エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第2部 夢の王国の光と影 第3章 忍び寄る魔の手への挑戦状

第37節 クラウディアスの疑念

 クラウディアスは一方的に国交断絶することを決定したというが、 実際のところ、そうなった具体的な経緯や、その後の状況などは一切わかっていない。
 さらにはクラウディアスという強国を前に、攻め入ろうなどという国がそうそう簡単に現れることもなく、 クラウディアスは国交を断絶して以来、どのような国になっているのかといった情報は一切外部に漏れることなく保たれていた。
 そのような国に対し、無謀にも渡航手段を考える者がいた。 その者は、ルーティスにおいてバランデーア軍を退いた後に話し合いをしていた。
「そうだったんだ、アリエーラさんはクラウディアスを目指していたのか。うーん、クラウディアスか――」
 アリエーラの話を聞いたリファリウスは何やら悩んだ様子で話を聞いていた。
「やはり、クラウディアスへ行こうというのは難しいことなのでしょうか――」
 リファリウスが悩めば、アリエーラも悩みながら訊いた。
「だいたい今言った通りだけれども、話では当時の国王リアスティンがいきなり国交を断絶するとか言い出したきりで、 それ以来、あの国はどうなっているのかがわからないんだ。 ただ、それでも一つだけ確かなことがあるんだ。」
 確かなこととはなんだろうか、アリエーラは訊いた。
「実際にそれを宣言した当の本人がいないこと。 その宣言は本人がセラフィック・ランドに赴くそのタイミングで言い残したことのハズ、 言ってしまえば、ある意味留守の間は誰も国に入れるなと言っているようにも思える。」
 確かに、それはその通りである。クラウディアスの王が自らセラフィック・ランドに赴いて異変を探りに行ったことは間違いないのだけれども、 その直前に一方的にクラウディアスは鎖国すると宣言した、簡潔に言うと、鎖国した直後に居なくなっているため、まさにその通りなのである。 しかし、なんだってそんなタイミングよくいなくなったのだろうか?
「そう、だから多くの国民が一丸となって王の帰りを守るため、 国を守っている、というのが一般的な常識で通っている、ここまではいいよね?」
 と、リファリウスは続けてそう言った。その認識についてはこれまで聞いた話から考えると間違いはない、 アリエーラはそう考えながらそう言った。
 それに対し、リファリウスは遠い目をしながら言う。
「多分、あの国の問題はそこにあるんだろうな、きっと。」
 そこ? どういうことだろうか、アリエーラは訊いた。
「いい? アリエーラさん、とにかく、クラウディアスの王リアスティンは鎖国した直後に居なくなっているんだ、 つまるところ、どういうことかわかる?」
 アリエーラは少し考え、閃いた。
「まさか――リアスティンは居なくなる可能性を踏まえて鎖国した、ということですか!?」
「そう、そういうことだね、それもある。」
 リファリウスは得意げに答えた。えっ、それ”も”とは? アリエーラは聞き逃さなかった。
「流石に聞き逃さなかったね。 私としては、クラウディアスには誰も近づくなと言わんばかりに鎖国したってところがそもそも気になるところだね。 何故来てほしくないのか? それを考えれば考えるほど、とある一つの疑念が浮上するわけだからね――」
 それを聞いたアリエーラはまた閃いた。
「もしや――クラウディアスは――」
 その答えにリファリウスは得意げにニヤッとしながら言った。
「もう、流石に気が付いたようだね、恐らく、その通りなんじゃないかなって思う。 アリエーラさんは少し前に”エステリトス”と契約したって言ってたよね?  実は私もちょっと前に幻獣”ヘレナンディル”と契約している。 まさにこれこそが、もうほとんど答えのようなものだけれども――」
 アリエーラは確信を得た。
「私たちが言うのも何なのですが、”エステリトス”も”ヘレナンンディル”も、 相当の使い手でなければ契約は難しいハズの召喚獣だそうで、 恐らく、クラウディアスぐらいにしか使い手はいなかったのでしょう。 つまり、国王の調査団は精鋭が集まる部隊だということですね。 確かに、セラフィック・ランドの異変は非常に難儀なものだと言われています、 ですから、それほどの人が必要だった、ということでしょうね。」
 さらにアリエーラは話を続けた。
「つまり、リファリウスさんが言いたいのは――クラウディアスには精鋭が不在になっている、ということですか?」
 リファリウスはさらにまた得意げに指をパチンと鳴らして答えた。
「そもそも論として、どうしてそんなタイミングで鎖国をしたのかがよくわからなかった。 セラフィック・ランドで起きたっていう脅威はそれほどのものだったと考えるのが妥当なところなんだけれども、 それにしてはリアスティンの根回しが良すぎる、まるで自分たちがいなくなることを予見していたかのようだ。 この点と、クラウディアスは召喚王国というところから考えても、あの国自身に何かがあるとみて間違いないだろうね。」
 さらにアリエーラが続けた。
「どうしてリアスティン王がそう考えるに至ったのかはともかく、 つまり、クラウディアスには有力な使い手がいないということになりそうですね――」
 その話にデュシアが参加した。
「確かに――そう言われてみればしっくりくる話だな。 クラウディアスと言えば2人も知るように強国の一つ、どんな国相手でも戦には負けたことがないとされる大国だけど、 鎖国する少し前からクラウディアスが参戦した戦いというのは訊いたことがないな。 もっとも、クラウディアスを脅かせるほどの力を持った国がいないから誰も手を出さなかっただけかもしれないけれども、 それにしては動きがなさすぎる気がするな――」
 そう考えると、鎖国と宣言する前からほぼ鎖国しているような印象を受ける。 そのため、なおのことわざわざ鎖国を宣言したことが気になるのである。
「つまり、自分たちは強国として知られているクラウディアスだから、ここで一方的に鎖国だなんていうと、 異国の船はクラウディアスに近づこうものなら一瞬で消されてもおかしくはないぐらいの影響力があの国にはあったわけだ。 だから、周りの国はクラウディアスは強い国だから近づくのはやめておこうと誰しもが考えるということか。 つまり、その影響力があるうちに一方的に国を閉ざしてしまったから今の状態を保てていると、まさにそういうことになるわけだね。」
 とはいえ、あくまで可能性の話に過ぎないのだけれども。 しかし、相当の使い手がそれほどいないことについてはほぼ事実だろう、リファリウスはそう補足した。
「確かに、純粋に考えても、一切動きのない国というのも不気味だな、 本当に実力者がいないから事を荒立てたくないのではと言われると――それはそれでしっくりくる話のような気がしないでもない」
 デュシアは考えながらそう言った。確かに気になる――アリエーラは思った。