エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第2部 夢の王国の光と影 第3章 忍び寄る魔の手への挑戦状

第49節 リアスティンの手段

 リアスティンとシャナンは仲が良かった。 これは、国王とその側近という間柄ではなく、ほとんど親友同士という関係だった。
 さすがにそうなると、ジェレストやほかの側近たちも、それを認めざるを得なかった。 もちろん、その関係こそが国王リアスティンの考えるクラウディアスの未来となるモデルケースであり、 国民にもその姿を知らしめさせた。
 それまでにはジェレストらともいろいろと衝突もあったりもしたが、 それから数年間、リアスティンの掲げる理想の国造りは着々と進行していた。
「流石はシャナンよ、陛下が認めただけのことはあるな――」
「いえいえとんでもございません。 私は所詮平民の出、ジェレスト殿とこのように会いまみえること自体、光栄なことでございます」
 シャナンとジェレストは剣稽古をしており、次第にそのまま軽い手合わせとなった結果、 シャナンがジェレストを打ち負かしていた。
「ふっ、平民の出か、その平民の出に負けた私は、一体なんなのだろうな?」
 ジェレストは笑いながらそう言った。
「まあいい、お前なら任せられるだろう、クラウディアス騎士団の次期騎士団長にな。 だけど、陛下はそれに反対しているようだな」
 リアスティンはシャナンを特別視していたため、単に騎士の一員という存在にしようと考えてはいなかったようだ。
「陛下は王国騎士団の特別側近チームというのを編成し、私をそこのリーダーにしようと考えていらっしゃるようです」
「ああ、その話は私も陛下より直接伺っている。まあ、例によって――毎度のことだから、何かお考えがあるのだろう。 本来ならば私の後任をシャナンにやってもらいたかったのだが――陛下の期待に応えてやってはくれないか?」
「もちろんです、それについてはお任せください。団長の件については、ジェレスト殿にお任せいたしますので」
「うむ、頼んだぞ、シャナン――」

 一方の悪い人たち、あの召喚壁の一件が彼らの計画を破綻させてしまったのである。 ジャミルは未だに投獄されている状況で、クラウディアスが完全にリアスティンを盛り上げるムードとなる中、 いたたまれなくなったシューテルがその話から手を引いた。
 もちろん、ただ手を引くだけではただの裏切り行為、何をされるかわからない、 そのため、今後一切の関わりを立つため、自らクラウディアス国外へと逃れ、今は何をしているのかわからない。
 そして、残すは――
「ローファル、どうした?」
「来たかラケシス。あの王は一体何を考えているのだ?」
 それは彼らどころか、クラウディアスのほとんどの臣下たちがリアスティンの行動を全く予測できないでいた。
 リアスティンは何をしているのかというと、それは――グレート・グランド大陸のバルティオスへの定期訪問だった。
「わからん――が、帰ってくるときはいつも気分を良くして帰ってくるらしい。何をしているのだ?」
 リアスティンの失脚を狙おうと画策している悪い人たち、しかし、それに対してなかなか尻尾をつかまさないリアスティン。 彼の行動は悪い人たちやジェレストも見張ってはいるのだが、 ひとたび国外へ出てしまうと、リアスティンを追うことは不可能だった。 国の重要人物であるとはいえ、リアスティンは自由人すぎるきらいがあった。

 そして、リアスティンがバルティオスへと行くタイミングが見えてきた悪い人たち、 よし、今度こそは――そう思って行動に踏み切った。
 ところが――
「何をしているのだ!」
「ラケシス様! 大変申し訳ございません! 御命令通り、バルティオスへと様子を見に行ったのですが、 リアスティン様のお姿は一向に捕らえられず、そうこうしているうちに――」
「言い訳など聴きたくはないわ! さっさと下がれ!」
「はっ! 大変申し訳ございません! それでは、失礼いたします!」
 ラケシスは兵士に怒鳴りつけていた。 何故、バルティオスに行ったはずのリアスティンの行動が確認できないのだ、顔を真っ赤にして怒っていたのだ。
「リアスティンめ――いずれの兵士の目をかいくぐって行ったようだな、どうなっている?」
 ローファルがそう言うと、ラケシスは訊いた。
「まさか、ローファルのほうもか?」
「……ああ、その通りだ、私が出した使いのほうもことごとくかわされたようだ。 恐らく、直接バルティオスへ向かうルートではないのだろう」
「だ、だったら!」
「ムダだ、クラウディアスの民はクラウディアス内では強いが、ひとたび外に出てしまうと無力に等しい。 だから、どの国で待ち伏せしたとしてもヤツのほうが数歩先を行くだろう。 ヤツはそれを見越して動いているということだ――」
「それなら、どうやってヤツを!」
「案ずるな、我々はクラウディアスの民、 今言ったように、クラウディアスの民はクラウディアス内では強いのだ。 一方でヤツは外の世界でうつつを抜かした、いわば”外の民”も同然の者だ。 つまり――ヤツを狙うのであれば我々のテリトリーであるクラウディアス内で処理すればいいだけの事だ。 そう――何度も言うようだが、最後に笑うのは我々なのだからな!」

 リアスティンとシャナンがクラウディアスから出航した時の事、まさにローファルが言っていた通りのことが起きていた。
「シャナン、気が付いたろ?」
「確かに尾行されていますね。方やジェレスト殿の使いと、方やローファル殿たちの使いでしょうか、そのような感じですね――」
「いいんだ、ジェレストの連中もローファルの連中もやり口のキレイ・汚いについてはともかく、 それ以外の差はほとんどないからな。 つまり、こういうことは俺のほうがはるかに得意なのは揺らぎがねえってことよ!」
「得意、ですか?」
「そうよ。外の世界じゃあいろいろやっているからな。 クラウディアスという凝り固まった世界だけで生きててもパターンはなんとなく見えてる。 まあ、そういうわけだから、今日は当初の予定通り、真っ先にみかん畑と夢の都に行こうぜ!」
「完全になめられていますね、ジェレスト殿とローファル殿――」
 リアスティンの姿は見えるものの、ティルア行の船を待たず、 そのままスクエアの町へと繰り出すリアスティンとシャナン。 そして、スクエアという巨大都市の人混みに紛れ込むと、 クラウディアスの兵士では彼らの姿を追うことは至難の業であった。