そして、その”標”の破壊に難なく成功した。
”標”は”召喚壁”を中心におよそ30メートル程度離れたところにあり、2人で3つ目の標を破壊している最中だった。
「石碑に対して石碑で封印とか、何のひねりもなくてつまんねぇな。
だけど、長らく封印されていたせいか、”召喚壁”からの力もあまり活動的じゃねえな」
封印は解かれたはずだけど、”召喚壁”の力は意外にも弱かった。
シャナンは心配だった、これがあの”召喚壁”だというのだろうか。
「どういうことでしょうか? こちらはもっと力が大きいハズなのでは?
まさか、すべての標を破壊しなければならないのでしょうか?」
その問いにリアスティンは答えた。
「いや、単に”召喚壁”自身がずっと使われずに、フタだけされていたからだろう、多分な。
大丈夫、やり方はわかっている、簡単なことだ――」
リアスティンは次の作業に移ろうとした、ところが――
「リアスティン、気を付けろ、誰かがいる!」
シャナンに促されると、リアスティンも気が付いた。2人はその気配に対して警戒していた。
「いるのはわかっている、姿を現したらどうだ!?」
シャナンはそいつに訴えた。
「くくくっ、どうやらそのようだな――」
その黒い影は姿を現した、そいつは黒い装束を身にまとっていた。
「そのいでたちは――まさか、アサシン(暗殺者)なのか!? 一体、どういうことだ――」
シャナンが驚きながら言うと、今度はリアスティンが笑いながら言った。
「くくくっ、なるほどな、ローファルの野郎、とうとうこの俺を亡き者にしようとしにきやがったな!」
そう、こんなことをしようと考える者、他に考えられなかった、
リアスティンが王位を継承することを良しとしない臣下たちの陰謀に他ならないのだ。
臣下たちも、流石に王族の殺害までは抵抗はあったけれども、バルテス陛下が亡くなって以来かれこれ半年が経つ、
流石に次代のクラウディアス王家を担うものを早く立てなければならず、
一刻の猶予もなくなったことから、とうとうリアスティンにアサシンを差し向ける結果となったのだ。
「まさか、切羽詰まって王族をいよいよ暗殺するなどとは思いもしなかったが――」
リアスティンがそう言うと、アサシンは言い返した。
「だったらどうする? お前はここで今すぐ死ぬんだよ、今後のクラウディアスのためにな!」
それに対してリアスティンは得意げに言った。
「今後のクラウディアスのためにだとお? 笑わせんな!
テメエみてえなのがそんなたいそうなことを考えるタマかよ!」
すると、アサシンは笑いながら言った。
「くくっ、確かに、金のためではある、特に王族殺しとくれば猶更でなぁ、報酬も弾んでもらえることになってるのさあ!
だがなあ、ここで貴様を殺れば今後のクラウディアスでの仕事もやりやすくしてくれるらしいぜ?
政治とかそういうのはどうでもいいが、
結果的に俺が雇い主の言う通りにしていりゃあ今後のクラウディアスができていくってもんだからおもしれえもんじゃねえか、
それだったら別に今後のクラウディアスのためにと思って仕事するのも悪くねえじゃねえか? ええ? おい?」
それを聞いたシャナンは激怒したが、リアスティンはニヤっと笑いながら答えた。
「フン! そう来なくっちゃな! でも、テメエにくれてやる命はねえ!
もちろん、テメエの雇い主たちにくれてやる命もなあ!」
それに対してアサシンもニヤッと笑っていた。
「フッ、せいぜい足掻き続けることだ、残り少ない寿命でな!」
そして、アサシンはシャナンに向かって話を続けた。
「そしてそこのお前、既にわかっているとは思うが、次期国王となるべきこの男を事故で殺害し、
その罪を悔いて自害したことにしてもらおう! 嫌とは言わせん!」
そう言いながらアサシンは襲い掛かってきたが、2人は早々にその場から立ち去っていた。
「ほお、流石に逃げ足だけは早いってわけか? しかし、いつまで逃げられるかな!」
アサシンは2人の跡を追った。
2人は召喚壁の目前まで退いてきた。その場にアサシンも姿を現した。
「ほう、わざわざ墓標の前までやってくるとはな、これで手間が省ける」
しかし――
「こんなにデケエ墓に眠りたくないもんだぜ、何せ大きすぎる、重すぎて仕方がねえ。
そういうわけだから、テメーにはクラウディアスがかつての栄光を取り戻すための生贄になってもらうぜ!」
と、リアスティンは得意げに言った。アサシンは大笑いした。
「はぁ? 何を言っているんだ? 生贄になるのはテメエだ。
俺はテメエを殺るために遣わされてんだ、せっかくなんで面倒もない仕事がしたいんでな、
だからおとなしく死ね!」
アサシンは今度こそ素早い身のこなしでリアスティンに襲い掛かってきた! しかし――
「シャナン! 召喚壁の力を引き出すにはこうするんだ!」
リアスティンはそう言うと、おもむろに何かを唱え始めた、すると――
「なっ、なんだ、こいつは!」
いきなりその場に業火をまとった獣が現れ、アサシンは驚いた。
「ポンプで水をくみ上げるときは呼び水を使う、こいつもそれと同じで、俺の力でこうして引き出してやれば――」
リアスティンは業火の魔神とも呼ばれる幻獣”イフリート”を呼び出したのだ。
「召喚王国クラウディアスの黄金期の到来だぜ!」