エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第2部 夢の王国の光と影 第3章 忍び寄る魔の手への挑戦状

第42節 抜け駆け立太子リアスティン

 リアスティンは立太子を控えている大事な身の上、容易に外に出ることはかなわなかった。 国の外は言うに及ばず、たとえ城下の散歩だろうと言語道断、 お城の中を歩くにもジェレストなしで歩くことも許されなかった。 それに、命を狙われていることが分かっているのなら猶のことである。
 そのような中、唯一1人でも許された空間といえば、自分の部屋の中のみだった。 ただ、あまりにも暇を持て余している身の上、いつの間にかうたた寝していることもある。 おつきとして、いつもついてくるジェレストなどのような上位の騎士と一緒に散歩するのもかったるいのだけれども、 とにかくそいつと一緒でないといけないというのがこの上なく面倒くさい、 性格的にもそりが合わないのでとにかく腹が立つのである。
 だから、リアスティンは最近、自室の窓からこっそりと飛び降り、お城の裏手から一般民を装って散歩するのだった。 そのため、まずはジェレストたちに着るように促された王族の服を脱ぎ捨て、 スクエアでもいつも着ていたようなラフな格好に着替え、作戦を決行した。
「じゃあな、ジェレスト♪」
 窓の下のほうを確認した後、自分の部屋の前で見張っているジェレストにこっそりと別れを告げ、 リアスティンは5階の部屋の窓からそのままうまく壁を伝いながら飛び降りた。

 そして、リアスティンはうまく1階へ降りた後、周囲を改めて確認した。すると――
「あーっ! リアスティン様!」
 2階の兵士に見つかってしまった! 誰もいないことを確認したのに、途中階の者に見つかるなどとは計算外だった。 しかし、その兵士はリアスティン同様に飛び降りてやってきた、それにはリアスティンも驚いた。 そう、ここは由緒ある国のお城、何人たりとも、そのような行為を犯すことはあり得なかったのだが、 この兵士がそれをやったことで、意表を突かれたようだ。
「いいですか、リアスティン様はこの国の立太子を控えている身、 そして、臣下たちがあなた様のために真剣に取り組んでいる最中にございます!  ですから、どうか、どうか、お部屋にお戻りを――」
 すると、ほぼ当然のことながら、リアスティンの怒りが大爆発した。
「ざかしいんじゃボケ! 臣下だろーが民家だろーが金貨だろーが、この俺を束縛することは絶対に許さん!  そうとも! 俺は立太子を控えていてこの国の王になろうという男だ!  だからこそ、この国の何某かを今一度知っておく義務というのがある!  この国をとことん知り尽くすまではいくらでも抜け出してやる! いいな! わかったか!」
 ところが、その兵士はリアスティンも思いもよらぬようなリアクションをした。
「なんと、そうでしたか! これは大変失礼いたしました!  確かに、リアスティン様はしばらくは海外留学していた身の上、この国の事情をそれほど把握していないと伺っております!  そのためには危険をも承知の上で赴こうとは――感動いたしました!」
 兵士のその様子に、リアスティンは動揺していた。兵士はさらに話を続けた。
「この国の昨今をあまり知らず、いつも見える風景は窓からみた景色のみ、 だからこそ、たとえどのような困難があろうともこの国に直に触れなければならないと、そういうことですね!」
 リアスティンはうろたえた、いや、自分としては、 とにかくうっぷんを晴らそうとテキトーにそれらしいことを並べてみただけだったのだけれども、 相手がこの様子では後に引くことはできなかった。 とはいえ、言ったことについては必ずしも間違いというわけではないのだが、 別にそういうつもりで抜け出したいわけではないので――リアスティンは悩んでいた。
「それに、リアスティン様であれば、 いちいち臣下の言うことを気にしながらことを運ぶようなお方ではないハズですからね!」
 と、兵士は調子よく言った。 リアスティンのいつもの言動からもわかるように、兵士たちの間ではおろか、 城内での職務に従事する者の間ではもっぱらの噂にもなっていた、 もはやクラウディアス中に知れ渡ることになるのも時間の問題だが。 彼の人格形成は王国にいるときからも割とそうだったのだけれども、 ルーティス学園で学んだ暁には先進的な経済都市スクエアに行っていたこと、そこで働いていたこと、 スクエアと言えば、この当時から文明の進んだ国であることからも、 そういう場所での人生経験、この兵士も、それを察して話をしていた。
 それに対してリアスティン、うろたえながらも、とりあえずその通りだと言い切った。
「しかし、やはりリアスティン様には安全なところにいてもらわなくては困ります!」
 そう言い返されると、リアスティンは再度イライラしてきた。その様子を見た兵士、機転を利かせて言った。
「ですので――この私を是非リアスティン様のお供として同行させてください!」
 リアスティンは再び意表を突かれた。