一応、スクエアでは身分を伏せてまでハンターとして生計を立てていたリアスティン、
何故今更危険とかそういうのに注意しなければいけないのか、猶更釈然としなかった。
しかし、このクラウディアスの現状的にはそんなことを言っていても仕方がないのは事実である、
そのため、お供がいればジェレストたちも怒ることはないだろう、そう考えたリアスティン。
ただ、そのお供が兵士というのがジェレスト的には懸念するところだろう、それは考えた。
この場合、兵士に非常に迷惑がかかり、最悪、兵士は何らかの罪に問われることは間違いないだろう。
しかし、それについてはこう説明すればいい、自分の独断で、この兵士をお供にして連れまわした事にすればいい、そう思った。
また、リアスティン的な都合で言うと、それでもやっぱり”おつき”がいることには違いないので、
それはそれであまり都合がよろしくない、最初はそう考えた。
だけど、こいつはジェレストなどの騎士ではない、あの堅苦しい面倒なことを言いそうなヤツではないかもしれない、
物は試しということで、この国の兵士だったらどんな付き合いになるのだろうか、
それはそれで少し興味があったので、同行を許可することにした。
というか、最初にそもそも論としてどうして同行を許可しなければならないのかというところを考える必要があるのだが、
よくよく考えると、まだ城を抜け出したばかりですぐにでもジェレストの耳に届いてしまう状況、
それだけは避けなければならないので、同行も止む無しと考えたのである。
しかし、同行者が兵隊の恰好で一緒に歩いてたのではあからさますぎるので、
兵士にも普段の恰好をするようにと指示し、いやいやながら、そのままお城の裏で待つことにした。
「お待たせいたしました! それでは行きましょう!」
2階へ飛び上がって着替えに行っていた兵士は、再び飛び降りてきた。
思いのほか、身軽な兵士だなと感心していたリアスティン、
それ以外にももう一つ気になったことがあったので、その兵士に訊いた。
「なあ、お前さ、俺と同じぐらいの歳だろ?」
「えっ? ああ、はい、左様でございます」
「よっし、わかった! だったら、お前は俺に向かって敬語は禁止だ!」
そんな、滅相もない! 兵士はそんな態度だったが――
「いや、これは命令だ。今日から俺とお前は友達同士だ、いいな?
これから町のほうにいくわけだが――敬語で話すと如何にもだろう?
それではわざわざ着替えた意味もなくなる、だろう?」
それも確かにそうだ、兵士は考えた。
「だな? よっし、じゃあ決まりだ。これからお前は俺をリアスティンと呼べ。
都合がいいことに、国民は王子の名前は知らないからちょうどいいじゃあないか、そうは思わないか?」
クラウディアス国民は第1王子と第2王子の存在がいることは知っているが、
それが具体的にどのような存在なのかはすべて謎に包まれていた。
これについてはこの兵士にしてもそうで、この方が第1王子なのかと、つい最近初めて知ったぐらいである。
なお、彼の存在を知っているのはほんの一握りの人間のみ、騎士などの貴族連中の中でも一部のみというお国柄である。
「よっし、じゃあ決まりだ。これからお前は俺をリアスティンと――あれ、そう言ったっけな、まあいいや。
だから俺もお前のことを――えっと、あっと……悪りぃ悪りぃ、まだお前の名前、訊いてなかったな」
と、リアスティンは調子よさそうにそう言うと、兵士は改まった。
「あっ、これはとんだご無れい――いや、すみませんでした。
えっと、私の名前は――シャナン、シャナン=エンバレムと言います!」
そう、この出会いこそがすべての始まり――
この時のこの出会いこそが後のクラウディアスを大きく動かす出来事であることを、
この時はまだ誰も知る由はなかった。
リアスティンはシャナンを連れ、そのままクラウディアスの町へと繰り出した。
「活気で言えば、城よりも町のほうに分があるねえ」
リアスティンはシャナンに訊いた。
「えっ、はい、まあ――。
バルテス陛下が、リアスティンのお父上がお亡くなりになったというのに申し訳ないことです――」
しかし、リアスティンは首を横に振った。
「そんなこと気にすることじゃねえ。
親父が亡くなり、王位継承がどうのこうのといいながら既に半年も経っているんだ、だから、普通の感覚なら、
クラウディアスがこれからどうなるとかというのよりも毎日どう過ごそうかと考えることのほうが優先されるに決まっている。
だから流石にいつまでも沈んでられないんだろうよ、お前だってそうだろ?」
そう言われると――リアスティンを前に言うのはやはり躊躇われるが、間違いとは言えなかった。
「それなのにな――臣下たちは一体何をちんたらしているのやら、
庶民がいてこそのクラウディアス王国だろ? シャナンもそう思うだろ?」
と、リアスティンは呆れながら言っていた。一方のシャナンはどう答えるべきか悩んでいた。
だけど、それでも息子本人としては自分の肉親が亡くなってからどう思うのだろうか、シャナンはそれを気にした。
「親父が死んだことは流石に悲しいけどな、だけど、いつまでも悲しんでられないのも事実だ。
そもそも、親父とは年齢もずいぶんと離れている、
俺がルーティスを卒業して一度帰省した時点で既にそういうことを覚悟しないといけない歳だったんだよな」
リアスティンは少し寂しげにそう言った。
「実はな、その帰省のタイミングでクラウディアスに腰を据えて王族としての務めを果たすつもりだったんだ。
だけどな、それを親父は断固反対したんだ」
反対? シャナンは耳を疑った。
「そもそも、俺は外の世界というのを学んでみたいって言ったのがきっかけでルーティスへの留学を決意したんだ」
バルテスはそのリアスティンの気持ちを汲み取り、すぐさまクラウディアスに帰ってくることを許さず、
そのまま海外で勉強を続けるように言ったのだそうだ。
「言ってみれば、あれは親父からの遺言だろう、少なくとも俺はそうだと思っている。
クラウディアスは今のままじゃあダメだ、だから、お前の力でクラウディアスを変えてくれ――
親父からそういうふうに言われている気がしてなんねぇ。
だから、俺はやるつもりだ。せっかく親父が外の世界を知るためのチャンスをくれたんだ、
それに応えるのが俺の責務だろう――」
話を聞いていたシャナンは頷いた。
「私もそう思います。確かに、あの陛下が、理由もなく自分の子供に帰ってくるなと言うとは思えません。
ですから、恐らく、そういうことなのでしょう。
自分でできなかったことを自分の子供に託した、聡明な陛下のことですからそうに違いありません」
すると、その言葉でリアスティンはニヤっと笑った。
「じゃあよお、シャナン、この俺がクラウディアスという国を新しく作り直すと言ったら、お前はこの俺についてくるか?」
すると、シャナンは、はっきりと答えた。
「もちろんです! どこまでもお供します!」
しかし、それを言うと、リアスティンが――
「おいおいおい、お前、敬語のまんまだな――」
と呆れた感じで言った。
「あっ、はい、まあ――なんでしょうか、クセですかね――」