バルティオスでは、国王同士の正式な外交が目的だった――というのは建前で、
リアスティンが最も楽しみにしていたのはお酒だった。
バルティオスの王・リオーンもまた、お酒には目がない国王だった。
クラウディアスもそうだけど、バルティオスも負けず劣らず国土豊かな土地であり、
”バルティオス・ウォータ”とも呼ばれるビールの生産が盛んに行われているのだった。
その背景は当然のごとくバルティオス王の酒好きが性格に現れているように、
かつては国営事業、現在は民営だが国の特別指定事業として生産されている、お酒はほどほどに……。
バルティオス王のリオーンといえば……そう、あのシェトランド人でもあるリオーンのことである。
リアスティンとも交流があり、もちろん、リオーンと同じくシェトランド人の長であるワイズリアと、
隣町のティルアの勇士バフィンス、そして、リアスティンにいつも振り回されているシャナンと、
ライナスとバフィンス、ライナスとは同郷であり親友でもあるレンティスに、
そして、セラフィック・ランド連合国でのお偉方の一人であるグラト、後の世のお歴々は、みんなここで接点があったのだ。
「よっしゃ、じゃあ、早速乾杯……と行きたいところだが、今日は誰が音頭とるんだあ?」
バルティオスの城内にある酒場にて、飲む前から既に出来上がっているリオーンが気分よく大きな声で言った。
「今日は俺に任せろ! 面倒なのはいらん! とにかく、ここバルティオスと俺んちのクラウディアスと、
いつもなんとなくお世話になっているスクエアと……あと、なんだっけ?」
リアスティンがそう言うと、ライナスが指摘した。
「リアスティン! アルディアスを忘れんじゃねえ!」
そう言われたリアスティンはやや悪び出た態度で改まって言った。
「ああ、悪い悪い。ライナスとレンティスのアルディアスに乾杯!」
全員の乾杯の雄叫びで飲み会が始まった。
そして、風物詩化しているように、リアスティン・リオーン・ワイズリア・バフィンス・ライナスが飲み潰れ、
ぐったりと眠っている傍らで、ほかの3人が別に話をしているのだった。
「まったく、いつもいつもバカ騒ぎしやがって。騒ぐ分には一向にかまわんが、ほどほどにしてほしいもんだ」
グラトは呆れながらそう言った。
「それにしても、国王が2人も交じっているとは到底思えない光景ですね」
シャナンは皮肉を言った。いや、ある意味、そのほうがかえっていいのかも知れない、
国王が混じっているように見えないほうが――
「酒飲み外交というのはなかなか話が進まないものだな」
レンティスがさらに皮肉を言った。
ちなみに、ライナスとレンティスは本来、アルディアスはルダトーラの軍事組織の人間だけど、
顔が利くのでアルディアスの大使として遣わされていた。
「では、我々だけで、話を進めますか?」
シャナンがそう言うと、グラトがやや意地悪そうに答えた。
「ああ、そうだな……いつもどーり、
バルティオスの勢力軍のお偉いさんは”だーれも”話に参加できない様子だが、
例によっていつもどーり問題はないだろう」
問題はありそうに見えるけれども毎度のことなので、特段重要な決め事ではない限りは基本的にこんな感じのようだ。
グラトが話をまとめ、リアスティンを称賛していた。
グラトはスクエア出身の元軍人で、今はスクエアの経済界を動かしている重鎮でもあるが、
セラフィック・ランド連合国の一部の政治家とは同じ元軍人仲間であるためか非常に仲が良く、話を融通しやすいそうだ。
もちろん、リアスティンとも仲が良く、この場に出席していた。
「ノンダクレてはいるが、流石だな、シャナンのところの主は」
リアスティンは顔が利く、特にセラフィック・ランド連合国の中枢であるスクエアとの外交はいつも欠かさずに行っており、
それが功を奏したのか、スクエアとクラウディアスとの間に自由な貿易協定が結ばれることになった。
そして今回、この3人……いや、失敬、8人の力で、4か国間の自由貿易協定は結ばれることになったのだ。
「とりあえず、ここで決まった話はこのノンダクレ共にもきちんと説明しておこう、それでいいな?」
レンティスがそう言うと、2人は頷いた。
「残る問題は……ルシルメアさんですかね?」
シャナンはこそっと話に持ち込んだ。
「ルシルメアか……、うーん、あそこはなんというかなあ――今は時期尚早というべきか……」
グラトは悩みながらそう言った。
ルシルメアは帝国との交戦が絶えない国で、手出ししようものなら自分の国も被害を受ける、手をこまねいていたのだ。
そこへシャナンが話を続けた。
「それなんですが、実は、うちの国王がこの4か国で連合軍を結成してみたらどうかと考えておりまして――」
すると、グラトが――
「それは本当か? それならちょうどいい、以前個人的にバフィンスとリオーンと会った時にそうしたらどうかと話題に上ってな――」
それについてはレンティスも――
「実は、ルダトーラでもその件については何度も話に出ている内容だ。
もし、この4か国でルシルメア解放のための連合軍を結成するということになったら、
作戦も本格化することになるだろうな」
これによって4か国間で連合軍が結成され、
ディスタード軍をはじめとする、多くのルシルメアへの進軍を企む勢力からルシルメアを守ることとなった。
さらにルシルメアだけでなく、周辺諸国を守り、他国の支配から解放するための足掛かりが生まれたのだった、
しかし、それは皮肉にも、時代が世界大戦へと移っていくことに他ならなかった。
それ自身は誰もが避けたいことではあるが、そのような現状が続く限りはいずれかはそういう時代がやってくる、
だからこそ、どこかで早々にけりをつけなければいけない、それが各国の目論見でもある。
そして――そう、この争いの中で、数多の英雄が生まれたのである。
例えば、この8人で言えば”魔神槌リアスティン”、”蒼眼のシャナン”、”暴君リオーン”、”岩鉄のバフィンス”、
”雷虎ワイズリア”、”破弾のグラト”、”月読まずのライナス”、”剛鬼のレンティス”、
そしてその戦争末期には”万人斬りディルフォード”、”鬼人剣イールアーズ”、”万人狩りクラフォード”といったような異名を持つ御仁が世に知ら締めさせることとなったのだ。