リアスティンとシャナンは召喚壁の頂上から降りて再び話をした。
「あのー、なんというか、疑問があるのですが……」
なんだろう、リアスティンはシャナンに訊いた。
「要するに、お城に安置されている石碑は元はこの石碑の一部であることはわかりました。
ただ……この石碑から感じられる力のほうが弱いように感じるのですが、そういうものなのでしょうか?」
シャナンのその疑問については、リアスティンも承知済みだった。
というのも、今回リアスティンがここに来た目的というのが、そのことについてのことだった。
「さっき話した召喚壁の力の”独り占め”が関係しているようでな――」
召喚壁を”独り占め”するため、こちらの石碑の力はその当時に封印されたそうだ。
封印して、お城にある石碑以外は利用できないようにすることで”独り占め”は成立する、
つまりはそう言うことである、リアスティンは話を続けた。
「だから力が弱いんじゃなくて、実際にはこいつは使用不可能というのが正しいんだろうな。
だけど、ここの封印を破れば、当然ながらこっちのほうが力が大きいんだ、これだけ大きいんだからな」
すると、リアスティンはおもむろに、石碑の周りで何かを探し始めながら言った。
「そういうわけだからシャナン、ちっと手を貸してくんねえか?」
シャナンはとにかくリアスティンに言われた通り、石碑の周囲の概形を調べていた。
「裏手のほうはくぼみが1か所ありましたね」
「ああ、対して、表側は2か所あった、伝承通りだ」
どういった伝承だろうか? シャナンはさらに訊いた。
「うん、流石に石碑ってぐらいだからな、要するに人工物ってことだ。
見つけたくぼみってのは、恐らく、大地に固定するための”くさび”みたいなものが打ち込んであるのだろう」
つまり、それって――
「大地に固定するということは――1枚板が地面に対して縦に刺さっているわけではないということですね?」
シャナンがそう言うと、リアスティンが答えた。
「だな、ついでを言うと、板自身もつなぎ目みたいな跡があった。
これだけのものを作るってことになると、全く想像できないな、
それこそ昔どころか、今の技術でもほぼ不可能な技と言えるだろうな。
あくまで俺の予想だが、これを作ったのは初代クラウディアスでもなければ他の誰かでもない、
まさに神の技を持つやつが作ったとしか言えないわけだが――」
しかし、どうしてそんなことを調べることにしたのか、シャナンは気になったので聞いた、
召喚壁については別に専門家でなければ、ほとんどどうでもよかったのでは?
「いやいやいや、これだけのものがあるんだ、できた過程っていうのが気になってな。
実はこう見えても、建築物には興味があってな。
ほら、だって、この国のお城ってば、なかなか異質な感じだろ?
対して、民家なんかは”ちゃんとした作り”になっている、これはどういうことかと思ってな――」
クラウディアス城は人工物と自然が融合した作りとなっており、
レンガのブロックで積み上げられた箇所もあれば、木造の部分もあり、
それだけならまだしも、どういうわけか、草木がうまい具合に覆われているメルヘンチックな感じの箇所もあり、
如何にもおとぎ話に出てきそうな作りになっているのが特徴である。
そこがリアスティンの興味を惹いたところなわけだが、
実は、かつてのリアスティンが外の世界を見てみたいと言ったのは単なる建前で、
本音はいろんな国の建物を見てみたいというのがあった。
それゆえか、ルーティス学園の大学の専攻科目も建築系の科目が中心で、
召喚壁に興味があったのもうなずける話だった。
それを聞いたシャナン、世の中、何が幸いするのかわからないなとリアスティンを見ながら思った。
いや、それは幸いと呼べるのだろうか、それとも――
それはともかく、建築学を学んできたリアスティンが神の技というのだから、
召喚壁を作った存在はまさに神そのものの可能性が高いのだろうとシャナンは思った。
そうこうしているうちに、リアスティンは次の作業に移ろうと、シャナンに提案した。
「召喚壁自身の調査はここまでにして、今度はこの石碑から少し離れたところを捜索しようぜ」
リアスティンが今度は何かを探しているようだけれども、何を探しているのかはわからなかった。
というより、リアスティン自身が探すべきものを把握していないような感じだった。
「ったく、どこかの誰かが……余計なことをするからこんなことになる――」
しかももんくも多い。ただ、そのセリフを聞いた時にシャナンは気が付いた。
「余計なこと――アテル王の時代の”独り占め”?」
シャナンはなんとなく、そのことではないかと思って訊いた。
「察しがいいな。
そう、”独り占め”するためにこっちに施した封印の何かがあってしかるべきなんだが、
恐らく、何かの方陣が地面に展開されているはずなんだ。
だけどそいつが見えねえし、一体どういうもので、何を基準にして探せばいいのか見当もつかねえ。
でも、言っても何もなければ封印は完遂しねえ、だから何かしらはあるのは間違いないハズなんだ、そいつを探している――」
シャナンは考え、リアスティンに言った。
「封印の方陣――私が知っているもので言えば、たいてい等辺六芒星の方陣が多い気がしますね――」
するとリアスティンは動きを止め、シャナンのほうに顔を向けた。
「そうだ! 六芒星だ! それだ!」
等辺六芒星となれば、石碑を中心とした円を描いているはずだ、
このサイズの石碑なんだから、大体描かれる円の大きさも相当なものだ。
2人で石碑の大きさから描くべき等辺六芒星の大きさをある程度割り出し、
割り出した等辺六芒星がちょうど収まる円の半径の長さを算出した。
「距離的にはあそこの木のあたりまでがちょうどその距離になりそうだな――」
「となると、向こう側は崖の上になるのでは――」
2人はいろいろと考えていた。
「崖の上はいいだろうこの際。六芒星の頂点をいくつか破壊できれば方陣は成立しなくなるんだから全部やらんでもいいだろ」
「確かに、それもそうですね。とりあえず探してみましょうか」
その考えをもとに、2人はその方陣を形作るという”標”となるものを探し始めたのだった。