの足取りを追うことにした。
 しかし、自室にこもっていたリアスティンは――また様子がおかしい。 何故か出窓の上に猫背であぐらをかいて座り、城下を見下ろしていた。
「なんだ、アルドラスか。 とにかく、今は話聞くような気分じゃないんだ、とっとと部屋から出てってくれよ」
「そう仰らずに訊いていただきたい! ローファルの姿が見えんのです!」
 ろぉふぁるがどうしたって? リアスティンは訊き返した。しかし、そう言いながら話を続けた。
「いないんなら放っとけよ、面倒がなくなる、それでよかったじゃないか」
 いや、それは確かにそうかもしれないけど、なんか変なことを企んでいたりしたら、やっぱり問題だ。 そのため、アルドラスは改めて言ったのだが、リアスティンの耳には届いていなかった。
「なあ、どうよ、俺はどうすればいい?」
 リアスティンはアルドラスに、いや、誰でもよかったのだろう、謎の問いをしてきた。 そんな、毎度のことだがどうしろって言われても――第一、どうしてそんなことを聞いてくるのだろうか、 アルドラスは訊いてみた。
「いや、なんていうか、こうさ、まったくと言っていいほどなーんも降りてこないんだ。 だから、これはどうしたもんかと思ってな」
 何を言っているんだこの男は、アルドラスはそう思った。第一、何の話をしているのだろうか?
「あの、降りてこないというのは、一体何が降りてこないというのでしょうか?」
「何って? そら、神託(オラクル)に決まっているだろうがよ。他に何があるんだ?」
 なんだこの男は、ますます意味が解らない、アルドラスは愚痴をこぼした。 その愚痴を拾い上げたリアスティンは答えた。
「俺もわかんねえよ。だけど、昔から言うだろ、困ったときの神頼みってよ。 だけど、頼んでも何も来やしねえ。一体どうなっていることやら」
 とにかくよくわからないことを、リアスティンは淡々と語っていた。
 リアスティンに相談してもダメだと判断したアルドラス、早々に立ち去ろうとした。 その時、リアスティンが何かに気が付いたらしく、話をし始めた。
「なあ、あれ、なんか変だぞ?」
 あれが変? アルドラスとしては目の前にいる男こそが変だと思っていたのだけれども、それはこの際、捨て置こう。
 もとい、どれが変なのだろうか、アルドラスはリアスティンが座っている出窓の隣の出窓から城下を見下ろした。すると――
「あれ、もしや、火事では!?」
 城下から南西方向にある森の一部が燃えている、いや、待てよ、あのあたりってまさか――アルドラスはすぐさま気が付いた。
「陛下! あのあたりは確か、召喚壁があるあたりでは!?」
「召喚壁? もしかして、あそこに降りたんか?」
 この期に及んでもリアスティンは変なことを口にしていた。