しかし、クラウディアスの悪い人たちは、そんな世界情勢については二の次三の次で、
自分の国の主権について、未だに議論を展開している状況が続いていた。
それはやはり、かつてのクラウディアスの栄華にしがみついていることの表れでもあったが、
クラウディアス内では意見もだいぶ割れていることであり、悪い人たちの賛同者は数を減らす一方だった。
しかし、悪い人たちはそれでもなお未だにリアスティンをいかにして失脚させるか、そればかりを考えていた。
「ふん、クラウディアスの、かつての栄光さえ取り戻せれば世界の秩序などどうとでもなるというのに、
他国との連携だと? 笑わせるな、クラウディアスはクラウディアスのままでよいのだ、
強いクラウディアスがあるからこその世界の秩序なのだ! それをこともあろうに、ヤツはクラウディアスを汚したのだ!
世界のすべてを牛耳る権利をヤツは踏みにじった!」
ローファルは会議場でひどく激怒していた。そんな中、ラケシスが場内へと入ってきた。
「今日はやけに荒れているな」
「当たり前だ、クラウディアスをヤツに踏みにじられ、黙っていられるものか!」
そしてローファルは改まってラケシスに言った。
「……ラケシス、他の臣下たちを招集してくれないか? 但し、例によって例の連中だけは――」
「ああ、任せておけ」
しかし、ローファル側の動きについてはジェレスト側の知るところにもなっていた。
リアスティンからも注意されたことであるのは当然のことながら、
例のリアスティン暗殺未遂事件でリアスティンから語られたことも重なり、ずっと気にしていたからである。
そして、今回のローファルのたくらみについてはジェレストがいち早く知ることとなり、
その計画の全貌を知ることとなると、看過することはできなかったのである。
「みんな、集まってくれないか?」
ジェレストは騎士団副団長兼兵士団長のアルドラス、特別騎士団長のセディル、
騎士団員兼、北の高台の町のウェンデルにて研究所を構える研究所総責任者のティーグル、
それから、フェラントで弁護士事務所を構えていて、クラウディアスの臣下の一員でもあるサディウスを招集した。
「急にどうしたのだ?」
セディルが心配になって言った。なかなか珍しいことだったので、彼女に限らず、みんな驚いていた。
「ああ、実はローファルらの企みなんだが、非常にマズイことになったようでな――」
「以前の召喚壁での一件で、証拠は出たというのか?」
ティーグルはもしやと思って、そう訊いた。
「いや、あの件のことについてはこの際どうでもいい、どうしても進展しないしな。
とにかく言えることは、ローファルとラケシスを筆頭とする臣下たちの行動がおかしいのは確かで、
何やらとんでもないことを企んでいるようだ――」
「国外追放したジャミルと、国外に逃げたシューテルも造反組の一部とみて間違いなさそうか?」
アルドラスはそう訊くと、ジェレストは頷きながら言った。
「クラウディアスの文明の栄華がもたらした光は言うまでもないが、
それと同時に生み出された影の存在も思いのほか深いようだな」
そして、ジェレストは力を抜いて話し始めた。
「私はお前たちを信用している、クラウディアス騎士団に配属された同期の仲間だからな。
しかし――これは私の最後の仕事になるやも知れぬ、だから私にもしものことがあれば、後のことは――」
それに対し、仲間たちが、サディウスが――
「何があったんだ! バカ言うんじゃない! お前は騎士団長だ、クラウディアス騎士団の責任者だぞ!
そんなやつが、もしものことがあったらなんて滅多なことを言うもんじゃない!」
セディルも――
「そうだよ! 何を言っているんだ! そういったことは私の役目、私が引き受けるから、あんたは引っ込んでなさい!」
しかし、ジェレストは首を横に振りながら言った。
「いや、今回ばかりは私の役目だ。理由は単純明快、年功序列ってやつだ。
私はお前たちよりも長めに生きているし、もうすぐで現役を退くべき歳でもある。
子供も既に成人し、陛下同様に外の世界で働いている、それでもう満足だ。
だけど、アルドラスのところのラシルも、セディルのところのスレアも、
そして、ティーグルのラトラに、サディウスのとこのヴァドスもまだまだこれからだろ?」
そう言われた4人は何も言い返すことができず。そして、ジェレストは続けて言った。
「そういうことだから、お前たちは手出し不要だ。
どうしてもというのであれば、安全なところからこっそりと援護してくれさえすれば、それだけで十分だ。
危ない橋を渡るのは私だけでいい、これは団長の命令だ、いいな?」
みんな、渋々とそれに従うことにした。
その後のジェレストが行ったことに関し、具体的なことを知る人物はいなかった。
ただ、王国の裏に蔓延る黒い影たちを排除するために奮起し、一掃したのは確かだった。
しかし、それは流石に危ない橋、ジェレストは自らの命を危険にさらす行為に他ならない。
そのため、リアスティンはいつものようにバルティオスへと訪問していると、
ジェレストの訃報を受けとることになったのは、そう遠くない未来の出来事だった。
ジェレストの死因、それは、ローファルの策を遂行していたラケシスらが焦って事を起こしてしまったことによるものだった。
それによりラケシスは死罪、だが、肝心の黒幕のリーダーと思しきローファルを暴くまでには至らなかったという。
ただ、そのローファルも既に暴かれた仲間も数多く、もはや彼自身が暴かれるのも時間の問題だった。