エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第1部 先の見えぬ旅路 第2章 遠き旅路

第31節 新生ガレア軍の作戦

 ハンター率いるガレア軍の将軍アールは、ハンターたちに絶対防衛線まで案内してもらっていた、 以前にハンターたちがアリエーラの強大な力を得て守り切った防衛ラインである。
 その間――
「にしても、2人しかいないのは兵力としてちょっと貧相すぎやしないか?」
 リーダーの男ハンターはアール疑問をぶつけた。それに対してアールは答える。
「ここはハンターがいるからね、だから私らは別動隊としてキミらと合流しただけのことさ。」
「別動隊ということは他にもいるの?」
 デュシアは訊いた。
「後から3部隊ほど上陸する手はずになっているけれども――恐らく、もう上陸しているころだね。」
 さらに話は続く。すると、アールは出し抜けに訊いた。
「”やっぱり”、話は訊かない系?」
 アールは、ハンターたちにいきなり話題を振ってきた。 話というのは、ガレアを拠点に置いていたランスタッド軍についてのことである。 今はそこにガレア軍が新たに鎮座しているわけだが――元々のランスタッド軍はどうしたのだろうか?  解体されたのだろうか?  それに、最も気になる話として――ランスタッドと言えば、ルシルメアも侵攻していたという話があったが、 それについてはどうなったのだろうか、訊いてみるのもありなのかもしれない。
 しかし、とはいえ相手は一国の将軍、そういうのは政治的な話でもあるので、容易に訊いてもいい話なのかという懸念もある。 それに、自分たちはハンターとして身を置いていることもあり、今の仕事に関係ない話はすべきではないと思っているから、 気になりはしても、実際に訊くことは誰も考えていなかったのだ。 アールの”やっぱり”というのはこのことについて言っていた。
 ただ、相手からそういうふうに話題を振ってくるので、あるハンターが話をしてきた。
「訊いてもいいというのなら訊くけど、ランスタッドはどうしたんだ?  それから、ランスタッドとやりあっていたルシルメアはどうしたんだ?」
 ランスタッドというより、帝国とルシルメアは、以前から大きな戦いを繰り広げてきたけれども、 その規模は徐々に小さくなり、所謂、”冷戦”の状態で長らく落ち着いていた。 冷戦とはいえ、戦争を終結させたわけではないので、水面下ではディスタードのランスタッド軍がゆっくりと進軍し、 そして、ルシルメア側もそれに対抗していたというぐらいの争いはあった。 それに、ルシルメアの町自体もディスタード軍によって部分的に支配されている状況が発生しているので、 町の中でルシルメア側とディスタード側とで分断されている状況でもあった。
「ランスタッド軍の指令についてはガレア軍がすべて引き受けた形で受けることになった。 だから、ルシルメア侵攻についても我々の領分となったってワケさ。 で、ルシルメアは――まあ、あれだよ、所謂停戦交渉中というものだよ、それも完全な停戦ね。 今後に向けて、いろいろと条件はつけたりつけられたりしたけど、うまい具合にまとめている状況さ。」
 何と、まさかの交渉中なのだという。まだ確定でないことを堂々と話すのは――
「交渉中なのは本当だからいいよ別に、決裂しているわけでもないしさ。 で、肝心なところなんだけれども、実は今回のこのルーティスへの協力に手を上げたのは、 ルシルメア側から停戦交渉で突きつけられた条件のひとつなんだよね。 うちは新生ガレア軍として考えを一新したいから停戦をしたいなんて下から提案したんだけれども、 そしたら、うちに戦力を注いでいる暇があったらルーティスを助けに行ったらどうだって言われちゃってね!  あははははっ、言われちゃったよ! まさにその通りだよね!」
 アールは何やら楽しそうだった。 将軍としての貫禄がないと思われても仕方がない一面だった――さらに話を続けた。
「とりあえず、このルーティスを我々がどうするか……それ如何で今後のルシルメアとの関係、 もちろんルシルメアだけじゃあなく、他の国との関係も変わってくるわけだしさ、どうせならいい行いをしたいよね!」
 アールの印象は他のディスタードの将軍にはあまりない考え方だった。 特にディスタード本土軍やマウナ軍は自国の利益を最優先にして自分の国を強大な国にすることを考えているが、 アールのアプローチは他国との連携を基礎に自国を強くしていくという思想であった。 しかし、それ自身はヘルメイズ軍や旧ランスタッド軍の思想とは似ているとはいえ、 ガレア軍のそれは、むしろ他国との連携のほうが最優先な考え方だった。 当然、帝国内でも、それは甘いとみなされているきらいがあり、 ハンターたちが聞いても甘いとしか言えない内容でもあった。
 しかし、改めて考えてみると、巨大帝国たるディスタードの一将軍の中にもこのような考え方を持つ人がいるというのは、 それはそれで貴重な存在なのかもしれない、今後のガレア軍の動向に期待したいところだ、望みがあるかどうかは別として。
「大丈夫だよ、ディスタードはもともとあまりいいイメージはない、だから、これ以上悪くなることはなかろうさ。」
 と、アールは言った。あまりにはっきりとしすぎたセリフに度肝を抜かされること請け合いだけれども、確かにそれも一理あった。

 絶対防衛線まで到着すると、
「もう追加の敵があんな所にいるのか――」
 と、リーダーの男ハンターが言った。 その防衛ラインの先にバランデーア軍が建てた仮設の前線基地が見えてきた。
「ここから先はルーティス南部の市街地だね、 なるほど、かつては敵国の侵入を防ぐために建設したゲートは皮肉なことに、今や敵の要塞のために使われてしまっているわけか――」
 アールはそう言った。ルーティスは複数のゲートというのがあって、ゲートによって区画が分かれている。 以前の戦いにもあったが、3つ目の防衛区にはシャトが住んでいたわけだけれども、 そこも今や、バランデーア軍に抑えられてしまっている。
 そして、この絶対防衛線の前には第8防衛区の入り口であるゲートが前にあり、 バランデーア軍の前線基地がそこにあった。
「第8防衛区はもはや町としての原型はとどめていない様子だね――」
 アールは落胆したような様子でそう言った。さらに続けて自らを引き締めるかのように言った。
「こうなったら仕方がない、連中にツケを払ってもらうことにしよう。 本当はこういうことはあまりしたくはないけれども、第8防衛区に直接艦隊砲撃だ。」
 そんな――リーダーの男ハンターは耳を疑い、話をした。
「ちょっと待った――確かに、連中を排除するつもりならいいと思うが――やつらに代償を払わせる意味でも。 だが、あれから戦艦の位置はあまり変わっていないようだが? あそこからこの場所に攻撃が届くのか?」
 それだけではない、敵の潜水艦も近くにいるため、攻撃中に襲撃される恐れがある、 そうしたら戦艦側も危ないのでは? それに対してアールは答えた。
「大丈夫、戦艦のあの位置は潜水艦が襲撃してくることを見越して遠目に置いたんだよ、 だから攻撃中に襲撃される心配はない、砲撃した後に下がればいいだけの話だよ。 で、戦艦の長射程から計算してあの位置はギリギリ届く位置のハズだから十分だよ。 こう見えて、間接攻撃兵器や潜水艦のような隠蔽兵器の扱いは得意なもんでね、すべて織り込み済みだよ。 それに――敵の潜水艦はこの辺りを周回しすぎてそろそろ燃料も危ない、 やつらがのさばっているのも時間の問題というわけだね。」
 すべては計算のうちということか、どこまでの能力かはまだ未知数だが、 アールは一応それなりに知恵が回る将軍であることは間違いなさそうである。