召喚壁の一件より、あれから程なくしてジャミルは投獄された、
リアスティンを暗殺しようと企てていた臣下の一人である。
アサシンを差し向けた確証はないハズだったが、所謂別件逮捕という形での投獄だった。
「リアスティンめ、まさかそう来るとはな――」
ラケシスがやや悔しそうにそう言った。
召喚壁付近での出来事、あれほど巨大な獣が3体も呼び出されれば、
本来であればすぐにでも兵隊が駆けつけて事に当たっているハズだったが、今回は見過ごされた。
それは何故か、クラウディアスの町の北側には丘の上にウィンゲルという町があるのだけれども、
そこにクラウディアス平原を一望できる施設があるのだ。
ということはつまり、クラウディアスに不穏な動きがあればすぐにわかる場所でもあるということだ。
召喚壁の場所は場所こそ見通しが悪い場所でありながらも、巨大な獣が3体も呼び出されればすぐにわかるハズであり、
兵隊が駆けつけて事に当たることになっている段取りだった。
しかし――今回はリアスティンの暗殺を謀るため、ウィンゲルの施設からリアスティンが暗殺されようとする様子を、
暗殺する前に騎士や兵士たちに見つかって計画自体が頓挫してしまうのはダメだと判断したジャミルは、
この施設の責任者でもあるティーグルとその部下たちに休暇を与え、
代わりにリアスティンが暗殺される様を見届けることを考えたのだった。
しかし、暗殺の現場に巨大な3体の獣が呼び出されてしまったことで、ジャミルは面を喰らってしまった。
さらに、あの後でリアスティンが呼び出したイフリートの力で、
リアスティンとシャナンがジャミルのいるところまで跳んできたのだった。
召喚壁付近であのようなことが起きているのに誰一人として使いをよこさないのは何事か、
しかも、召喚した理由として、自分たちが殺されかけたとまで言われると、ジャミルとしては言い訳もたたなかった。
それによってジャミルは失脚、投獄されるに至った。
「しかし、まさか、召喚獣の力を行使するとは――」
「召喚の中でも魔神召喚というものだ、あえて派手なパフォーマンスを発するものを……面倒な!」
シューテル、ローファルもラケシス同様に悔しそうにそう言った。
あの一件以来、時の流れには誰にも逆らえることもなく、あの悪い臣下たちは仕方がなく、
王位継承権のある第1王子リアスティンを即位させるために動かざるを得なかったのだった。
とはいえ、それは彼らが決して諦めたということではない、
リアスティンが即位してからも謀略はまだ続くのであった。
「はっ、今、なんと――」
「あ? 聞こえなかったのか?
だから、これから出かけてくるけど、お前がいると目障りだからついてくんなって言っただけだ、
なんか、もんくあっか?」
ジェレストとリアスティンが何やら言い合いをしていた。
もんくはあるかと言われたジェレストは、リアスティン様相手にもんくなどないが、異論はあるといった。
いや、異論があるというのはもんくがあることと同じことで――リアスティンはそう思った。
「とにかくダメです! 以前もアサシンに狙われ、あなた自ら術を行使し倒されたというではありませんか!」
「そうだな、で、それのどこに問題が?」
「いえ、それ自身に問題はないのです、ですが、そのアサシンに狙われたこと自体が問題なのです!
いくらご自身の力でなんとかなったとはいえあなたはこの国の主!
狙われるようなことがある以上は外出はお控えになったほうがよろしいかと!
いえ、リアスティン様のことですから何と言われようとも外出することでしょう、
ですから、外出なさるのであれば側近を連れてお出かけになってくださいと申し上げたいのです!」
リアスティンとジェレストのこのような口論は連日続いていて、もはや風物詩にもなっていた。
「側近を連れていくのなら問題ない、今そう言ったな?」
リアスティンは続けざまに言った。
「よし、じゃあ、俺はあいつを連れていく。それなら問題はないだろ?」
あいつとは誰のことだろうか、ジェレストは困惑した。
すると、リアスティンはすぐその場にいた”あいつ”の腕を引っ張った、そう、もちろんあいつのことである。
「ダメです!
そいつはただの兵士、あなたを守るための完璧な訓練を受けたものではありませんので絶対にダメです!
第一、名も知らぬような一般兵をおつきにするなどとは言語道断です!」
それに対してリアスティンは得意げに言った。
「お前、部下のことをなんも知らないんだな。知らないんなら俺が教えてやる。
こいつの名はシャナン=エンバレムってんだ、なかなかいい腕をしているぜ!
多分、お前なんかよりもはるかに強いかもな!」
ジェレストはさらに困惑した、シャナン? いい腕をしている? どこでどうやって確かめたんだ?
もちろん、先日の召喚壁での一件については例によってリアスティン単独で行ったことになっている。
「それは確かですか? いえ、たとえそうだとしてもですよ?
彼は一般兵の家系、我々騎士の家系とは違うのです、ですから、それは許されません」
リアスティンは呆れながら言った。
「兵士と騎士とで違うだと? 笑わせんな。
確かに違うかも知んねえ、けど、俺にしてみればその程度の違いなんか”クソくらえ”だな。
そもそも身分の差で兵士だ・騎士だなどと違いをつけているのが気に食わねえ。
だったら言ってやる、俺は騎士なんかよりも兵士を護衛につけた方がはるかに信用できるってな!」
そう言われると、ジェレストは弱った。
この男には自分の理解の中でどう説明しようとも通りはしない、
この庶民派の国王には身分の話をしてもぶち切れるし――いや、
それ以前に、そもそもこの男はそんな身分の制度を破壊しようと考えている、
そんな男に説得なんかできるわけがない。
「返答がないってことは、異存はない、と受け取ってもいいわけだよな?」
ジェレストには言いたいことがたくさんあったが、
リアスティンを説得させるに至るための的確なセリフは持ち合わせていなかった。
そのため、渋々説得を諦めざるを得なかった。
「まあ、そういうわけだから、よろしく頼むぜ、シャナン!」
「あっ、ええ、はい――」
シャナンもリアスティンの横暴振りに戸惑っていた。
「というわけでだ、メシにしようや」
「メシ? ああ、はい、メシですね――」