ジェレストが亡くなり、数年が経過した。
しかし、リアスティンはその約1年前に、自分がめとった妻が亡くなったばかりでもあった。
その原因はジェレストが亡くなってから1年後の流産、それから2年程度は命をつなぎとめていたが、
結局、そのまま亡くしてしまったのだった。
それからのリアスティンの様子と言えば、とにかくおかしい状態が続いていた。
「リアスティン様、一体、どうなされたのでしょうか?」
ジェレストの後任として騎士団長となったアルドラス、リアスティンに機嫌を伺っていた。
「ん? ああ、なんだろうか、ちょっくら行ってくら――」
「えっ、行ってくるって、お待ちください、今、シャナンを呼び――」
アルドラスがそう言っている間にリアスティンはさっさと行ってしまった。
「どうかされましたか?」
その時に都合よくシャナンが現れると、アルドラスと話をしていた。
「まただよ、なんと言えばいいのやら――とにかく、あの通りだ」
アルドラスがそう言うと、シャナンが言った。
「陛下のことですか。最近、何かを求めて、探しているようなんですよ、
それも、特に国を出るとかそういったこともなく、ただひたすらその辺を歩いて回っているだけです。
ただ、自分は何かをしないといけないという感じはどことなく考えているような気配ですね――」
それを聞いたアルドラスは、
「もしや、女王陛下が亡くなったことで、
まだ落ち込んでいるものかと思っていたのですが――そういうことではないということですね?」
シャナンが答えた。
「それについては以前直接本人から聞いたことがあります、
女王陛下が流産した時から既にその覚悟はできていた、と。
陛下は女王陛下が流産してから2年も生き延びたことについて一番泣かれたそうです、
よくぞ、いつまでも苦しい思いをしながら一緒に居てくれた、と。
時間は短いとはいえ、彼女との楽しい思い出があるのだから、自分は泣くのをやめたのだと、
そう仰られて以来、陛下は泣くのをやめたそうです」
それに対してアルドラスが驚きながら言った。
「えっ!? 陛下って泣くのですか!?
自分は、素面の陛下が泣くところを一度も見たことがありません――アルコールが入っているときは別ですが――」
「ええ、仰るように陛下は泣き上戸ですのでお酒が入っているとすぐに泣きますが、そうでなければ泣くことはありません。
私の知るところでは、女王陛下が亡くなった時のアレが最後だと思います。
それ以前では子供の時――昔の陛下は非常に泣き虫だったそうですね」
アルドラスはその話に頷いていた。
「そうだったのですね。
それにしても、確かに――女王陛下におかれては、あまりの出来事でしたから――
流石に、あれだけは誰しもが堪えました、それを乗り越えての今の陛下の姿なのですね」
シャナンは話を戻した。
「とにかく、今は陛下の様子を見守り、そっとしておくしかありません。
同行者がいると、唐突に変な質問が来た時に非常に面倒です、
ですから、兵士を頼って遠くから陛下の様子を見守るようにしていきましょう」
シャナンはその、唐突に変な質問をされたことがあり、
返答に困っていたことがあったことから、このような措置をとることにしたのだった。
とにもかくにも、リアスティンはよくわからない行動を見せるようになっていたのである。
そしてリアスティンは帰ってきたが、誰が訊いても別になんでもなかったと答えていた。
兵士からの報告でも特になんの異常もなく、ただただ徘徊しているだけだった。
もちろん、何もないに越したことはないし、いろんな意味で特殊な陛下のことだから、
その日の会議でも引き続き、リアスティンを見守ることにするだけで話を終えたのだった。
しかし、その後も徘徊行動が続く。ただ、その徘徊範囲が次第に広がっていった。
「あっ、兄上――」
その時のリアスティンはレーザストの下へとやってきていた。
ラケシスが死罪となり、陰謀が暴かれた一件から態度が一変、仲違いしていたリアスティンとの関係も回復していた。
しかし、甘やかされて育ったことによる弊害か、身体が非常に弱く、病によって病床に伏せていたのだ。
「よう。加減はどうだ?」
「ぼっ、ボクは――それより、兄上こそ、新たな奥さんを頂き、早くこの国の跡取りのことを考えてください!」
しかし、リアスティンは首を横に振っていた。
「悪いな、俺は生涯を共にする女は一人と決めているんだ、
だから、レーザストが早く健康になって、嫁でももらって、子供を頑張って作れよな」
「そんな、ボクではダメですよ、兄上でなければっ――!」
確かに、この様子のレーザストでは健康的に難しい可能性が高い、それはあった。
だから、リアスティンは自分のわがままを通すことはできない、けど――今まで迷惑をかけた奥さんにも悪いし――
どうしたものだろうか、いくら国王の義務だとはいえ、自分の気持ちとの葛藤に決着をつけられる日が来るのだろうか。