果たして、今のクラウディアスはどうなっているのだろうか? 長い沈黙を貫き通してきた大国、その実態は?
その真相を探るべく、アリエーラは今回、ディスタードのガレア軍の調査団のメンバーとしてオファーが来たのだった。
2人はルーティスで落ち合い、そのままガレア軍の戦艦へと乗船、戦艦3艦でクラウディアスに向けて出港した。
「そっか、だったら、デュシアさんにもオファーを立てればよかったかな――」
「いえいえ、デュシアさんなら別の仕事についているハズですからお気になさらず!」
アリエーラはリファリウスに、自分がスクエアでハンターをやっている時の話をした。
デュシアと仲良くなったので、彼女の話をしたら、彼女も一緒に誘えばよかったなと言ったのだ。
しかし、今回の仕事は――内容が内容なので、単にクラウディアスに行きたいというのとはわけが違うのだ。
そう、クラウディアスの現状がさっぱりわからないので、まずはその調査からしなければいけない。
そのため、デュシアを誘うのであれば追々となるだろう。
そして、現在はディスタードのガレア軍がクラウディアスの実態を調べることにしたのだ。
しかし、それは秘密裏に行われていることだった。
「実は、今回の調査については非公式に行われるものなんだよね。」
と、リファリウスは言った。それもそのハズ、ディスタードと言えば、
本土軍がこの大国クラウディアスを落とそうと計画しているのである。
それはそれはディスタードが帝国となった直後から続いている話であり、
クラウディアスの東側にある”アクアレア・ゲート”と呼ばれる非常に強固な守りによって何度も返り討ちにあっているのである。
以来、ディスタード本土軍はクラウディアスへの進攻を諦めたわけではないけれども、長らく棚上げとなっているのである。
「クラウディアスが鎖国して一切の出入りができなくなってからもそうで、
本土軍はクラウディアスへの進攻をずっと躊躇している。
でも、本当に攻められたらクラウディアスとしてはヤバイ可能性が高いんだよ。」
と、リファリウスは続けた。さらに話をした。
「話を戻すと、要は、同じ帝国の人間の力でディスタードに侵入できたってことになると、
うちらが本土軍に睨まれる可能性が高いってこと。
それだけならまだしも、クラウディアスに迷惑をかけることは明白だからね、それだけはどうしても避けたい。」
そのため、今回の話の集合場所としてルーティスを指定していた、クラウディアスの東側のアクアレア、
つまり、帝国側に一番近いところから上陸する手段ではなく、南のフェラント側から上陸する手段をとっているのである。
「でも、上陸場所を変えたからって、それで本土軍を欺けるのですか?」
アリエーラはリファリウスに確認した。
「その心配には及ばないよ、上陸には帝国の船は使わない。
作戦としては、とりあえず、フェラントの町からはっきりしっかり見えるところまで戦艦を接近させる。
ガレア軍としてはフェラントを攻撃できそうなぐらいのギリギリの距離まで詰める。
で、向こうの動きをある程度想定して――あとは事を起こすだけって感じ。」
事を起こす? アリエーラは心配そうに聞いた。
「まあまあ見てて。多分、クラウディアスもそれに応じてくれるだろう、私のカンが正しければね。」
私のカン――そう言われたアリエーラ、この人のカンは結構当てになるので、アリエーラは信頼していた。
「それにしても――本当はガレア軍にアリエーラさんを招待したいんだけど、
あいにく、今のところ、どういうポストがいいのかいろいろと思案していてね――
まあ、すぐに決まるだろうからそこは気にしていないんだけれども、
実際には、ガレアってほとんど手つかずの不毛な土地みたいな場所だから、
軍隊らしく部隊長程度のポストぐらいしか考えていないんだ。
本当は一般企業みたいな運営にしたいから、土地の整備がある程度収束してからになるかな?」
えっ、自分が帝国軍の一員に? アリエーラは少し驚いた。
しかし、アリエーラ的にはリファリウスと一緒なら楽しそうなので、それはそれでいい話だった。
とりあえず、その時までのお楽しみにしておくことにした。
次第にクラウディアス大陸がはっきりと見えてきた。
ルーティスからでもうっすらと見える大陸だけれども、
アリエーラとしてはクラウディアスがはっきりと見えたのはこれが初めてだった。
何がはっきりと見えたかというと、まずは港らしきところにいくつか漁船が見えたのである。
「あれがクラウディアスの南の玄関港の”フェラント”ですね?」
と、アリエーラは訊いた。
「フェラントと言えば”フェラント・サーモン”って鮭が有名な場所だそうだね。
脂がのりにのっていてとてもおいしいらしい。」
リファリウスが魚料理が好きなことを思い出したアリエーラ。
アリエーラもその影響を受けたのか、自身も魚料理が大好きなのである。
リファリウスは――いや、アール将軍は予定通り、戦艦でフェラントにギリギリ接近すると、戦艦を止めるように言った。
「距離的にはこんなもんだろう、ガレア軍はあくまでこの海域で演習中という体で本土軍に話が通せるギリギリのラインだ。
一方で、クラウディアスさんは、異国の戦闘艦がこんなに接近している中、どう出てくるかな?」
そして、ここでしばらくは様子見である。
一方、クラウディアスでは当然のごとく、フェラントの南側に帝国の船が一定の位置に3艦並んでいることでパニックになっていた。
「エミーリア女王陛下! お知らせがございます!」
「帝国の軍艦!?」
謁見の間にて、女王陛下とフェラントから連絡を受けた兵隊とが話しをしていた。
「はっきりとした情報はないのですが、艦の形状から察するに、ディスタード帝国の戦闘艦のようです!」
「えっ、ディスタード?」
そこへ、一人の騎士らしき人物が謁見の間に現れ、何か考えながら話をし始めた。
「南側からやってきているという話らしい。
聞いた話だと、南のルーティスはディスタード軍によって占領されたそうだ。
そこから来ている? どういうつもりだろうか、まさか――クラウディアスを攻めに?」
「そ、それはマズイんじゃあ――」
もう一人の騎士も話に加わると、心配そうにそう言った。
「だけど、一つ、妙な噂もある。
そのディスタードなんだけれども、北にあるルシルメアって町とは和解していると聞いているよ、それって本当?」
今度は科学者のような風貌の男が現れて言った。それに続いて、その科学者の後ろからついてきている女の子が言った。
「ルシルメアはディスタードが攻めてたハズなのに、ルーティスで敵に負けてルシルメアからも手を引いたんじゃ?
それなのに、今度はルーティスでその敵に勝ったって聞くし、そして何故かルシルメアとも仲良くなってる……どういうこと?」
すると、今度はエミーリアの隣に、小さな女の子が現れて言った。
「いつの間にか状況変わってる。
ルシルメア攻めてルーティスで負けた軍、ルシルメアと仲良くなってルーティスで勝った軍、違う。
どちらも同じディスタード、でも、ちょっと違う。」
それに対して、先ほど心配そうな発言をした騎士が言った。
「そういえばディスタード帝国って4つの軍があるハズ。その違いなのかな?」
それに対し、もう片方の騎士が言った。
「でも、そういう話だとちょっとややこしくなるな。
そもそも、4つの軍ってそれぞれで侵略しようと企てている場所ってそれぞれ違っているハズ。
それなのに、別のシマに肩入れしたら、帝国内で問題になりそうな気がするんだが?
言ってしまうと、ルシルメアもルーティスも確か、ディスタードのランスタッド軍っていう連中のシマだったハズ、
一方で、クラウディアスを貶めようとしているのはディスタードの本土軍だったと思うが――」
そこに女王陛下が――
「変なの、それじゃあケンカになっちゃうよね、ということはつまり、
そのランスタッドの軍がルシルメアもルーティスも問題を解決して、
今度は本土軍が、こっちに来ているってこと?」
小さな女の子が思い出したことを言った。
「でもランスタッド負けてなくなったハズ、問題解決できない。
そういえばディスタードに新しい将軍できた言う。これ何か関係ある?」
このように、クラウディアスは鎖国しているとはいえ、ある程度は外の情報が入ってきているようだ。
「どうするの、エミーリア――」
先ほど心配そうな発言をした騎士が再び心配そうに言った。
「どうしよう――」
女王陛下は困惑していた。それを見かねた小さな女の子が言った。
「相手は帝国、強大な軍事組織、攻撃してくる気配ないならとりあえず様子みる。防御展開して準備怠りなく」
「わかりました! とりあえず、相手の出方を見ることにしましょう――」
と、報告に来た兵士がそう言ったのと同時に、別の兵士が謁見の間に現れて言った。
「女王陛下! 帝国の軍艦から白い旗が!」
すると、その場に居合わせた全員が、キョトンとした。
「えっ、白い旗? 戦うつもりはないってことでいいのかな?」
女王陛下は心配そうにそう言った。