試し甲斐があること、それは――まさに真正面から突っ込む行為そのものが物語っていた。
「敵襲!」
バランデーア軍の兵隊が、アール率いる小隊の進軍に気が付いた、しかも――
「何!? あんなに正面から堂々と? しかもあんなに少数で!? 一体、連中は何を考えている――」
バランデーア軍は戸惑っていた。
特に戦っている様子もなく、ただひたすらとこちらに向かって歩いてきているだけ、
とにかくあからさまなほどに正面から堂々と進軍してくるので、それが一体どういうつもりなのか、困惑していた。
「あれはディスタードの罠か!? 連中め、一体何をたくらんでいるんだ!?」
それに、そのバランデーア軍の上司らしき人はディスタード軍による仕業であることも承知済みのようだった。
その中、一人の兵隊が、その小隊を率いているやつに気が付き、慌てて上司らしき人に報告した。
「隊長! あの小隊の先頭にいるやつが新しいディスタード帝国・ガレアの将軍というやつだそうです!
確か、名前はアールと――」
「何!? あいつがか!? すぐさま総司令に伝えろ!
しかし、何故、将軍というやつが、敵対する勢力の矢面になっているのだ!?」
「どうかな、やっぱり困惑していると思う?」
堂々と敵の面前へと進行していく最中、リファリウスはアリエーラに訊いた。その問いにはデュシアが答えた。
「困惑するも何も、こんな、敵に対してこの人数で正面から堂々と攻め入るだなんて、どう考えても頭おかしいと思われるのがオチだろう」
「あっはははは、確かに、そりゃ間違いないね。
まあ、いいさ、せいぜい、悩み続ければいいよ、こっちは基本、無策で飛び出してきているんだ、
そんな相手に対していくらでも悩み続けているがいいよ、別に。」
アールは楽しそうだった。それに対してシャトが敵がいる周囲のほうを眺めながら言った。
「基本的に無策、ね。つまるところ、この程度の敵なら本当に無策で飛び出してくるぐらいでも十分ってワケなのね――」
敵陣の真ん中に堂々と進んできて、いよいよ正面までやってきた。
敵のほうも、数的にあまりにも無謀すぎる進軍であり、
そもそも本当に敵なのかでさえ疑うところだったため、進軍を許すところまで許してしまった、
もっとも、どれだけ進軍を許そうとも、形勢的にはバランデーア軍のほうが圧倒的に有利なのだが、普通であれば。
「そこまでだ貴様ら、そこを動くんじゃない!」
それでも流石に近づきすぎたため、バランデーア軍の総司令は拡声器を使ってアールたちに警告した、すると――
「ああ、言われなくても止まるから安心していい。」
リファリウスは拡声器なしで話していたが、声は大きく拡散していた。
そのため、敵は非常に驚き、警戒していた。これはリファリウス自身の風魔法の力によるものである。
「さて、どうするね? 我々はキミらの前に出てきたんだ、それに免じてルーティスを諦めたりしないのかな?」
リファリウスは交渉し始めると、敵の総司令は答えた。
「何を言うか、そもそもここは我々の領土であるべき場所なのだ、諦めるのはそっちだな」
「あ、そう、どーしても諦めないんだね。」
そんな話をする中、敵は笑いながら答えた。
「バカが! 一体何のつもりかと思えば、そんなことだけ言いに来たというのか!?」
「まあね、それもここに来た理由の一つだね。」
理由の一つ? バランデーア側は訊き返した。
「ああ、そうさ。ほかには、交渉が決裂した場合――残念だけど、
キミらをこの場で私自らの手で即刻排除しなければならないんだ。
もちろん、ここはキミたちがルーティスを脅かすための重要な上陸拠点にもなっているから、
この拠点もろとも完膚なきまでに叩きのめさなくてはならない、そのためにここへやってきたんだよ。」
「何? 貴様ら自らの手で我々を排除すると聞こえたのだが?」
「え? 違うよ、”私ら”でなくて、”私”、複数形でなくて単数形ね、当初私が考えた予定では。
無論、”私ら”のほうが早く決着するのだからその方が効率もいい。
その代わり――キミらが生き残る保証は限りなく低くなるから、その辺は覚悟した方がいい。」
それに対して、バランデーア軍の兵隊全員が笑っていた。
「はっ、ははは、まさか、そんなバカな話を聞くことになろうとは!
確か、貴様が、新たにディスタードの将軍になったというアールだったか?」
「そうだよ。流石に情報早いね。
もっとも、うちの情報部は実に優秀なハズだからね、早くも情報が伝わってくれて一安心だ。
キミらの情報が遅いんじゃあないかと思ってヒヤヒヤしていたところだよ。」
ということはつまり、新しい将軍が就任したことをバランデーア軍にわざわざ伝えたことになるのだろうか、
アリエーラは訊いた。
「いきなり見ず知らずのどこの誰とも知れないような謎の勢力に辻斬りされただなんて、
それでは流石にあんまりだろう、だから、昔のエンブリアにあったという”国際法”と呼ばれるルールに則り、
正面から堂々と攻めるために宣戦布告をすることにした。
問題は昔と違ってそれを提出する機関がなかったから、直接的に伝えることにしたんだ、
まあ、同じようなものだから大丈夫だろう。
ただ――その新しい将軍がこいつらを直接成敗しにくるとも伝えたハズなんだけど――
そこの伝言ゲームは失敗しているようだね。これはここの軍隊の問題だから多分この人たちはダメな人達なんだろうね――」
リファリウスはヤレヤレといった感じの態度だった。
それに対してバランデーア側は――
「何をほざいているのだ貴様は。伝言ゲームがうまくいこうがいかなかろうが同じことだろう」
すると、リファリウスはやや強めの口調で言い返した。
「あ? 何を言っているんだ? 同じことだって?
あのさ、同じだったら私はここには来ないし、アールがくるともわざわざ言ったりしないよ、そうは思わないか?」
相手はやや笑い気味に言い返した。
「確かに、それもそうだな、将軍の就任わずかとはいえ、
仮にも大国の将軍の首を討ちとれるというのだから、それはそれで価値があるものになるだろう、
たとえそれが、敵の目前でわざわざ自殺行為をしにくるような能無しの将軍だとしてもな!」
すると、リファリウスは困ったような感じでアリエーラに訊いた。
「やばいなー困ったよ。私って、そんなに弱そうに見える?」
そう言うことではないのだが、バランデーア側は指摘した。
「くくっ、実におめでたいやつだな。
将軍にしてはあまりに世間知らずのようだからあえて教えてやる。
いいか、貴様が強いかどうかはこの際どうでもいいのだ。
我々が気にしているのは、そんな人数で、この大軍隊を相手にできると思っているのかということだ!」
しかし、リファリウスは的を射ておらず、不思議そうに答えた。
「え? うん、思っているからここにきているんだけど、なんか、問題ある?」
敵にとっては、とにかくとっても”おめでたい”人であることは必至だった。
「くくくっ、言ってもわからん奴のようだな、仕方があるまい、ならば望みどおりにしてやろう!」
敵が一斉に攻撃してきた。しかし――
「そうかい。じゃあ仕方がない、後悔してもいいけど恨むのなら自分だけにしてくれよ。」
リファリウスは不敵な笑みを浮かべながら剣を出現させた。
そして、アリエーラ、シャト、デュシアと、10人にも満たないガレア兵はアールの後に続いた……全員女性だった、リファリウス以外は。
勝敗はあっけなく決した、その結果は――リファリウスの睨んだ通りだった。
「きっ、貴様は、貴様らは――バケモノかっ!?」
「ああ、よく言われるよ、本当に。敵のボキャブラリを疑うレベルでよく言われる。
多分、バケモノなんだろうね。でも、なんでバケモノなのかもよくわかってないんだよ。」
バランデーア軍の周囲は生き残っているものはほぼおらず、残すは総司令ただ1人、
腰砕けているそいつに向かって、リファリウスは改めて話をしていた。
「わかったろ、私がわざわざ来た理由。そう、バケモノだからだよ。
ガレア軍のトップはこんなバケモノで、
敵勢力はこんなバケモノを相手にしないといけないから諦めたほうが身のためってことを知ら締めさせるために来たんだ。
それでいいかな?」
説得力は十分すぎるほどだった。
「それから、私に対しては一向に構わないんだけど、
他の女性たち捕まえてバケモノっていうのは失礼にもほどがあるんじゃあないのかな、キミは。
いくら敵だとしてもそれはあんまりだ。今すぐ詫びろ。謝れ。生きていることを悔やむんだ。」
確かに。